4.情報は正確さと鮮度が大事
「あ、そうだ。ペットとして連れ回すにはでかいから小さくなれる?」
「もちろんですとも」
ぬいぐるみサイズに小さく、ついでにデフォルメされたことで、刹那は激震王を抱きかかえることができるようになった。
これでとりあえず、飛行手段を確保できたと安堵しつつ、刹那は後々のことを考慮しま、激震王に名前をつけておこうと思い至ったのだ。
「割とモフモフで可愛いし、これなら問題ないかな。っと名前つけなきゃね。激震王は品種名だし……しーちゃんで」
「しーちゃん……なるほど」
威厳のない名前に少しがっかりしつつ、そもそも今の状態ならそんなもんかとも思う激震王のしーちゃんであった。
一段落したところで、刹那は魔法少女協会まで響を運び込んだ。
ひとまず話を聞くために、収容施設兼聴取部屋に響を連れ込むことになった。
何もない無機質な部屋だ。白一色で統一され、調度品も窓もない。
出入り口はぱっと見判別つかないし、網膜認証で開閉するシステムなので、なかなか逃げ出せないだろう。
仮に逃げ出そうとしても、記録用のカメラからの情報を別室でリアルタイムに確認してるので、すぐさま対応できる。
そんな部屋で、協会員の立ち会いもあるが些細なことである。なぜなら報告の手間を省く為だからだ。
どうも協会は、響のことを刹那に任せようとしている節がある。
ならば、自分の都合の良いように話を進めるだけだと、刹那は思った。
もしうまく行かないで戦闘になっても、何も考慮せず対処できるという状態なのも刹那にとって都合がいい。
「スタンバインド解除。あとステータスクリアっと、ここからの記録はよろしくね……おーい」
ステータスクリア。
状態異常解除魔法だ。どんな状態異常も解除できるが、解除したい状態を把握している必要がある。
「ここ……は? あのあと一体!?」
「魔法少女協会。あのあと、私の魔法であなたを拘束し、激震王も止めた」
刹那は真実を散りばめた断片的な情報で、反応を伺ってみた。
「そんな……」
「最初は激震王を暴れさせる為にやっていたと思っていたけど、どちらかと言えば食料として見ていた………違う?」
「……なんのこと?」
「昨日から今までで、ゴーレム除いてあなたぐらいしか現れていない。
副隊長と言っていたけど、お供もいなければ、一人で行動してる割に強さはそこそこ。
人手不足、あるいは独断で行動しているかと思ってもおかしくはないでしょ。
その上で、投入してるゴーレムの数は多い。単独で運用するにはちょっと無理があるかな。
こうなれば、人手不足と考えるのが妥当。
後は儀式魔法解除の魔法陣に狂化などの付与もない。となれば、食料として確保したかったんじゃないかなーと。どうかな?」
ひとしきり推理した内容を語って刹那は満足した。
どのみち響には、刹那を何とかできる力はない。素直に答えるのも得策ではある。だが、状況が飲み込めていないであろうタイミングで得策が取れるとは限らない。
このあたりは刹那にとってちょっとした賭けではある。
「……そうだと言ったら?」
「情報提供してくれるなら、私か身の安全くらいは保証するし、
もし、全面的に協力するって言うなら、私の監視下で自由を保証する。それ位ならいいでしょ?」
「金剛さんがいいなら、ここで捕虜にするより楽なんでいいですよ」
「はい決まり。さあ、どうする?」
響は思案する。作戦失敗した時点で、話さないメリットはほぼ残っていないのだ。
であれば簡単な話で、より良い条件になるよう交渉するだけである。
その上で、先程の響の推理をどう指摘するのが最善かも考えなければならない。
それよりも響には一点気がかりなことがあった。響を地上に送り、おそらく立場も危うくなっている3番隊隊長のことだ。
響が失敗したせいで立場が危うくなっていると考えると、夢見も悪いし、恩義もそこそこにはある。せめて何らかの行動はしたい。それが響の考えだ。
「……一つだけ条件がある。私の部隊の隊長も助けてほしい」
「それはつまり、あなたの国まで侵攻して連れ出せってこと」
「そういうことになる。行き方は教える」
刹那は、協会員の様子を確認する。攻め込むなら攻め込むでいいですよと言わんばかりの顔をしている。
ずっと防戦しかできなかった相手に対して侵攻ルートができるわけだから失敗する可能性も些細な問題なのだろう。ルートがわかる時点で充分お釣りがくる。
「交渉成立。それじゃ、とりあえず話してもらえるかな?」
「わかった。まずは隊長を救ってくれると決めたことに感謝します。
そして、さっきの推理は惜しい。国に連れ帰って隣国との戦にぶつける予定だった」
響は、推理を惜しかったことにして話を進めた。地上で暴れさせるつもりがなかったという点だけはあっていたのだから、許容範囲としてさらっと進めるのが大人のやり方だ。
「ちょっと外れたかー……って、天空国って一つじゃないの??」
「元々は一つだった。でも、千年くらい前に当時の内乱で二分化した。
私の所属する『グラウンゼロ共和国』と『アブソリュートル帝国』に。
最も、この名前も言葉の響きだけで着けられたから、共和国・帝国としか今では呼ばれてない。
今でも、両国による戦争が続き、つい最近になって致命的な作戦失敗が起こった。
共和国は帝国の新兵器の力を見誤り、敗戦が続いている」
「なるほど、それで戦力アップをはかりたかった、と」
刹那の中で、情報が繋がっていく。一応辻褄はあうのだ。
確かに刹那が魔法少女になってから、天空国との接触は初めてだ。
それ以前も出現記録自体はまちまちであったものの、千年位は頻度が下がっていたのも事実だ。
今の話を踏まえると、戦争のの状況的に地上に戦力を割けなかったのが理由だろう。
最も、それ以外の地下勢力や異界からの侵攻があったので、そのタイミングで来なかっただけという線も捨てきれなくはない。
「それで、その新兵器というのは?」
「それはわかっていない。何が起きたかもわかっていないまま敗北を続けている。
もしかしたら、諜報部は何かわかっているのかも知れない。」
「……そっちの情報も欲しいな」
刹那は思案するが、情報が圧倒的に足りていない。現地に行ってみるしか今のところ確認する術さえないのだから。
「そして、私が隊長を助けてほしいといった理由にも直結している。
この新兵器にやられた部隊のうちの一つが3番隊であり、敗戦の続いている責任を取らされるかもという状況での、私の作戦も失敗した今、流石に立場が危ういはず」
「なるほど…そういう立場なら確かに助けたくなるのも道理だし、その問題がなくても国的に危ういと……」
こういう状況では、損得抜きに助けたいと思う方を助けるのが刹那の美徳だ。
あったこともない、ましてやどちらかと言えば敵だ。助ける必要はないという人もいるだろう。
だが刹那は頼られた。助けてほしいと。ならば、応じるだけである。
「……それでどうやって行けばいいの?」
「向こうからは自由に来れるが、こちらからは満月の日だけになる。詳しい事は当日話す」
「なるほど、それじゃその日までに何人か見繕っておいて」
「わかりました。後で連絡しときます」
「それじゃ、私はこの子と帰るよ。ちなみにこの子の生活用品代は経費になる?」
「なんとも言えないんで、とりあえず領収書貰っといてください」
「はいはい」
刹那は変身をときながら、響の手を取る。
いい加減、変身解除したかっただけではあるが、タイミングを逃していたのだ。
「さ、とりあえず行こっか。とりあえず必要なものの買い出しね」
「はい」