真実が正解とは限らない
HRが終わり、程なくして1限目の授業が始まる。
今日の時間割は1・2限目が座学で、3~6限目までが実技だ。
相変わらず実技の割合が多いがそこは問題ない。
実技はいろいろな種類があって面白いし、何より楽しい。
よって実技は問題ない、のだが……問題なのは座学の方である。
今日の座学はこの世界の歴史に関してらしいが、これが全く以てわからない。
さっきから「魔族が~」とか「ダンジョンの数が~」とか「この世界を作った万能神様が~」とか何とか言っているが、さっぱりわからない。
日本の高校生をしていた時から歴史は嫌いだった。
そもそも教科書に載っている人物名が覚えられない。
過去の偉人や武将の数が多すぎるのが原因だ。
顔と名前が一致しないし同じような名前が何人もいるし、漢字が難しすぎる。
載せる人数もっと減らせよ。
それに加えてその人物が起こした革命の名前とか政治とか貿易とか全く以て意味が分からない。
そんなものを覚えてこれから先どうしろと言うのだろうか?
その知識をもって過去にタイムスリップできるならまだしも、死んだ人のことを学んでどうしろと?
全く以て時間の無駄だ。
そんな無駄なものに割く記憶容量など持ち合わせていない。
それなら二次元の美少女の名前を覚えた方が有意義な時間の使い方と言えるだろう。
大体、歴史なんて――――――(以下長文)
こほん。まあ、そんな訳で歴史が超が付くほど嫌いな俺だ。
それはどの世界に行っても、例え異世界であろうとも変わらないらしい。
それでも望み焦がれた異世界のことだ。これまでにないくらい奮闘しようとした。
が、それでもさっぱりだった。
それも当然だ。そもそもの話として基礎ができていないのだから。
この世界の人間が持つ一般的な知識(具体的には日本で言うところの小学生で身に着けるレベル)というものが俺には欠けていた。
そんな俺にいきなり高校2年生の授業について行けと?
先生の質問に答えろと?
この世界の歴史に関する問題を解けと?
……馬鹿なのか? 出来る訳がないだろ! アホか!
それなのにあの歴史教諭、俺をピンポイントで指名してきやがる。
最初の方は「わかりません」と答えていたがさすがに何時までもそれではダメだと思ったので、指名されたらこそっとアイルに教えてもらったりしたのだが、それでも答えるまでに時間が空く。
その時間が妙に恥ずかしい。
誰しも一度は体験したことがあるのではないだろうか。
教師に当てられて答えられずに沈黙するときのあの感覚。
異世界にまで来て俺は一体何をしているのだろうか。
ちなみに言うと、この学校の座学は歴史だけじゃない。
数学や魔法学なんかもある。
そしてそれらすべてに共通する問題があった。
そもそも、字が書けないとどうしようもない、という真実。
言葉は【言語理解】で普通に通じるし、文字も読めるので失念していたが、世界が変われば当然文字も変わる。
日本語は書けても異世界語は書けないという真実……もとい真理がそこにはあった。ダメじゃん。
「はぁ……」
思わずため息をついた。そして思う。この学校でこれから先も学んでいくのならこのままでは不味い。
どうにかして打開策を打たねば。
と言う訳で創りました。
その名も、【完全回答】。
俺のした質問に対し完全な回答をしてくれるという素晴らしい”能力”だ。
もちろん文字も一緒に。
これは神界にある”世界の記憶”とでも言うべきモノに《創造主》で無理矢理にアクセスしその記憶を読み取り、完全な回答を構築しているのだ。
自分で言うのもなんだがすごい”能力”だと思う。
さあこれですべての問題は解決された! 来るなら来い教師! 受けて立ってやる!
