5.第三者からしたらそういうこと
「さ、とりあえず行こっか。とりあえず必要なものの買い出しね」
「はい」
この刹那と響のやり取りを聞いていて、協会員である松代咲良は内心で焦っていた。こんなのデートじゃん困る。と。
それもそのはず。協会内では刹那のカップリング論争が白熱していて、細かいものまで含めればかなりの量になる。
なかでも多数派なのは、刹那の相棒として広く世間に周知されている月島心路というお嬢様JK勇者とのものか、妹候補として注目を集めている一人、覇道院天歌とのおねロリかという二択が主流派である。
断然おねロリ派の咲良としては、二人きりというのは許容し難い事態ではあるのだ。咲良自身の体験談でもあるが、刹那のタラシスキルは無自覚に高いし、確率で発動する。
なので、下手に惚れられる可能性がある行動は困るという、咲良の私的な理由だ。
これを止めるために、時間稼ぎと天歌への連絡を画策する。勝負は一分一秒を争うのだ。
妹という制度は、魔法少女が新人魔法少女を保護・育成する為に産まれた制度だ。
妹は一生のうち一人だけ選べ、自分の力の一部を譲渡と、魔法の継承を行えるのだ。継承された魔法は、継承するごとにカスタマイズされる。
それ故に『たった一人』の特別を選び、守り尊敬し合う関係が理想となるのだ。
「刹那さん!!」
「えっ? なに急に大声出して」
「その、服……流石に鎧のまま買い物に行くのはちょっと良くないと思います!
ちょっと、何か取ってきます。多分誰かの着替えが余ってるんで!」
「そうかな……そんなに気にならないけど、そこまで言うなら、よろしくね」
咲良は、力技に正論を加えて誤魔化し時間を稼ぐことにした。
確かに今の時代、鎧を着ている人もいるにはいる。ただ、少数派だ。これから行きそうなショッピングモールにはあまりいないだろう。
咲良は、刹那達の死角に入ると、即座にオーブで通信を行う。
「天歌さん。魔法少女協会の松代です。聞こえますか? 今お時間大丈夫?」
『こんにちは。学校終わって帰宅してるからだいじょーぶですっ』
「そっかそっか。刹那さんが今協会に来ていて、このあとショッピングモールに向かうみたいなので、教えようかなって」
『ほんとですか! じゃあ向かいます。ありがとーございます!』
「お待たせしました! これでどうでしょう」
「ちょっと長かったけど、何を用意したんだろ? ……ん? 誰の私物?」
咲良は、天歌への連絡が終わった後、出来うる限り最善っぽい服を探し当てたつもりだ。
物をみて、刹那が疑問に思うのも当然だろう。だってフリフリのゴスロリなのだから。
しかし、あったもののはあったのだから仕方ない。
「誰のかはちょっと確認してないですね。でも似合うんで大丈夫ですよね」
「そういうところあるよね。まあ、誰のかだけあとで確認しといて。お礼しないと」
そんな話をしながら、刹那は響をゴスロリに仕上げていく。
なぜ響が自分で着ないのかと言うと、どうやら服の構造が根本的に違うようだ。
確かに昔の服と現代の服は違うし、現代のような形になる前に分岐してるなら、違う進化を遂げていても不思議ではない。
はたからみて刹那の手際は良くはない。むしろ、躊躇いやぎこちなさがある。この辺りは元々男なので、中々馴れないところだ。
そんな刹那を見て、咲良はまだ心のどこかでは倒さずにいる事に関して、葛藤があるのかな、位に思っていた。
「はい。おしまい」
「……似合っている?」
「うん、似合ってる。髪型にもあってるし……うん、いいんじゃない?」
刹那がそんな事を言いながら、流れるように響の髪を指で撫でるように梳かしているのを見て、咲良はやはりこうなるんだな。呼んでおいて正解だったよ。と内心思っていたに違いない。
この辺りの所作は刹那からすれば、魔法少女になりたての頃に大人や先輩魔法少女にやられてた事から学んでいったことなので、手本が原因だと言える。
「髪もばっちり。それじゃ、改めて買い物行こうか」