綿貫廉、17歳
窓側の、一番後ろの席。
こんなにいい席を、出席番号順で合法的に得られる人生を、綿貫廉17歳は愛していた。
携帯電話をいじっていようが、ぼーっと窓の外を眺めていようが、まず注意はされない。
アニメや漫画だったら大体の主人公が座る席だろう。そして気だるげに頬杖などをつき、退屈な日常を憂いたりするのだ。
ただ、いくら座る席が一緒だろうと、漫画のような出来事が起こらない限り、廉はいつまでも平凡なままだ。主人公になれるのは、あくまで漫画の中の人物だけ。そんなわかりきったことが、少し寂しくもあるけれど。
例えば今日あたり、季節外れの転校生がいきなりやって来でもすれば、少し漫画らしくなるのだが。
「えー...…突然だが、転校生を紹介する」
ホームルームで担任教師から発された言葉に、廉は危うく声を出しそうになる。
5月だぞ?
こんな時期に、しかもこんなタイミングよく?
教室に入ってきた少女の姿を見て、廉はますます夢でも見てるんじゃないかという気分になる。
長いブロンドの髪を見事な縦ロールで結び、転校生だというのに制服の紺のブレザーをもう着崩し、スカートも恐ろしいほど短い。瞳の色は透き通った青色。どこの国の人間だ、というのが第一の感想だった。
「えーでは……自己紹介を」
担任に促され、少女は一歩歩み出る。
「ルーテリア・ユニアです。父親の仕事の関係で、こちらに来ました。日本はまだ慣れていないので、わからないことがたくさんあると思うけど、どうぞよろしく」
思ったよりもしっかりした挨拶に、少し拍子抜けする。
「では、ユニアさんの席は…… 」
廉はギクリとした。窓側一番後ろの席。他の列と比べたら、ここはひと席分のスペースが空いているのだ。