14:空想学園 副会長にはバレているかわいい後輩の気持ち
朱里は中庭の人混みを掻き分けて懸命に追いかけたが、すぐに遥の姿を見失ってしまった。立ち止まって辺りを見回すがどこにも気配がない。遥を取り囲んでいた生徒達の輪も、標的を見失って散らばっていく。
途方に暮れてしまい、朱里はその場に立ち尽くす。
(こっちを向いたのに……)
自分の呼びかけが届かなかったとは思えない。遥は朱里を見て逃げるように立ち去ってしまったのだ。
(――どうして)
それほどに後輩である自分の想いが迷惑なのだろか。そんなことを考えると急激に哀しさや悔しさが込み上げてきて、目頭がジワリを熱くなった。朱里はこんなに人の多い中庭で泣くことは出来ないと思い、ぐっと競りあがってきたものをこらえた。
「朱里」
一人で感情と奮闘していると、背後から聞きなれた声に呼ばれる。朱里は咄嗟に「はい」と答えて振り返った。副会長を務める白川奏が歩み寄って来る。涼しげに感じられる知的な微笑みを見つけると堪えていた物が溢れそうになって、朱里は慌てて元気の良い声を出した。
「白川先輩、どうかしたんですか」
彼はまるで朱里の胸中を見抜いているかのように、唐突に問いかけてきた。
「朱里はこのバレンタイン祭に便乗しないのですか」
「え?」
平常心を取り繕おうとして、朱里はかえって不自然に声がうわずってしまう。
「び、便乗って、いったい何の話ですか?」
「遥に告白をしないのですか」
いきなり直球を投げられて朱里はあやうく心臓が止まるところだった。おかしな息のつき方をして「げほげほ」とむせてしまう。
「し、白川先輩。いきなり何を……」
うろたえながらも冗談として受け流そうとすると、奏は他愛ないことを語る口調で追撃を加えた。
「朱里が遥を想っていることはお見通しですよ。私からみれば、なぜ遥が気付かないのか不思議なくらいです」
「せせせ先輩、あの、話が勝手に進んで――」
「私達が卒業する日も近いですし……、だから私は朱里がバレンタイン祭に勝負に出るのではないかと考えていたのですが」
奏はからかっている訳でもなく、むしろ応援しているという雰囲気であっさりとそんなことを口にした。朱里の気持ちについては確信を持っているようで、いまさら確かめる必要もないという立場から話が始まっている。朱里は一人で顔色を蒼くしたり赤くしたりと散々戸惑った後で、看破されているのなら仕方がないと開き直る。
思い切ってこれまでの経緯と気持ちを素直に打ち明けることにした。奏は朱里から成り行きを聞くと、まるで励ますように提案する。
「遥を捕まえるのなら最適の方法があります。彼は生真面目な生徒会長ですから、余程のことがない限り役割を放棄することは出来ないでしょう。午後六時の祭事終幕の挨拶のために、必ず中庭に作られた壇上にやってきます。その時に捕まえれば簡単です。挨拶は私が代行しても支障はありませんから、朱里は悔いのないように気持ちを伝えてください。可愛い後輩のためなら私は喜んで協力します」
にこやかな微笑みを浮かべて、奏が当たり前のように朱里の背中を押してくれた。彼が味方になってくれるのなら、これ以上に心強いことはないかもしれない。例え生徒会で繋がっていても、卒業を控えた遥に明日必ず会える保障などどこにもないのだ。さっきのように故意に避けてしまわれたら、きっと朱里には成す術がない。
奏が励ますようにポンポンと朱里の肩を叩いた。
「無意味に追いかけても疲れるだけです。幸い遥を捕まえる絶好の機会が用意されているのですから、時間が来るまでバレンタイン際を楽しみましょう。せっかくのイベントです」
「はい、そうですね」
朱里は腕時計を見た。午後六時までは既に二時間もない。
こんな気持ちのままではとても楽しめそうにないが、今は奏の提案に従うことが最良の策だと思えた。
同じ中庭にいたはずなのに、あんなにも簡単に遥の姿を見失ってしまったのだ。
鮮やかすぎる拒絶。
広い校内で彼を見つけることは不可能に近い。これ以上遥を追走しても埒があかないだろう。今は与えられた好機を待つしかない。




