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19.喫茶店は閑散としているほうが雰囲気はいい

天歌を送り出し、刹那はバイトに向かっていた。

響に関しては、監視とフォローの為にしーちゃんをつけている。

最も、しーちゃんは現代知識に関して浅いのでフォローはあまり気にしていない。

監視もなんとなくやってますよー位のものでしかないので、実質なにか起きたときのGPS程度の認識である。


住宅街とオフィス街の間位に位置している喫茶店。それが刹那のバイト先だ。

長年ここでやってきたと思われる年季のある店構えだが、実際は五年前に入ったばかりで、年季感は前に入っていたお店の頑張りによるところが大きい。


「おはようございます、店長」

「おはようございます、天道さん」


初老に差し掛かった喫茶店のマスターが刹那を迎える。

刹那が聞いている限りでは、若い頃はキャリアウーマンとして海外に出ていろいろと活躍したが、

八年くらい前の、地下勢力による行動が活発になったことをきっかけとした鎖国に合わせて帰国し、趣味を兼ねて喫茶店を始めたようだ。


刹那は、バックヤードで制服に着替えた。

クラシカルなメイド服をアレンジしたもので、ロングスカートや細かい部分はとても貞淑なイメージがあるのだが、胸は少々強調されるデザインとなっている。

デザイナーの拘りであり、一点ものの高価な品らしいため、刹那はあまり気にしないことにしている。

他の日のバイトに対しても、スタイルにあわせて用意しているようなので、もとから女の子って人が言わないのに言うのもなぁというのもあった。

あくまで趣味の店であり、マスターもそれを公言し、バイト募集にも制服の衣装のイメージを載せてある。その趣味を否定するなら、ここでバイトするという選択肢が間違えていることになる。


そうして着替えた刹那は、バックヤードから出て、カウンターの拭き掃除を始めた。

もともと広い店ではないので、これもすぐに終わるだろう。右端の万年予約席は丁寧に拭いておく。

カウンター越しにマスターを確認すると、どうやらコーヒー豆の状態を確認しているようだ。

国内での生産なので、気候上どうしても出来が劣ったり、ムラがあったりするのだ。

そのため、どこまでをお客様に提供するかどうかのさじ加減は店によると言える。

マスターは趣味なので、暇なタイミングを見計らって厳選し続けるのだ。



「いらっしゃいませ、二名様ですね。こちらへどうぞ」

「はいはーい。あ、いつものね?」

「もちろん、ぼくもいつもの」

「少々お待ちくださいませ」


刹那が、常連客だと認識している二人組を席に通し、いつものナポリタンセットコーヒー抜きの用意に入る。

マスターはコーヒー抜きの客には、料理を用意しようとしないので、バイトのウエイトレスが作るのだ。

それ故に、この二人は刹那のシフトの日だけ現れる。

刹那からすれば、そんなに美味しいわけでもないものを通って食べるなんて不思議だなという気持ちも少なからずあるのだ。

とにかく刹那のシフトの日はナポリタンがよく出るので、ある程度茹でた麺がタッパーに用意されている。

こうすることで、マスターがほぼ一日コーヒー豆と戯れていられるのだ。

手際よく遺伝子組換えであるベーコンと、玉ねぎを刻み、フライパンへと投入する。

それらを適当に炒めつつ、いい感じだと思ったところで麺を入れ、ケチャップベースで事前に用意しているソースをかけて炒める。

同時に、付け合せの唐揚げをさっと揚げるのだ。

程よいタイミングでお皿にナポリタン、その上に唐揚げを乗せて完成だ。

刹那は旨いと思っていないが、料理に不慣れな彼女が作った手料理感だけはかなり高い。

これが他のメニューだと、味わえないプレミアム感を演出している。


「おまたせしました、ナポリタンセットコーヒー抜きです」



しばらく断続的に客が入り、忙しいと言えば忙しいけど、余裕はまだあるという時間が続いた。

いつも通りと言えばいつも通りだが、今日もマスターはまだコーヒーをいれていない。

時刻は十四時を回りいつもの時間がやってきた。


「お待たせ、私のせっちゃん」

「あっ、まーちゃん、今日も来てくれたんだね。何時もの席にどうぞ」


マリアンヌである。

彼女は、何時ものように刹那の恋人ヅラをして予約席に座った。

当人は決め台詞ぐらいのつもりで言っているが、刹那は友達同士の他愛ないやり取り位に捉えている。

親友以上恋人未満が二人の距離感だ。

ちょっとしたきっかけで、どちらかに転ぶだろうとマリアンヌは思っているので、今日も全力だ。


「はい、まーちゃんコーヒーどうぞ」

「ありがとう、せっちゃん」


二人のやり取りは、他の客達にとって言葉にし難い尊いものだ。

応援している客も多いほどだ。二人の美人によるこの距離感は、見るものを魅了してしまう。

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