藤原容疑者
勢いよく開かれた扉から出てきたのは黒髪の可愛い系男子、一限目の対人戦でアイルと試合をしていた藤原護だった。男の娘だな。
藤原はまっすぐこちらに歩いてくると、まるで今までずっと聞いていたかのように話しかけてきた。
「話は聞かせてもらったよ、梨乃亜さん!」
「藤原……どうしてアンタがここに?」
「それは、昼食を食べに行く途中で屋上に行く三人が見えたからね」
「見えたから何?」
「付いて来ちゃった!」
「完全にストーカーじゃん! 何してんの!?」
悪びれもせず、そう言い切った藤原に星野が思わずと言った感じでツッコんだ。
「ご、誤解だよ! 僕も放課後に学校を案内しようと思って……」
「それでもストーカー行為に変わりはないでしょ。このストーカー」
「ストーカーだな」
「ストーカーですね」
ストーカー行為に対する非難の嵐。
これは仕方がないと思う。
どう考えてもこいつが悪い。
でも、どうやら理由があるらしい。
念のため聞いておいてやろう。
「うぅ、勝手に付いて来たのはごめん。でも出て来れなかったのは理由があって――」
藤原容疑者の話を要約すると、俺たちが屋上に上がっていくのが見えたので、話をしようと付いて来た。
が、俺たちがあまりにも楽しそうに話していたので完全に入るタイミングを見失い、ズルズルと引き伸ばしていった結果、このタイミングになった。
このタイミングなのはちょうど校内を案内するという話が出てきたため。
あわよくば自分も参加しようと考えたらしい。
と言うことらしいのだが? 皆さんどう思っただろうか。
俺には新たな罪を自白したようにしか聞こえないんだが。
「ストーカーに加えて盗聴か、もはや現行犯で逮捕していいんじゃないか?」
「賛成ー」
「異論はございません」
「待ってくださいお願いします! 僕まだ前科持ちにはなりたくないです!」
藤原容疑者の現行犯逮捕は全会一致で可決された。
にもかかわらず、またも待ったをかけてきた容疑者。
ちょっと楽しくなってきたな。もっとやれもっと。
俺がそう考えていると、星野が逃げ道をふさぐように追撃した。
「えーい黙りなさい! どう言い訳しようともアンタが女子二人(男子一人)にストーカー行為を働いた挙句、その会話を盗聴したことに変わりはないの!」
「うぐっ……こ、この埋め合わせはちゃんとしますから、どうか許してください!」
「……具体的には?」
藤原が埋め合わせをすると言ったとたん、星野がニヤリと笑ったように見えたが気のせいだろうか?
そして、俺とアイルが完全に空気な件について。
「……今度の休日に、ご飯を奢ります」
「……一回だけ?」
「えっ?」
「天下の30番台様がご飯をたった一回奢るだけ?」
「え、え~と、朝昼晩の三回……」
星野はニコニコしながら黙って聞いている。
そして、藤原は悟った。ああ、これもっと引き伸ばす気だ、と。
「じゃあ、二日間?…………三日?…………一週間……………………一ヶ月、これ以上は勘弁してください……」
「はぁ、仕方ない一ヶ月で手を打ってあげる」
「ありがとうございます!」
「あ、ここにいる三人、全員にだから」
「ありがとうございます……」
泣きそうな藤原、ほくほく顔の星野。
完全にこいつが悪いとはいえ、ここまでくるとさすがに可哀想な気がするな。
あと、一ヶ月は金銭的に無理なんじゃないか?と聞いてみたところ、この学校の生徒には序列に合わせたお小遣い的なものが学校側から支払われるらしい。
当然序列が高ければ高いほど金額は上がるとのこと。
それと週一の序列戦の結果やその他の行事の戦績でも支払われるらしい。
31位ともなればそれなりにお金持ちだ。
「で、でもこれで、アイルさん達と一緒に、校内案内できるんだよね!」
藤原はすでに開き直っていた。天に向かってガッツポーズをしている。
逞しいな、素直に尊敬するよ。
俺が少しだけ尊敬の念を送っていると、またも星野が追撃した。
