【超吸収】
「と、いう訳で、あまり時間も無いことだし、さっさと終わらせるとしようか」
俺がそう言うと、二人は改めて構えをとった。
星野も藤原も少なからず疲弊しているが、その目と周囲に張り直されている【結界術】を見る限り、まだまだ諦めてはいないらしい。
ハハッと、自然と笑みがこぼれる。
あぁ、楽しいなぁ。
ダンジョンに潜って魔物を狩るよりも断然楽しい。
別に魔物と戦うのが楽しくないとか、そういうわけではないのだが、俺は対人戦の方が好きだ。
だって、先が読めないだろ?
何が起こるか分からない。
予想外が起きたときの緊張感やワクワク感がたまらない。
……うむ、俺も大分この世界に毒されてきたな。
まあ、そういうのも悪くない気がする。
と言うか、楽しければ何でもいい。
この世界を思う存分楽しむ、それが俺の数少ない目的の一つなんだから。
だから、
「できるだけ、楽しませてくれよ?」
そう告げると、俺はすぐに”能力”を発動した。
「【空間転移】【超吸収】」
一瞬で藤原の後ろに転移し、【超吸収】を発動した状態で【結界術】に触れる。
すると、
――数十枚張られていた【結界術】が一瞬にして俺の手に吸い込まれて消え去った。
「えっ!?」
「自分の【結界術】を過信しすぎだな」
驚愕の表情を浮かべる藤原にそう告げる。
このまま一気に――――と思ったが、高速で飛来するナイフを防ぐため【超硬化】を発動した。
「? 【付与】は無しか?」
ナイフを弾いた後、そう呟く。
さすがに魔力が切れたのだろうか?
と思ったが、そう言えば今は闇の霧が張られていないことを思い出した。
どうしてそこまで【付与】を隠そうとするのかは分からないが……なんにせよ、【超硬化】を突破できない以上、ナイフでの攻撃は取るに足らないということだ。
「――『闇魔法:ハイディング・エリア』! 水よ、我が敵を貫け! 『水魔法:アクア・レーザー』【重複】っ!」
後方に飛びながら素早く詠唱を終えた藤原は闇の霧を発生させた。
その後、俺と藤原とを隔てるように魔法陣が並べられ、その全てから水のレーザーが放たれる。
星野が注意を引き、その隙に藤原が詠唱を終える。
この二人、案外良いコンビなんじゃないか?
でも、悲しいかな。
藤原と【超吸収】は頗る相性が悪いのだ。
それこそ、勝負が成り立たなくなるくらいに。
「【超吸収】!」
俺は改めて”能力”を発動する。
すると、闇の霧も水のレーザーも何もかもが、俺に触れると同時に吸い込まれて消え去った。
【超吸収】は、俺が触れた対象の魔力を吸収し、自分の魔力に変換するという”能力”だ。
ここで大切なのは魔力を吸収するという点。
つまり、ほぼ全てが魔力で構成されている”魔法”に対してこの”能力”を使えば、十中八九完封できる。
メインの攻撃手段が”魔法”である藤原にはきつ過ぎる”能力”だろう。
「悪いな。今の俺には”魔法”は効かないんだ」
「そんな!?」
「ちょっと眠ってな。【睡眠弾】」
「――ぁ……」
睡眠の力を凝縮した弾丸を受けた藤原は、一瞬にして意識を刈り取られその場に倒れた。
残りは一人だけだ。
「さて、どうする星野。まだ続けるか?」
とは言ったものの、闇の霧も藤原の【結界術】もないこの状況で星野に出来ることなんてないに等しいだろう。
そんな俺の考えを肯定するかのように、星野は手を上げ首を横に振った。
「な訳ないでしょ。降参よ降参。あたしの負けでいいわ」
星野がそう言うと、
「そこまで! 勝者、八重樫扇、アイルΔチーム!」
高城先生がそう宣言した。