ルーテリア、睨む
転入生のルーテリア・ユニアは、廉の後ろの席に置かれた机に着くことになった。
なぜだか授業中にずっと睨まれているような視線を感じ、廉は落ち着かない。一番後ろのプラチナシートを逃すと、このように視線を感じるのは普通だっただろうか。小学校の時に渡部くんという男子が後ろにいた時以来のことだから、思い出せない。
ルーテリア・ユニアは、クラス内の話題に持ちきりだった。休み時間ごとに男子も女子も彼女の席を囲んで、質問攻めにする。
「ルーテリアさんは、どこの国の人なの?」
「たぶん知らないと思うわ。ヴェスタという小さな国よ」
「えー知らない。ヨーロッパ?」
ルーテリア・ユニアは、実に礼儀正しく応答していた。漫画にありがちな、こういう転入生のキャラクターとしては突拍子もないことを言い出してクラス内が騒然としてもいいはずなのだが。
だが、時おり廉の方を見る彼女の目は、ナイフのように鋭い。それは、気のせいではないと確信した。確かに前の席に座る廉を見るときだけ、ルーテリア・ユニアは厳しい顔つきになる。
なぜだ?
彼女が席に着いたとき、廉はきちんとよろしく、と挨拶した。その時は彼女も丁寧に挨拶を返してくれたのだが。そもそも、出会って数時間も経ってない相手に嫌われる心当たりはない。
そして放課後。
こちらに近づいてくる女子生徒の姿に、廉は少し慌てる。
長い黒髪に可愛らしい花の髪飾りをつけた、優しい笑顔が印象的な少女。この学校に通う男子生徒ならば誰もが一度は憧れる、このクラスの委員長。冴崎日鞠が、微笑みをたたえながらこちらにやって来る。
なんだ?何の用だ?と思ったのもつかの間、日鞠はルーテリア・ユニアの席の横に立つ。あ……そっちが目的だったのね、と廉は少し肩透かしを食う。
「ルーテリアさん。よかったら学校の中を案内したいんだけど、時間あるかな?」
ルーテリア・ユニアは長い睫毛が縁取る透き通るような青い瞳で日鞠を見つめ、小さく首を横にふった。豊かなブロンドの縦ロールが、ふわりと揺れる。
「ありがとう。でも結構よ。もう綿貫くんが案内してくれることになったから」
「なに!?」
突然名前を出され、廉は勢いよく振り向く。ルーテリア・ユニアは平然と、
「あら、さっき約束したじゃない」
「そっかぁ。もう仲良くなったんだね!じゃあ、綿貫くんに任せるね」
日鞠はにっこり笑うと、可愛らしく手をふりながらバイバーイ、と教室を出ていってしまう。
「な、なぜ……」
「あなたにお願いしたいのよ」
ルーテリア・ユニアはまた、あの鋭い目で廉を見つめる。
「……えぇと、ルーテリアさん?俺、あんたに何かしたかな。なんかずっと睨んでない?」
「いいえ。あなたはまだ何もしてない。悪いけど……これから私があなたに何かすることになるわね」
低い深みのある声で言われ、廉は底知れぬ恐怖を感じてぐっと唾を飲み込んだ。