3.力量差は唐突な交渉に使いやすい
魔法少女協会からの連絡で、刹那はすぐさま現場に向かった。
旧ビル街だった場所で今は廃墟となっており、一般人は基本的に寄り付かない場所だ。
変身はまだしてない。
刹那の場合、変身したところで飛べないし速いわけではないというのが理由だ。だから、単純に走るだけである。
そうして辿り着いた場所は、いるだけで魔法力酔いでもしそうな位、魔法力が充満し始めていた。視覚的には30cm先位までしか見えない霧の中にいるような感覚である。
ここまで来るとせいぜい10分位で儀式魔法解除が成立するだろう。
「ここに来た。ということはあなたは地上の戦士と言うこと?」
声が聴こえると同時に、刹那は無理矢理魔法力で魔法力感知を抑えつけて遮断する。見えない状況で戦闘に入るわけにはいかないからだ。
どうせ魔法力を使ってくる相手ではない。とはいえ、無理矢理が過ぎるため消耗は避けられない。
すると、金色のラインが入った白銀の鎧を着た少女が目の前にいることに気付く、黒い髪のツインテールである。
よく見たら翼もあるようだ。その後ろにゴーレムが待機しているのも気になる。
「……ちょっと違う。戦士じゃなくて魔法少女だから。
あなたは? 地上のと言うくらいだから他のとこから来たんでしょう?」
刹那は言葉が通じることから、警戒しつつ少しでも情報を集めることにした。
「なるほど、お伽話に出てくる魔法少女ね。
いいでしょういいでしょう、それぐらいでなければ折角の遠征の意義も減ってしまうというもの。
私は天空龍騎士団3番隊副隊長、轟響
。さあ、舞い踊りましょう!」
言い終わるとともに、大鎌が響の前に現れ、当然とばかりに掴んだ。
天空龍騎士団。
この大空を遥か昔から支配する天空国における実働部隊。
歴史のターニングポイントで地上に現れ、戦力を鹵獲し、連綿と力を蓄えている。
これが刹那の知る範囲の情報だ。
情報を聞きたいところだが、こうなってしまっては戦わないと答えてくれないだろう。
「名乗られたのなら名乗り返さないとね……ウェイクアップ、金剛!」
刹那も変身をし、臨戦態勢に移る。
「戦うなら覚悟せよ。
戦わぬなら伝説を刮目して観よ。
これは私が魔法少女王になる為の通過点。
その魂に刻め、魔法少女金剛という名を…それがお前を倒すものの名だ!」
刹那は久しぶりに前口上を言い放った。
ある一定以上の強さを持つ相手がいる場合、本人の意志に関係なく言わされてしまう。最も、今回は目の前の響ではなく、儀式魔法に反応したといったところだ。
「大層なこと言うのもお伽話そっくり。 それでこそ狩り甲斐があるというもの!」
響が一瞬のうちに距離をつめ、大きく振りかぶり斬りかかる。
刹那は、避けずに防御魔法であるプロテクトウォールを無造作に発動する。見た目は透明な小さめの壁であり基本的な防御魔法だ。
プロテクトウォールは、割と簡単に破られるが、刹那にとってそれは織り込み済みの状況だ。スプーンを響の方に向けるまでの時間稼ぎだったのだ。
「ブレイズシュート!」
「っ!!」
ブレイズシュート。
炎属性の光線のような魔法だ。見た目はそこそこ太い光線だが、意外と威力がなくて速攻でき、燃費はいいので見せ技として割と重宝する。
響がこれを回避する為に体制を崩し、大鎌による攻撃をキャンセルさせる。
「ていっ! 」
流れるような動きで、刹那はそのままスプーンを振りかぶり叩きつける。
響はなんとか大鎌で防御し、体制を立て直しつつ、打ち合いがはじまる。
「なるほど、思ったより強いかも。でもこれくらいなら決定打じゃない」
「そりゃそうでしょ。まだまだウォーミングアップだし、ね!」
「強がりめ。接近戦してる限り、どこかで私が勝つ」
刹那からしてみれば本当にウォーミングアップアップでしかない。この後に控えている相手を考えれば必然的にそうなる。
幾度かの打ち合いが続いたところで、刹那は一瞬儀式魔法解除の進行具合とゴーレムの様子を見た。
もうあと僅かだろう、という印象を受ける。ゴーレムは次々と消え去っているようなので、生贄として用意されたものだったのだろう。残りはあと2体だ。
このままの状況でも、刹那は響に負けることはないが、時間が僅かに足りない。響が奥の手ないし切り札でも出せばもう少し時間かかるだろうというのが、刹那の予想だ。
そんな中、響が刹那の視線に気づき反応した。
「ここまで来たらもう止められない。わかるでしょ」
「………時間ないか。スタンバインド!」
スタンバインド。
対象を拘束しつつ、相手を麻痺させる魔法だ。麻痺させることで拘束から抜け出る可能性が減る。
刹那は戦闘を中断することと、響を無力化することを最優先した。抵抗できなかった響は、即座に麻痺からの気絶状態に陥る。
そのまま、ゴーレムを一体でも破壊して妨害しようとしたが、一手遅かった。
儀式魔法が解除され、巨大な何かが魔法陣から現れはじめる。
刹那はとっさにバインドしている響を担ぎ、大きく跳躍することで一旦距離を取る。
「犯人捕獲。あとこいつの情報よろしく」
刹那は、「オーブ」と呼ばれる魔法道具を用いて一方的な通信を行った。
「オーブ」というのは、それぞれに固定された魔法を使う為のアイテムである。
一見便利なようではあるが、初級魔法ぐらいしか使えないという問題もある。
最も稀に高位の魔法を使えるオーブもあるそうだ。
改めて見ると、巨大な牛のような、違うといえば全然違うような何かが現れているようではある。
『金剛さん。それの名前はこちらで把握してます!