――と、思っていた時期が僕にもありました。
結論から言おう。【完全回答】は完全であるが故に正解ではなかった。
もっと言うとその事柄に関する完全な回答がその問題の正解とは限らないということだ。
これでも分かりづらいか。じゃあ例えばだ、
結婚しているAさん(♂)が妻のBさん(♀)の誕生日に送るプレゼント選びをしていたとする。だが、Aさん(♂)は何にしたら良いのか分かりません。そこで仕事の同僚であるCさん(♀)にプレゼント選びを手伝ってもらいました。一緒に商品を見て回ったり、飲み物を飲みながら何が良いのかを相談したりしていました。
さて、ここで質問。
もしもこの場面をたまたま居合わせた知り合いのDさん(性別不明)が目撃したとする。
この時Dさん(性別不明)はこの場面をどう解釈するだろうか?
――どう考えても浮気現場にしか見えないよな?
さらにそれを多くの人が知ったとする。
するとあら不思議。実情はどうであれ、このことを知った人たちにとっての正解は『浮気をしていた』と言うことになってしまう。
例え、本当はただの『プレゼント選び』だったとしても。
って、何言ってんだろうな俺。
なんだかよくわからないことを言っていた気がするが、まあそれは置いておくとして。
俺が言いたいのは【完全回答】は本当のことを読み取ることはできても、みんなが認識する正解は読み取れない、と言うことだ。
どんなに語り継がれてきた歴史も人が伝える以上どこかで誤差が生じる。
数百年も前のことなら尚更だ。
俺はそのことをすっかり失念していたのである。
俺が完全な回答を言った時のみんなの俺を見る顔と言ったら…………黒歴史だ。
まごうことなき黒歴史だ。
みんなッ、そんな可哀そうなものを見る目で俺を見ないでくれッ!
「はぁ……」
今日何度目かもわからない溜息を吐く。
はぁ、メイの黒歴史がどうのとか言ってる場合じゃなかったわ。
今度メイに謝ろう。そうしようそうしよう。
俺が現実逃避気味にそんなことを考えていると、教室の窓から一枚の封筒が何処からともなく舞い込んできた。
それを見たクラスの連中が盛り上がる。
昨日も何度か見た光景で、アレは序列戦の通知である。
あの封筒の中には一枚の手紙が入っていて、そこには対戦相手の名前と序列、対戦日時が記載してあるらしい。
俺はまだ貰ったことがないので直接見たことはない。
俺もそろそろ貰う頃かなぁ。
でももう少し後がいいなぁと思っていると、まるで俺の思いをあざ笑うかのように、舞い込んできた一枚の封筒はフラフラと揺れながら俺の机へと落ちた。
「はぁ、なんとなく俺かなぁとは思ってたけどさ……。なにもこのタイミングで来なくてもいいだろ」
よりによって、俺が一番落ち込んでいる時に舞い込んできた封筒に軽く苛立ちを覚えた。
だがまあ、ただの封筒に八つ当たりしたところで空しいだけなので、諦めて受け入れる。
そして肝心の中身だが――
「それで、八重樫。アンタの記念すべき一人目の相手は誰だったの?」
偶然にも後ろの席だった星野がそう聞いてきた。
俺は封筒の封を開け中に入っていた紙を取り出す。
そして、目を通しつつ書いてあることをそのまま伝えた。
「対戦相手は序列10位の伊藤洋祐? ……で、対戦日時は……一週間後か」
まさかいきなり序列10位と当たるとは思っていなかった。
今日はとことん厄日だな。
ちなみにこの世界での時間や曜日、一年の日数などは日本と変わらない。
と、そこで俺の対戦相手を聞いた全員が「うわー」と言う嫌そうな声を上げていることに気が付いた。
えっ、それってどういう反応?
「まあ、その、がんばりなさいよ?」
「どんまい扇君! でも大丈夫だよ! 次がんばればいいから!」
「いやホントにどういう反応!?」
星野だけではなく藤原までもドンマイと声をかけてくるというこの状況。
いったいどうしたのだろうか?
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