12.お空はどんなとこ?
「もうお腹いっぱいですっ」
「同じく」
夕飯も終わり、刹那が洗い物をしていると、天歌と響のやり取りが聞こえてきた。
「そういえば、地上の地上のって言ってましたけど、何処から来たんですかっ?」
「あっちの方」
「お空ですかっ?」
「ええ、そっちの方の国」
「凄いですっ!」
「えっ!? それだけっ!?」
「う? はいっ」
天歌の反応に、刹那はついつい声を上げてしまったが、天空国について、天歌はまだ知らなかったということだろう。
よくよく考えてみれば、刹那が知っていたのは、かつて師匠から聞いたことがあったのと、事件の調査で魔法少女協会のライブラリを漁ったからだ。
事務方でない限り、普通は調べる必要すらものだ。
「それでっ、お空の生活はどんな感じなんですかっ。やっぱり食べ物とか違いますかっ?」
「違う。例えば、食物は育たないから、サプリで栄養を補っている。あと雲の海に魚はいるので、それを食べる」
「お魚とサプリ……美味しいんですか?」
「魚本来の味と、サプリでどこまで味の幅ができるかと言えば、まぁ僅かな差しかない。だから、カレーの味に衝撃を受けた」
「なるほどっ」
「食べ物はこれ位にして、過ごしやすさだけで言えばまぁ過ごしやすい。雲の上だから気候が安定してるのと、景色は幻想的で綺麗。いつでも虹の橋が見える」
「わあっ、素敵ですねっ」
刹那は、聞こえてくる情報を脳内で整理しておく。こういう会話が意外と大事な情報に繋がったりするのだ。
とりあえずではあるが、食料の用意は万端にしなくてはいけないということが確定した。
こんなやり取りをしているうちに、刹那の洗い物も終え、会話に加わろうかなと思ったことで、次の問題に思い至った。そうお風呂だ。
おそらく天歌は一緒に入ろうと言ってくるだろう。断り切れないのも目に見えている。
それに響だ。彼女はおそらく文化の違いがあるため説明が、必要だろう。
元々男なので、やっぱり落ち着かないものは落ち着かない。
気心知れた友達ともなれば、慣れてはいるし、天歌なんて先程お腹みたが、やはりそれはまた別の問題だと思っている。
結論としては覚悟を決めるだけだ。幸いなのか、この部屋は案外お風呂が広いのだ。
くっつけば大人三人入れる位だ。
「……よし、お風呂も入っちゃおうか。天歌ちゃんは明日も学校あるでしょ」
「はいっ。あ、でもパジャマ持ってないです。下着は戦いでなにかあったとき用に替えをもってますっ」
「あー、私の服で我慢してもらおうかな。シャツでもぶかぶかなサイズだろうし」
「いいんですかっ!? じゃあ、刹那お姉ちゃんがよく着てるのがいいです」
刹那のよく着ているシャツというのは「This is 人類?」と表に書いてあり、さらに背中にデフォルメした猫のイラストと肉球スタンプが自己主張している。
右上にそっと「ワン」と書かれた上級者向けのやつだ。
誰にも見られない前提で来ているので、刹那でも人前では着れない。
そんなシャツを取り出しかけるが、流石に渡せない。刹那は咄嗟に隣の、わんこのイラスト大きく描かれているTシャツを手にとった。裏面にはしっぽも描かれている。
こっちなら天歌に似合うだろう。
「これでいいかな?」
「わぁ! 可愛いです」
「うんうん! 可愛いね」
「似合ってる」
「ありがとうございますっ。えへへー」
「響は……買ったんだよね?」
「ええ」
三人とも問題がなくなったので、いよいよ本題のお風呂だ。