二人目の美少女
女神と息抜き。
なんだか薄い本にありそうだな。嫌いじゃない。
『女神ってね、疲れるのよ。だからお願い、私の息抜きに付き合って?」
そう言って俺の肩にもたれかかってくるアリス。
間近で見た彼女はそのすべてが美しかった。
彼女の吐息やほんのりと朱色に染まった頬、そして女の子特有の甘い香りと柔らかさ。
それらすべてが俺の男としての感情を刺激する。
童貞には少し刺激が強すぎるのではないだろうか。
『あら緊張しているの? 大丈夫よ。全部私に任せて』
その一言で俺の中の何かが切れた。
既に俺の聖剣は臨界点を迎えている。
俺たちはそのままもつれるように倒れこみ、一日中求め合った。
…………
……
ここまでが妄想です。
あったら良いな、というかあったら良かったのにな、という妄想です。ありがとうございました。
まあ、そんな大人の息抜きは残念ながらなかったが、貴重な体験だったことは間違いない。
基本は雑談だったが、アリスはいろいろなことを教えてくれた。
神界のこと、神様のこと、天使のこと、神界から見た下界のこと、そしてアリス自身のこと。
俺も地球にいた時のことなんかをたくさん話した。
楽しそうに聞いてくれることが嬉しくてついつい話し込んでしまった。
女の子とまともに話をしたのはいつぶりだろうか?
俺は別に不細工というわけではない。一般的な顔だ。
が、オタだったのだ。
学校でオープンオタをしていた時は美少女と話すなんて夢のまた夢と思っていた。
話せただけでも玄関で落とし穴に落ちるという恐怖体験をした甲斐があったというものだ。
「もう少し話していたかったけれど、そろそろ転生の話をしましょうか」
「ついにか」
俺としてもアリスと話せなくなるのは残念だが、待ちに待った異世界転生だ。
否が応でも胸が高鳴ってしまう。
「今からあなたに転生してもらう世界は完全な実力至上主義の世界。特に使命を与えるわけではないのだし、存分に楽しんでもらって結構よ」
「実力至上主義、ってことは何かチートな能力でももらえたりするのか? できれば欲しいです」
「もちろんよ。ステータスは今のあなたと同じだけれど、転生特典として私から一つプレゼントするわ。手を出してもらってもいいかしら?」
なんだろうか。すごく気になる。
俺は言われるがまま右手を前に出した。
それをアリスがキュッと握る。
ああ柔らかい。これが幸せという感情だろうか。
そんなことを考えていると、つないでいる部分が急に光りだした。
それと同時に俺の中に何かが流れ込んでくる。
「終わったわよ。初めての《エデン》使用者ということで、あなたには少し特別な力を与えたわ」
「特別?」
「そうよ。私の力の一つ。平たく言えば”神の権能”ね」
まさかの神様の力だった。驚きだ。期待が高まるな。
「でも神の権能なんて渡してよかったのか?」
「気にする必要はないわ。せっかくの一人目なのだから、ちょっとくらい特別なほうがいいでしょう? と言っても、これも表の理由なのだけれど」
これにも裏があるらしい。
俺は転生できるだけで満足だから気にしない。
いちいち気にしてたら人生きりがないからな。
「あともう一つ。あなたはそのままの格好で転生してもらう予定だけれど、そのままでは右も左もわからないでしょう? それでなくても異世界なのだから。だからしばらくの間だけ私の配下の天使を一人同行させるわ。ナビゲーション役とあなたのお世話係としてね」
「至れり尽くせりだな。それに天使か」
俺としてもそれは助かる。
ラノベなんかと違って順調に町か何かにつくとは限らないからな。
唯一の不安要素が消えたんだ。ありがたい。
「この娘があなたに同行する天使、アイルΔよ。感情表現の乏しい娘だけれどよろしくしてあげてね」
「……よろしく、お願いします」
気が付くとそこには銀髪ロングの美少女が立っていた。
人形みたいな整った顔立ちの少女だ。
この娘が俺のお世話係か。
なんかすげー興奮する。
無表情という点も高評価だ。
「それではお別れね。名残惜しいけれど」
「そうだな、お別れだ。あと言い忘れてたけど、俺を選んでくれてありがとな。おかげで念願の異世界に行ける」
「喜んでもらえてなによりよ。それじゃあまたいつか会いましょう」
足元に魔法陣らしき光が浮かび上がり、俺とアイルΔを包み込んだ。