寝起きの女の子は可愛い
6日目
「おはようございます、扇様」
「ん……おはよう。――って、この惨状は一体?」
いつも通り俺の隣に立って起こしてくれるアイルに挨拶を返しながら起き上がると、眼下に広がる光景が目に入った。
物は散乱し布団はぐちゃぐちゃ、しまいには全員寝相悪すぎない?と思わせるような寝方になっていた。
「アイルさんや、この部屋はいつからごみ屋敷にクラスチェンジしたのかな?」
「つい数時間前かと」
「ああ、結局俺以外の誰も布団で寝なかったのね。で、片付けもせずに寝落ちしたと」
「恐らくは」
「はぁ……」
俺は思わずため息をつく。
だって、これ片付けるの俺だよ?
この惨状を見てため息が出なかったらそれは余程の綺麗好きか、潔癖症くらいだよ。
俺はどちらも違うので普通にため息が出ます。
はぁめんどくさい。今日もいつも通り学校だからなぁ、掃除片づけは帰ってきてからか。
「アイル、今何時?」
「8時05分でございます」
「……………………はい?」
「8時05分――いえ、ただいま06分になりました」
寝起きでまだ寝ぼけている俺にはアイルが何を言っているのか一瞬分からなかった。
だってこの学校の登校時間8時30分だよ? なのに今はその25分前? まだ何も用意してないのに? ヤバくね?
俺はアイルに指示を出し、慌てて爆睡している星野と藤原を起こした。
「アイル、おにぎりか何か、移動しながら食べれるやつを急いで作ってくれ!」
「かしこまりました」
「おい! 星野ッ! 起きろ! 遅刻! 遅刻するから! 早く!」
「ふぇ? まだ、もう少しだけ…………あと、3時間で……起きる、から……むにゃむにゃ」
「いや、『むにゃむにゃ』じゃないから! 遅刻っつってんだろ!」
「ぶー…………」
「こいつ……っ」
起きる気配が全くない。
こいつ朝弱かったのかっ。
どうにかして起こさないと。……いや、ひとまずこっちは後回しだ。
「藤原! お願いだから起きて――――って、なんで起きてんの!?」
「え、だって起こされたから!」
俺が藤原を起こしながら振り向くとそこにはすでに起き上がっている藤原の姿があった。
え、何こいつ。朝強かったの? 学校生活一番の驚きかも知れない。
そして、朝からこのハイテンション。
いったいどこからこの元気は出てくるのか。
「って、星野! 早く起きろ! 藤原ですら起きてるんだぞ!」
「僕ですらって何!?」
「いいから早く!」
「うー…………八重、樫が~キスしてくれたら~起きる~」
「…………お前今の状況わかってる? 遅刻するって言ってるよね?」
「は~や~く~」
「扇君! 早くしないと遅刻するよ!」
「いや、だからって…………」
俺はこっちの気も知らないで眠っている星野を見る。
さすがにここでキスするわけにはいかない。
これはもう多少強引な手段になっても文句は言えないだろう。
自業自得だ。恨むなら俺の呼びかけで起きなかった自分を恨んでくれ。
「んァ……ッ」
俺はそっと星野の手を握る。
すると星野から甘い吐息が漏れた。
不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。
だがしかし、俺は心を鬼にしてこいつを起こさなくてはならない。許してくれ星野。
そう思いながら俺は呟いた。
「【雷纏】」
「~~~~~~~~~~~~ッ!?」
ピクピクと痙攣している星野。
最小出力の【雷纏】は静電気よりも多少ビリッと感が強い。
寝起きにされたらかなりのショックを受けるだろう。
だから言ったのに、早く起きろと。
「八重樫? アンタ寝てる女の子に何してるの!? そこはもっと優しく起こしなさいよ!」
「お前俺が何回起こしたと思ってやがる……! 自業自得だ! 遅刻って言ってるだろ!」
「はぁ? アンタ何言って――って遅刻じゃん! ヤバッ」
「俺たち先に行ってるからな~」
「はいはい!」
「じゃあね! 扇君、アイルちゃん! また学校で!」
そう言いながら星野と藤原は出ていった。
はぁ、やっとか。さて、俺も着替えよう。
俺は《創造主》を発動させ、寝間着を制服に作り変えた。時間がない時はこれが一番早い。
そして急いで顔を洗い、歯を磨いた。
恐らくこの後飯を食べることになるがこの際仕方がない。
「よし、行くか。転移よろ」
「はい、扇様。【空間転移】」
一瞬で俺たちの身体を光が包み込んだ。
すると、次の瞬間には学校の昇降口まで移動していた。
辺りにいた数人の生徒がこちらを見て驚いていたが、知ったことではない。
とりあえずこれで遅刻は回避だ。
「到着しました」
「おう、ありがとう」
俺たちは自分の教室へと移動した。
俺が教室に入るのと同時、クラスの連中がざわついた。最初はまたアイルと二人で登校したからかとも思ったが、どうやら違うらしい。
いったい何が? そう思っていると、その答えはすぐに明らかとなった。
「なんだこれ……」
それは封筒だった。
大小だけでなく色までもバラバラな封筒が俺の机上に散らばっていた。その数は8枚程度。
ラブレター……な訳ないよな。
なんだこれ、イジメ?
俺はそっとその中の1枚を手に取り、封を切った。
中から手紙を取り出し目を通す。
「は? おいまさか……ッ」
2枚目の封筒を手に取り同じように封を切って手紙に目を通す。
手紙はほとんど同じ内容だった。違うのはそこに書いてある序列と名前のみ。
「扇様? 一体どうされたのですか?」
「はははっ、やってくれるな。まさかここまでとは」
「扇様?」
「序列戦だよ、アイル」
「序列戦、ですか」
「ああ、その申し込み。これ全部な」
「全部? 多いですね。連戦となれば少し面倒――」
「違う。全試合、試合時刻がまったく同じだ。つまり連戦じゃない。完全な一対多の試合だ」
そう、そこに書いてある指定時刻はすべて同じだった。つまり俺は複数人を同時に相手取ることになる。
「面倒ですね」
「まったくだな。いや、連戦じゃないだけマシと考えるべきか?」
「どうしましょうか」
「どうするも何もやるしかないだろ? 断ることはできないんだから。それに、別にいいよ。相手が何人いようが俺が勝つし」
「もちろんでございます」
俺は手紙をいったん鞄の中に直し席に着いた。
程なくして先生が到着しHRが始まった。
星野と藤原が遅刻したのは言うまでもない。




