10.不死鳥は墜ちてこそ咲き誇る
天歌とアイアンウルフの第二ラウンドは、天歌の行動から始まった。
天歌の後ろに魔法陣が展開され、膨大な魔法力の渦が天歌に纏われていく。
「ダガーモード! 集まれっ、あたしの心の炎っ!」
デルタフェニックスがダガーモードになり、魔法力の渦が、デルタフェニックスの方へと集まっていく。
しかし、アイアンウルフも黙ってみているわけではない。天歌の妨害をする為、突撃態勢に入り、腕から爪へと魔法力を巡らせ、必殺の一撃を狙う。
アイアンウルフの一撃が、天歌を捉えたかに見えたし直撃させた感覚はない。だが、そこには何もない。熱気と煙だけだ。
アイアンウルフは、一瞬戸惑った後に、直感で後ろを振り向くと天歌がダガーを振り下ろす瞬間だった。
天歌の罠に気づくのがほんの僅かに遅れたのだ。しかしパワーアップしたとはいえ、一撃で勝敗を決することはないだろう。と侮ってしまったのも良くはない。
「ファイアーブレイカー!!」
巨大な炎の柱となったダガーを上段から一気に振り下ろす。アイアンウルフは左腕を犠牲にしながら辛くも反撃の一手に移る。火球が、火でできた槍が天歌を襲った。
しかし、天歌は避けもせず全部を身体で受け止めることにした。回避する時間も、防御に使う魔法力も惜しいからだ。
二人の魔法により、爆発と煙が発生し辺りを包んだ。
「フェニックス、デッドエンドシュートっ!」
煙の合間から、天歌のスカートの端が見えたかと思った瞬間、次の魔法へとスライドしていた。
先程の炎を改めて自身にも纏い、ダガーだけでなく、自身の身体全体を使った魔法刺突攻撃だ。
天歌の一撃はアイアンウルフを討伐するだけの威力を持っていた。
「グアウッ……!」
「敵よ。勇気の炎に抱かれて眠れっ」
天歌が、決め台詞をいい終え、決めポーズを取ると変身が解除された。時間切れである。
「凄い。まさか、天歌がこれ程強いなんて知らなかった」
戦いを終えた天歌に、響が賞賛の拍手を送った。しかし、天歌はなにか納得できていないようだ。
「まだ駄目なんですっ。この戦い方だと長く戦えないんですっ。それにフェニックスフォームになるまでは勝てそうになかったです…」
「だとしても私より強い。それにまだ成長期、これから」
「……響さん。ありがとうございますっ。あたし………ううん……お腹空いちゃいましたっ。早く刹那お姉ちゃんの所に帰りましょ」
天歌は何を言いかけたが、何を言いたかったのかは響にはわからない。
響としては今聞いておくのが正解だったのかもしれない。
ただ、今正面から聞く気にはなれなかった、はぐらかされると思った。それだけだ。
「わかった。帰ろう。カレーが待っている」
「あたし、カレー好きなんですっ。しかも刹那お姉ちゃんの手料理っ! 楽しみですっ」
そんなやり取りを離れたところから、しーちゃんが見守っていた。
正直、サポート位は必要だろうと思っていたけど、不要であると判断した。
「あの幼さで、これだけの覚悟を伴った戦い方、自身へのダメージを厭わない勝利への執念……なるほど、確かに主の言うとおり勝利に関しては心配する必要はない、か」
正直、しーちゃんは驚いていた。あの気迫ではサポートなんてしてはいけない。微妙なお年頃なのも災いしている。そして……。
「聖剣が折れてもたった一人で戦いぬいた勇者の末裔、か。主がどう導くのか楽しみだ。その前に潰れないと良いが……そこは経験を重ねるしかないな。
しかし、戦い終わったところで、自分が動揺した原因を忘れているとはな。
……これでは勇者ではなく、狂戦士だ。今はまだ、な」
しーちゃんは、やれやれといった表情をしたあと、念の為アイアンウルフと倒れていた魔法少女を回収し、魔法少女協会へ届けることにした。