文献によると『激震王』と言う、牛をベースにした合成獣です。
かつての陰陽師が、地下勢力との決戦用に量産したものの一匹みたいですね。なんやかんやあって備えとして備蓄として封印しておいたみたいです。
戦う上でビームに注意。後飛びますそいつ。………それと戦闘には関係ないですが、そこそこ美味しいみたいです』
「昔の日本どうなってるのそれ」
『さあ? ……まあ何時ものことです』
響を適当に側に置いて、対処を考える。
現れきった状態になったので、全体を見ると、かなり巨大だ。怪獣映画に出てくるような大きさだと思えば間違いないだろう。
飛ぶというのも嘘ではないのだろう。立派で大きな翼がある。
全力でかかって倒そうと思えば倒せないこともないが、結構な被害になる可能性が高い。
ただ、合成獣というのが気にかかる。合成獣は戦力としてだけでなく食料としても調整されている古代兵器と言える。
これは戦場に運ぶ食料に自衛手段をもたせようと思ったのがきっかけになっているためだ。
小さい個体は今でも現存している。どんなに激しい戦いや大きな震災がきても、これがあるから簡単には食糧難にはならないのだ。
もしかしたら暴れさせるのではなく、食料として封印をといたのではないかとも考えられる。
刹那は、とりあえず確保することにした。ちょうど移動手段がほしかった所だし、と気楽な理由でだ。
「まずは声かけてみるかな……おーい!!」
「我に声を掛けるのは、何者だ?」
激震王が刹那の方を向く。この時点で足元の建物がいくつかたやすく壊れたが、結局廃墟だったものなので刹那的には考慮に値しない。
むしろ戦うならば、このエリア内で戦うのが賢明だろう。
それはそれとして、食用を兼ねているのに意思疎通どころか会話できるように調整していることに刹那は驚きを隠せない。
精々こっちを見るとかの反応かな位のつもりだったからなおさらだ。
「まじか、話せるんだ。なら……激震王さんにとりあえずここで大暴れするのをやめといてほしいかなーと思ってて。
とりあえず、安全に過ごしてもらうためにも、私のペットにでもなりません? 悪い扱いはしないんで」
「……其の願い、聞き入れないこともない」
案外言ってみるもんだなぁ、と刹那は思ったが、そもそも相手は寝起きみたいなものだ、そんなに暴れたくもないのだろう。と自己解釈した。
もっとも、封印から出てすぐ攻撃でもしてたら違っていたかもしれないし、あるいは精神操作で暴れさせるつもりだったのかも知れない。
そういう可能性はあるので、間違えた選択をしても取り返しがつくように、さっさと話を進めるということを経験則で体に染み付いているようだ。
「一撃で力を示すと良い。我が一発だけ光線を放つから、受けきるか相殺するかせよ。それ位できなければ主と認められね」
「一撃……ね。相殺するから、そのまま倒れないように気をつけてね」
「その心配は不要だ。そなたこそ辞世の句を残すなら今のうちだ」
刹那はスプーンをしっかりと持ち直す。
それと同時に通常フォームのままでいいか一瞬考える。
倒すのであればフォーム変えたほうがいいが、相殺なら問題なしと結論づけた。
「その必要はないし……よし、いつでもどうぞ。」
刹那の足元に巨大な魔法陣が現れ、魔法力が溢れ始める。
「ではゆくぞ? ふんぬっ!!」
激震王の左右の角から怪光線が出て一箇所に交わり、刹那の方にジグザグに伸びていく。
それに臆することなく、刹那は相殺に最適な魔法を思案し、放つ。
「スターバースト……ブレイカー!!」
スターバーストブレイカー。
刹那の初期決め技である。星属性の極太魔力砲だ。今まで数々の強敵を打ち破ってきた、最も信頼する魔法である。
制御しやすく威力も絶大。星属性故に認識して選んだ対象にしか影響がないのも使いやすい要因だ。
踏ん張ってる足が反動により地面を抉っていくのは想定の範囲。廃墟だから問題はない。
刹那は角度を調整することで怪光線を防ぎ、そのまま激震王ではなく空へと真っ直ぐ進むように発動した。そして、そのまま進行上にある雲も吹き飛ばされたのだ。
それは圧倒的だったと言わざるおえない。激震王の怪光線も非常に強力ではあったが、それくらいでどうにかなるものではない。
「……これでいい?」
「………誠心誠意お仕えさせていただきます。我が新しき主」