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分水嶺  作者: 鈴草
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青年のひととき

 ー我が子孫あるいは、当地方を治めることになった貴族に向けて、地方伯爵ルベルティ・シルワイヤ記す。

 ー当手記は領地統治において発生した問題について、発生原因及び問題対応、解決後に関する事後処理をまとめた報告書である。ルベルティ・シルワイヤが治めている間に発生した問題及び対応は、後世で何らかの参考になると信じている。

 

 はじめに、ということで書かれていたが、後年に当主が撤回している跡が残っている。

 定規を当てて線を引っ張っているところが、伝え聞く初代の性格を表しているように感じているが、問題はソコではない。

 貴族家当主が前言を撤回した後に書かれた、とても不穏な文である。


 -当手記は、特定の「少年」の観察・経過観測記録とてして残すこととする。

 -ルベルティ・シルワイヤの名において、当手記の内容はすべて読者から見れば「過去に実在し、実際に発生した」ことを保証するものである。

 -「少年」の名前は「ベシャビル」であり、後年、彼は「ベシャビル・ブレンディア」と名を変えた。

 -読者よ。心せよ。彼は今なお君の時代に生き続ける「命ある化石」である。


 「これがお父様が仰っていた、シルワイヤ伯爵家が代々受け継ぐ『呪われた少年』か。

 詳しくは、初代様の手記を読んでからということだったが、初代様が亡くなってから数えてそろそろ百二十年は経とうとしているのだけれど」


 「命ある化石」という表現に青年は目を引かれた。現代に至って問題として存在し続けるのは、まさに命ある問題ともいえよう。

 本の厚みが、本の冷たさが、何代にもわたって受け継がれた年月が、青年の気を重くさせていく。

 ほかの問題は別の本にまとめられ、この手記だけは別個にされただけの重みがあるのだと感じ始めた青年は、ぐっと背筋を伸ばして本と向かい合う。

 明るく柔らかい木漏れ日が、冷たく冷え切ったガゼポに差し込んでも全く声援にはなりえなかった。


 -私の時代にはとある奇病、いや「特異体質」が存在していた。彼らは奇形だというわけではない。

 -超体質といえばいいのだろうか。一度読んだ文章は、綴りの間違いも含めて一言一句間違いなく覚えている人物がいた。たとえ文章を読んだのが「7年前」であってもだ。

 -耳が良いものがいる。たとえ軍の行軍中の音の濁流下であっても、一本の針を落とした音を聞き分けられるほどだ。

 -能力は多岐にわたるが、確実に言えることは「人間の姿のまま実行できること」が共通していた。

 -これが私が生きた時代に時折現れる「特異体質」者である。今の君の時代にはいるだろうか?

 -特異体質者は私たち、私兵を抱えるもの達にとっては、その能力次第では喉から手が出るほど欲しい人物である。


 ここからの文字は少しブレが見られる。書いている初代シルワイヤ伯爵の、自分の言葉の中に隠れた思いがうきでているようであった。


 -私には神が人の範疇からの脱却を許さない意思を感じさえしていた。人は人として、そのくくりの中で生きよと。

 -何事であっても、例外は存在するものだ。

 -「ベシャビル」少年は、その例外であり、


 ページをめくると、1ページの中央に一単語のみが書かれていた。

 

 「さすがに信じられませんよ。初代様。今も昔も、そんな存在は確認されていないのだから」

 苦笑とともに、青年は思いを初代に伝える。

 吟遊詩人といった、事実を空想の物語のように語る者たちでさえ、題材にしない。

 少なくとも、いったい誰が確認できるのだろうか。


 ガゼポのガラスが叩かれ、青年は飛び上がらんばかりに驚いた。

 「兄様(あにさま)。読書中に失礼します。お母様が兄様に用があるとのことで、呼ばれています」

 「すぐに行く」

 青年がいなくなったガゼポには、湯気が立つ紅茶と開かれた本。


 -ALCARD

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