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8:空想学園 バレンタイン祭当日、生徒会長の本音

 バレンタイン祭、当日。

 黒沢遥くろさわ はるかはお祭り騒ぎの如く賑わっている校内を、生徒会室の窓から眺めていた。午前十時には校門を開放して、一般参加の人々も迎え入れた。


 午前中は挨拶や設置した機材の見回りに忙殺されていたが、午後になってからようやく一息つける余裕が生まれた。楽しそうに賑わう校内の様子を眺めながらも、遥の気持ちは暗い。午前中に生徒会の携わる予定が一段落してから、遥は生徒会のメンバーを役割から解放した。今頃は生徒や一般客に紛れてバレンタイン祭を楽しんでいるに違いない。


 遥は重い気持ちのまま、生徒会室に据えられた小さなソファに掛ける。沈み込むように体を預けながら溜息をついた。

 バレンタイン祭の準備中に、朱里あかりが打ち明けた事実。それが想いを苛んでいた。気をそらせようとしても、こんなふうに独りで考える時間を与えられると心から離れなくなってしまう。


(――ずっと、ここに朱里を縛り付けていた)


 空想学園の生徒会は他の部活動よりも忙しい。任命されれば常に役割に追われ、学業以外の違うことに打ち込むことは困難になる。遥自身も身を以って体験した現実。

 遥は自身の中にある暗い感情と向き合う。


(私には、……初めから判っていた)


 彼女を拘束してしまうことを知りながら、いや――だからこそ、遥は朱里を生徒会に任命したのだ。自分の傍に在り、違う何かに心を傾ける余裕を与えないように。

 判っていて仕組んだのだ。生徒会長の持つ権利を自分のために行使した結果だった。


(ひどく、馬鹿げている)


 自分の行いに嫌悪する。そんなことをしても、朱里の心を縛りつけることなど出来る筈がないのに。手に入れられる筈がない。

 あの時。

 遠慮がちに、けれど強い気持ちを込めて朱里がはじめて語った。彼女が秘めていた真実。素直な彼女の心を見抜くのは容易い。胸を抉るほどに、刻まれている。


――先輩、もし私が誰かに告白したら、私のことを軽蔑しますか。学院の風紀を乱すから、軽率な真似だと思いますか。


 朱里の心を捉えている誰か。彼女には想いを伝えたい相手がいる。

 ずっと秘めて来たに違いない。自分が生徒会という役割に縛りつけていたから。


(そんな束縛も、もう終わりだ)


 彼女が打ち明けた真実には、応援すると答えた。

 自分がこの学園を卒業する日も近い。手に入らないと判っていて、これ以上朱里を縛り付けることには何の意味もない。


 だから、せめてここを立ち去る前に。

 想いを叶えた彼女の笑顔を見られればいい。

 これまでの独りよがりな行い、身勝手な罪の全てが、それで許される気がする。


(今頃は……)


 遥は目を閉じて、痛みにも似た衝動を閉じ込める。

 今頃は、想いを寄せる相手に気持ちを伝えているのだろうか。

 焼け付きそうな感情を殺して、遥はそれ以上考えるのをやめた。

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