お泊り会 後編
俺と藤原は寮へと続く道を帰っていた。
「ねえ、扇君」
「ん? どうした?」
「あの人たち本当に逃がしてよかったの?」
「ああ、別にいいよ。あんな奴らが何人来ようが敵じゃないし。それに、相手の出方も見てみたいしな」
俺はアサシンたちを捕らえた後、あっさりと逃がしていた。一応、
「今回だけは見逃してやる。だが、次は容赦しない。来るなら命を捨てる覚悟で来いよ? 一人ずつ拷問した後に殺してやるから」
てな感じで脅しは掛けておいた。
本音を言えば面倒くさかったって言うのが心情だが、相手の出方が見たいのは本当だ。
今回の一件で俺の強さもある程度は予測できるだろうし、もう攻めてこないならそれで終わり。
もしもまた来るなら容赦はしない。【催眠】で洗いざらい情報を吐かせてやる。
って、ことで自己完結してる。
まあどうせ来るだろうしな。今回逃がしたところで何も問題なし。
そんなことを考えているとようやく寮に到着した。
「なんか、ここまで随分と長かったな」
「そうだね。ようやくって感じがするよ」
「だな」
俺たちは階段を上り俺の部屋へと向かう。
「ただいま」
「買ってきたよ~」
そう言いながら中に入ると、星野がベッドで仰向けになって倒れていた。
アイルはいつも通りクッションの上に正座。
星野は返ってきた俺たちを一目見るとバッと飛び起きた。
「遅い! 空腹であたしを殺す気なの!?」
「いや、悪い。ちょっとしたトラブルがあってな」
「そんなのは後から聞くから今は食べ物!」
「はいはい」
星野の要求を呑んで買ってきた食料を出して、準備を始める。
最初はさすがに焼肉はどうかなぁと思っていたが予想以上に喜ばれた。藤原グッジョブである。
「お帰りなさいませ、扇様」
「おう、ただいま。悪いけどアイル、準備するの手伝ってくれるか?」
「かしこまりました」
そうして準備を始めて十数分後、部屋には肉の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
プレートは元から部屋にあったものを利用している。
さて、そろそろ食べ頃ではなかろうか。
「それじゃあ――いただきます」
「いただきます」
「いた……何?」
「何それ扇君!」
俺とアイルがいただきますと言うと、星野と藤原が頭上に”?”を浮かべた。
もしかして通じないのか? 確かに今まではアイルと二人きりの時しか言っていなかったが、まさか通じないとは。
「あ~いただきますって言うのは、食べる前の挨拶みたいなものだから、気にしなくていいよ」
「へ~そういうのもあるんだ。それじゃあ、いただきます」
「いただきます!」
そうして俺たちは焼肉を食べ始めた。
噛むたびに肉のうまみが口の中に広がって、めちゃくちゃうまい。
が、そこでいくつかの問題が発生する。
一つは米がない問題。ああ~白米が欲しい! 焼肉には米がないとダメだろ! 生粋の米好き日本人の俺にとって、焼肉時に米がないのは死活問題である。
ここではギリギリ我慢するが次はアイルに炊いてもらおう。
もう一つはタレがない問題である。
正確に言えばこの世界にも焼肉の時に付けるたれはある。
が、日本のそれには遠く及ばない。
これはこれで美味しいのだが、やはり慣れ親しんだものの方が美味しいと感じる。こんど《創造主》で創っておこう。
改めて、日本の食品メーカー偉大さを痛感した瞬間だった。
「扇様、少しよろしいでしょうか?」
肉をお腹いっぱい食べ終わった後、アイルが俺に声をかけてきた。
「どうした?」
「その、その腰につけている剣はもしや……」
「ああ、そう言えば消すの忘れてたな。アイルの考えている通り、この剣は【ダークネスドミネーション】だよ」
いくら魔力が異常な俺でもこの剣を出し入れするのはきついからな、念のため出しておいたのだ。
「やはりそうでしたか。どうしてそのような剣を?」
