ルーテリアの住み処
ルーテリアが案内したのは、古くから町にある神社……古くからありすぎて最早廃神社と化した、人気のない神社だった。朽ちた鳥居を抜けた先、瓦の崩れた祠のもっと奥。林の中を、ルーテリアはずんずんと進んでいく。
「お前の家って、地アリの巣か何かなの?」
クモの巣やら羽虫やら、顔にまとまりつく不快なものを払いながら、廉は恨めしく声をかける。
「私がこの町を拠点に選んだのはね、土地神の力が弱まっているからなの。私のような異質なものを排除しようとする力が弱いから、簡単に入り込めた。逆に言えば、フィアのような邪悪なものも来やすいってことなんだけど。だから急がないと…」
廉の恨み言が聞こえたのか聞こえないのか、ルーテリアは唐突に立ち止まると、ポケットからカプセルのようなものを取り出し、宙に放り投げた。
カプセルは空中で破裂音を立て、白い煙が立ち上る。視界が開けた時、そこにはテントのようなシェルターのような、小さな小部屋ができていた。
「はい、これが私の住まいよ。入って」
「……魔法って、本当になんでもありなんだな」
中は見た目からは想像もつかないほど広く、見たこともない道具がそこらじゅうに散らばっていた。剣や銃のような物騒なものや、ルーテリアの言う魔法道具の水晶らしきもの。それから、小さな本棚の中にぎっしりと詰まっているのは、マンガ本だ。
「悪いわね、歩かせて。人に見つからない場所でないと取り出せないおうちだから」
「今さらだけど、お前の正体って俺にしか伝えてないのか?この世界にだって警察はあるんだし、大人に任せた方がいいんじゃないか」
「本気で言ってる?異世界から来た魔法使いが警察に相手にされないなんて、それこそ【ベタな展開】でしょ
」
ルーテリアはひとつの水晶を手に取り、その青い光を廉の目の前にかざしてみせる。
「これが、私がこの世界に来るために使った魔法。この魔法の名前は、【ボーイミーツガール】。異世界からやってきた美少女が、平凡な男の子に出会って世界を救う……なんて、最高にベタでしょ?」
「その平凡な男の子が、俺ってこと?」
「その通りよ!」
ルーテリアは嬉しそうだが、廉は複雑だ。
もちろんマンガの主人公のような展開に、心が踊らないわけではない。だが、選ばれた理由が「平凡だから」と「席が窓際一番後ろだから」ではなんとなく浮かばれない。
「さて、私の属する組織の説明をしましょう」
ルーテリアは水晶をずらりと机の上に並べる。
「これが魔法道具。ひとつひとつに魔法が詰められている。これを使って、フィアと戦う。私たちはこれを作り上げて、フィアと戦う組織……ヴェスタの精鋭部隊·キーロフ」
見て、と示されたのは、小さな本棚。
「私が持っている漫画は、これだけ。圧倒的に魔法が足りないの。フィアはどんどん力をつけているのに、私たちはまず漫画を読み込まないといけない。それも、たくさん」
「うーん……世界を救うためにまずやることがマンガ読破って、いまいち危機感が湧かないけど。でも、事実なんだよな、それが」
ここまで非現実なものを目の当たりにさせられては、信じる他ない。フィアという得たいの知れない何かが日本にやってくるのも、時間の問題なのだろう。そしてそれを止めるには、ルーテリアにマンガを読んでもらう必要があるのだ。
ならば協力者として、高校生として、やれることはひとつだ。
「やろう。漫画同好会…いや、漫画研究部を作るんだ。部費でマンガを買いまくろう。高校生のお小遣いには限りがあるからな」
「ありがとう!そうね、この世界でもマンガを買うにはお金が必要なんだものね」
「そういえばお前は生活費はどうしてるんだ?」
「そろそろ貯蔵の食料が切れるから、途方に暮れていたところよ!」
にこにことそんなことを言うルーテリアに、廉は心のToDoリストに「バイト探し」を追加した。