「案内料金は別だから」
藤原はすでに地面に手をついて泣いていた。
もうその辺で勘弁してやれよ……。ほんとに泣いてるぞこいつ。
そう思っていると、大きな鐘の音が鳴り響いた。
昼休み終了のチャイムだ。それが聞こえたとたん星野は立ち上がった。
「昼休みも終わったし、教室に戻ろっか」
「……お前容赦ないな」
「同感です」
俺とアイルがそう言うと星野はフッと笑みを浮かべながら返した。
「乙女のプライベートに手を出したんだから当然のでしょ?」
「一応俺もいるんだが」
「細かいことは良いの。大切なのはそこに女子が居たかどうか、なんだから」
「そっすか」
乙女のプライベートに手を出した罪は重かったらしい。
俺も今度から気を付けよう。
女子は怖い、それはどこの世界も変わらないらしい。
軽い畏怖を覚えながら俺たちは立ち上がった。
そして屋上の扉へと向かう。……藤原を置いて。
俺は未だに地面に手をついている藤原に心の中でがんばれ、とエールを送りながら屋上を出た。
そして放課後
先生の話が終わりみんなが下校し始めた頃、アイルと星野、そしてげっそりとした藤原は俺の机の周りに集まっていた。
「それじゃあ、行こうか」
「よろしく頼む」
「うむ、任せなさい」
そう言いながら俺たちは教室を出た。そして案内が始まる。ちなみに藤原は口出し禁止だとかなんとか。星野の奴、マジで鬼だな。
それから数時間後、大方の案内が終了した。そして思ったことが一つ。
この学校広すぎないか?
そう、この学校はでたらめに広かった。
500部屋以上ある寮が3棟。
東京ドームの三分の二ほどの大きさの闘技場が5つ。
東京ドームより広いグラウンド。
食堂が敷地内に複数。
特別演習場が3つ。
そしてバカみたいに広い校舎。
それらが軽く入る敷地。
頭がおかしいとしか思えない広さだった。
そのせいで案内だけで数時間も要してしまった。
学校を外から見たときはそこまで広いとは思わなかったが、どうやら敷地内の空間を無理やり捻じ曲げて広げているらしい。
さすが異世界ファンタジー、やることがぶっ飛んでるな。
でも、言ってみれば俺の《創造主》の劣化版だ。
なんてったって《創造主》は世界を創造することができるからな。
そう考えると大したことは……いや、やっぱりすごいわ。
俺はまだ世界を創造するイメージなんてできないし。
あと、この規模を事前にリサーチして、完全に暗記していたアイルが優秀過ぎる。
あとでちゃんと労ってやろう。
「これで終わり。何か質問があれば受け付けるけど?」
どうやら質問を受け付けてくれるらしい。と言っても特にない気がするな。少し考えてみようか。
「私は特にございません」
「俺もこのバカみたいな広さ以外は特に……いや、一つだけ質問いいか?」
「おっ、なになに?」
「僕にも質問していいよ!」
「アンタは黙ってなさい」
「え~!」
「ははは……」
俺はそんな星野と藤原のやり取りに苦笑しつつ、質問した。
「さっきから、というか昼休みから気になってはいたんだが、闘技場で何かやってるのか?」
そうさっきから何やら歓声のような声が聞こえてくるのだ。あれは一体何なんだ?
「あ~それね、序列戦よ、序列戦」
「序列戦って言うと確か、週に一度学校側が決めた相手と戦わなくちゃいけないっていうアレか」
「そうそれ。八重樫とアイルもすぐに連絡が来ると思うから早めに準備しておいたほうが良いよ。っと言っても余裕かも知れないけどね」
そう冗談めかして言う星野。
まあ正直負ける気はしないが、準備しておくに越したことはないだろう。
忠告はありがたく聞いておく。
ちなみに、星野の呼び方がアイルさんからアイルに変わっているのは昼休みに打ち解けたからだ。
「じゃあこれで解散ね。また明日」
「おう、また明日」
「さようなら」
「僕、結局何もしてないような……」
こうして、校内案内は終了し、解散の流れとなった。




