アイルの心象 アイル Side
今回はアイルの目線で書いてみました。
アイル Side
扇様に、”魔法”を教えてほしいとお願いされてしまいました。
ここで大切なのは”魔法”を教えると言うところではなく、お願いされたというところです。
それは扇様が私を頼ってくださったということ。
光栄です。そしてとても嬉しかったです。
誰かにお願いされることはこれまでもありました。
これでも最高位天使ですから、それなりに忙しかったのです。
私にお願いをするのは神々です。
神界では……というよりは天使の間では、神々にお願い事をされることはとても名誉ある事とされています。
これは神々にお願い事をされるのは高位の天使のみだからという理由です。
当然私も例にもれずお願いされることを誉れだと思っておりました。
ですが、嬉しいと思ったことは一度もありません。
お願いされるといっても所詮は天使。
そのほとんどは雑用ばかりです。雑用を押し付けられてうれしいと思う人がいますか? つまりはそう言うことです。
ですがこの下界に降りて……いえ、扇様に出会って私は初めてお願いされることを嬉しいと思いました。
理由はよく分かりません。
ただ扇様にお願いされると何故か胸が高鳴るのです。
とても心地のいい、温かい気持になるのです。
この気持ちは何でしょうか? 今はまだよくわかりませんが、このまま扇様とともに歩んでいけばいずれは分かる気がします。
ですからその道中、扇様が私を頼ってくださるというのなら私はそれに全力でお応えします。
アリス様に、ご奉仕しろと命令されているからではありません。
あくまでも私自身の意思でそうしたいと思うのです。
今日はその一歩目にしましょう。
扇様に今まで以上に頼ってもらえるようになるための道です。
頑張らなくてはなりません。
その為にもまずは――目の前の男との試合を”神の魔法”で終わらせましょう。
「それでは両者、準備はいいな? では――――始めっ!」
担任教師から始めの合図がかかる。が、相手の男子生徒から声をかけられました。
「ね、ねえアイルさん!」
煩わしいですね。早く終わらせて扇様の元へ帰りたいのですが。……試合は始まっているのです。攻撃しても構わないのではないでしょうか? いえ、ここは堪えましょう。このようなことで私が短気だと思われたくありません。果てしなく面倒くさいですが、仕方がありませんね。
「なんでしょうか」
「アイルさんって八重樫君……だったよね確か、と仲がいいみたいだけどどういう関係なの?」
「……関係?」
いきなり何の話をしているのでしょうか。
私と扇様の関係はご奉仕する側とされる側……これは以前、扇様から言い方を考えろと言われていましたね。
私としたことが二度も同じ過ちを犯すところでした。
気を付けなくては。そうですね、この場では主従関係、とでも言っておきましょうか。
これならば扇様にもご納得いただけるはずです。
「私と扇様の関係は――」
私が答えようとすると、男子生徒はそれを遮って言った。
「もしかして、恋人同士……だったりする?」
「………………はい?」
いったいこの男は何を言っているのでしょうか?
私が扇様と恋人など烏滸がましいにもほどがあります。
扇様に失礼です。
それに、扇様にはアリス様という人が――――――こほん、これはアリス様に言ってはダメだと言われているのでした。
それはさておき、ここで私との噂が立てば扇様のこれからの学校生活にかかわる問題です。
それだけは避けなければなりません。
早く否定しておきましょう。それが最善です。
「私と扇様が恋人同士ということはありませんよ。絶対にです」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ……。そっか、そうだったんだね。少しだけ安心したよ」
いったい何を安心したというのか。
扇様以外の人間の考えは全く以て理解できません。
それよりも、いつになったら始めるというのでしょうか?
これ以上、扇様を待たせるわけにはいかないのですが。
「ふ~、よし! 確認も取れたことだし、じゃあ始めよっか!」
「……そうですね、始めましょうか」
ようやくですか。しかし、いくらあなたが張り切ったところでこの試合は一方的なものになるでしょうけど。
扇様に一発でも多くの”神の魔法”を見てもらうために、精々私の攻撃を耐えてくださいね。
その為にわざわざあなたを選んだのですから。
「それじゃあ行くよ! 【結界術】ッ!」
男子生徒がそう叫ぶと、自身の周りに薄い膜が張られ、球体のように覆われた。
【結界術】とは、その名の通り結界を張るための術。
使い手自体は数多くいますが、【結界術】には使う人によって特性が変わる、極めてまれな性質があります。
この闘技場に張ってある結界もその”能力”によるものでしょう。
そしてこの男子生徒の持つ【結界術】の特性は、どんなに強い攻撃も一撃だけは完全に無効化するというもの。
どうです。私の目的にぴったりだと思いませんか?
と言っても”神の魔法”を普通の”能力”である【結界術】に防げるのかどうかは疑問ではありますが。
恐らく大丈夫でしょう。
いざとなれば蘇生して差し上げます。
いえ、扇様の”権能”《死霊吸収》で吸収してもらうのもいいかも知れませんね。
さて、私がこの男子生徒を選んだ理由はまだあります。
「【重複】ッ!【オートバリア】ッ!」
【重複】と【オートバリア】の力はほとんど同じと言ってもいいです。
どちらも一度前に使った”能力”を自動で発動し続ける、という”能力”です。
これにより、男子生徒を覆う結界は二重、三重……そしてついに五十枚を超えました。
「もうそろそろいいでしょうか?」
「いい、というより早くしないと手遅れになるよ?」
忠告してくる男子生徒。
黙って張ればいいものを。
あなたが結界をどれだけ張れるかが私の目的の要だということを、理解していないようですね。
ですが、いいというのなら始めさせてもらいましょう。
「そうですか。では――――『神炎』」
私がそう呟くと周囲に大玉サイズの純白の炎が現れた。
その数は4つ。私の周りで旋回しながら、ゆっくりと揺らめいている。
だが、次の瞬間一気に男子生徒の元へと飛来した。
今までの揺らめきが嘘だったかのような勢いで迫りくる炎の玉に男子生徒は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
あの顔は自分の結界を信じ切っている顔だ。この炎をすべて受けたとしても結界が四枚破れるだけ、破れたらまた張ればいい、そう思っているのだろう。
だがこの男子生徒は知らない。
この炎が紛れもない”神の炎”だということを。
そして私にも誤算があった。私自身もこの男子生徒の結界を過信していた。
たかが人間の張る結界が”神の魔法”を防げるわけがないというのに。
「こんなもの――――って、え……なんッ!?」
飛来した純白の炎の玉は一瞬で男子生徒の張った結界を突き破ってしまった。一発目で。
私は慌てて三つの炎の玉を男子生徒に当たる前に消し去った。
危うく殺してしまうところでした。
そこには丸焦げになった男子生徒がいた。
大怪我を負っているとはいえ、一発目で死に至らなかったことは称賛に値します。
ですが、これでは戦闘続行は不可能ですね。私としたことが……。
「そ、そこまでッ! 勝者――アイルΔッ!」
私は闘技場の結界が一瞬だけ解けるのを感じた。
そして、男子生徒の傷は治り、そのまま起き上がる。
それを見たあとすぐに観客席へと上がっていった。
男子生徒が何か言いたげな様子だったが、そんなことは知ったことではない。
今回の試合を見て扇様がどう思われたのか、それだけが問題だ。
私は期待少し、不安多数の状態で扇様の元へ向かった。
できれば褒めてほしいと思いながら。