「いろいろと事情があってな――」
俺は藤原と一緒に帰る途中での出来事を説明した。
「そんなことがあったんだ。ごめん、遅いとか言っちゃって」
「いや、別にいいよ。遅かったのは確かだし」
珍しく星野が謝っている。もしかしたらこの後何か起こるかもしれない。
なんて失礼なことを心の中で考えていると、アイルが聞いてきた。
「扇様、その賊の居場所は分かりますか?」
「わかるけど……どうする気?」
「いえ、扇様の手を煩わせる害虫を駆除してこようと思いまして」
「物騒だなオイ。やめとけよ? せっかく逃がしたんだから勿体ないだろ」
「かしこまりました」
アイルはすぐに納得してくれた。
ただ次はわからないな。もしもアイルのいるところで襲われでもしたら、俺ではなく相手が殺されてしまいそうだ。
アイルが居なくても自分で探し出して始末しそうで怖い。
俺はそんなことを考えながら剣を消――――そうとした瞬間、星野から声がかかった。
「それで八重樫、その剣って何なの?」
「ああこれか? これは【ダークネスドミネーション】っていう俺の”能力”だよ」
「その剣自体が”能力”? そんなの初めて聞くけど」
剣自体が”能力”っていうのは珍しいのか?
「まあ、この剣は少し特別だからな」
「そうなんだ」
「すごいんだよその剣! 敵の6人を一瞬で捕らえちゃったんだもん!」
「お、おい藤原?」
「へ~そんなに強いんだ?」
「星野?」
星野が良いことを聞いたとばかりに笑う。
「現存する剣の中では最強だと思われます」
「……アイル、お前もか」
これはよくない。
非常に良くない雰囲気だ。
このままでは剣の力を見せろとか言われかねない。
そんなことができないのは転生初日に検証済みだ。
あんなものを何度もぶっ放していたら地形が変わるどころの騒ぎではない。国が亡びる。
よって、話を多少強引にでも切り上げることにした。
「はいっ! この話は終了! って言うかお前らいつまで俺の部屋にいるつもりなんだよ。もう遅いし自分の部屋に帰れよ?」
「ええ~今日はここに泊まってく」
「は?」
「だって襲われたとか聞いちゃったらさ、心配じゃん。寮の中が安全とは限らないんだし」
「いや、まあ確かにそうだけどな。でもそれは……」
「じゃあ僕も泊っていく!」
「お前もかよ」
なんでだろう、勝手に話が進んでいる気がする。
部屋の主俺よ? 泊ってくの? マジで? まあ、別にいいけどさ。
この部屋そんなに広くないんだよ。
「この部屋で寝るにしても4人は狭すぎるだろ」
「大丈夫だって。問題なし」
「そうだよ扇君!」
「はぁ、しょうがないか」
俺は諦めのため息をついた。
と、そこでアイルが視線を向けているのに気が付いた。
「あの、扇様……」
「ん?」
「私も、その……泊ってよろしいのでしょうか?」
「いいだろ別に。今更一人増えても気にしないって。それに、さすがに女子一人を泊めるわけにもいかないし。ああ、もちろん帰りたいならそれでも――」
「よろしくお願いします」
「お、おう」
アイルが俺の言葉を遮るという大変貴重な瞬間だった。
俺たちは手分けして焼肉のかたづけをする。
そして、各自いったん部屋に戻り風呂に入るなどの準備を済ませて、改めて俺の部屋に集合と言うことになった。
俺は風呂に入り歯を磨いて、寝間着に着替えた後、みんなの寝るスペースを用意した。
明日は普通に学校なので早めに就寝することにする。
実際に眠れるかは別として。と言うか他人の家に泊まる時、あっさりと寝るなんてことはないだろう。
このメンバーに限って言えばなおのこと。
案の定、俺の読みは的中し、明日の学校での寝不足は確定するのであった。
ブックマークありがとうございます!
お泊り会とかサブタイに書いておきながら全然要素なくない? と思っている今日この頃です。次からはもっと慎重にタイトル決めます。




