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6:庭園学院 執行部メンバー全員集合

 まどか達が執行部室へ戻ると、タイミング良く同じように執行部に携わっている一年生の二人が戻ってきた。


「ただいま、チョコレート買ってきちゃった」


 あどけなさの残る人形のような可愛らしさで、部室に帰ってきた朝子あさこが笑う。彼女はあきの妹で執行部の会計を努めているのだ。隣には朝子のクラスメイトであり、同時に彼氏でもある風巳かざみが一緒だった。彼は半ば強引に晶に執行部の書記――というよりは雑用係をさせられていたが、どうやら朝子と一緒にいられるので大きな不満にはなっていないようだ。


「バレンタインにつられて思わず買っちゃった。せっかくだからお茶でも飲みながら、みんなで食べようよ」


 朝子の無邪気な提案に賛同して、まどかが執行部室に備え付けられた茶器を使って各々に飲み物を提供する。

 会長――早川まどか、副会長――結城ゆうき晶、会計――結城朝子、書記――吹藤ふとう風巳かざみ、そして執行部の顧問教師――アルバート・S=ケント。

 執行部の面子が完璧に揃った処で、顧問のアルバートが議題を出した。


「庭園学院の兄弟校でもある空想学園で、近々恒例のバレンタイン祭があることはご存知だと思いますが。じつは空想学園から、最近の我が校の風紀の乱れについて指摘がありました」

「風紀の乱れ?」


 風巳が不思議そうにアルバートを見た。まどかも腑に落ちない。学院の生徒が問題を起こしたという事実はない筈である。


「それが空想学園にも悪影響を及ぼしているというのですが、おそらく交際についての校則改定について、遠まわしに非難しているのでしょう」

「だけど、べつにそれで何か問題を起こしたわけでもないのに」


 風巳の言い分はもっともだと、まどかも頷いてみせた。晶がどうでもいいと言いたげな態度で口を挟む。


「それで恒例のバレンタイン祭に、我が校の生徒が参加することを禁止されたとか、そういうことですか」


 アルバートは意味ありげに笑い、晶の問いかけに「いいえ」と答えた。


「くれぐれも空想学園の風紀を乱すことのないように、節度を守った姿勢で参加してほしいというお話でした」

「じゃあ、うちの学校に教育的指導が入るとか、風紀のあり方について干渉されるとか、そういうことじゃないんだ」


 風巳が結論をまとめるとアルバートは「そうです」と頷いた。それから何気ないことを語るように付け加える。


「ただ、先方の校長が自慢げに仰っていたのですよ。空想学園における生徒会の実力は庭園学院のそれとは比べ物にならない。付け加えて、――生徒会長を努める生徒の素行や品性の差が両校の良し悪しを如実に現していると。どうやら非の打ち所がない素晴らしい生徒会のようですね」


 まどかは空想学園の生徒会長がどんな学生なのか全く判らない。校長にそこまで言わせるのなら、よく出来た生徒なのだろう。比べて自分は副会長である晶の助力に頼り、ほとんどお飾り的に役職を努めているに過ぎないのだ。実力がないと云われるのは道理だと思える。せめて晶が会長の頃ならば、素行はともかくとしても実力がないと言われることはなかったのかもしれない。漠然とそんなことを考えただけだった。


「だけど、――まぁ、お兄ちゃんのしてきたことを讃えるわけじゃないけど、うちの執行部もわりとすごいと思うんだけどな。素行についてはお兄ちゃんがひどすぎたけど、まどかさんは品行方正だし。そんなに差があるのかな」


 朝子は素直な意見を述べたあとで、思い出したように呟く。


「だけど、たしかに空想学園の生徒会長さんは落ち着いていて大人っぽくて、とびきり綺麗で男前な人だったよ。容姿端麗って言葉がぴったり」

「朝子ちゃんは知っているの」


 まどかが聞くと、彼女はこっくりと頷いた。


「実はさっき会ったんだよね。ね、風巳」

「うん。俺も思わず見惚れてしまったくらいの男前。礼儀正しい人だったな。律儀に挨拶してくれて、バレンタイン祭にもぜひ来て下さいって」


 風巳と朝子は顔を見合わせて、話を合わせながら細かく出会った経緯を教えてくれた。朝子達の会話が一段落すると、晶が大きく溜息をつく。


黒沢くろさわはるかだろ、それ」

「晶も知っているの」

「――知っているよ。だけど、あいつにはあまり関わりたくないな」


 まどかが珍しいと言う意味を込めて「どうして」と聞くと、晶が小さく答えた。


「苦手なんだ」

「ええっ、お兄ちゃんが苦手なの?」


 まどかより早く妹の朝子が反応した。晶は嫌な思い出を辿るように語る。


「あいつ、どこか聖人君子みたいな処があって、一緒にいると俺が悪人のような気になって来るんだよ。例えば何か目的を果たすとき、自分の立場を活かして有利になるように物事を進めるのが普通だろ。だけどあいつの場合は、立場を利用することにいちいち罪悪感を覚えるんだよな。優しすぎるというか。……とにかく駄目だな。俺とは噛み合わない」


「へぇ、晶でも苦手とかあるんだね。意外と気が合いそうな気もするけどな」


 風巳が感想を漏らすと、晶は「どうだろうな」と曖昧に受け流す。そのまま傍らで黙って会話を聞いていたアルバートに問いかけた。まるで思惑を探るように深い視線を投げる。


「それで? そんな話を持ち込んで、博士は何を企んでいるんですか」

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