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LOST ー再試行に賭けた夜から朝へー  作者: 片ノ白 真緋
第1章 《ありうべからざるあるべき記憶》
1/3

【1】『廻りだした巡る邂逅』

片ノカタノシ 真緋マヒロと申します。初投稿なので、文章に自信はありませんが暖かい目で読んでいただけると幸いです。


 今年の夏は、例年に比べれば十分過ぎる程に涼しく、それなのに文句のつけようのない晴天が辺りを見守ってくれている日が続いていた。今日もそんな1日だ。

 午前9時頃のそんな穏やかで優しい今日を潰す勢いで、時間に追われ急ぐ社会人や部活に精を出す青春真っ最中の高校生を諸共しない叫びが木霊して四方八方へと反射する。勿論その叫びは叫んだ張本人をくっきりと、注目の的として象っている。


「俺はこの日を!待っていたぁぁぁああ!!いやぁ、3周年記念イベントのチケット当たるとは思わなかったからなぁ、嬉しさがフルコンボ叩き出したぞこりゃ!」


 意気揚々。今の彼を、蒼井 椿を表すのならこの言葉が1番適切な四字熟語だろう。壮大に純粋に我を語る独り言に合わせ、手足を大袈裟に動かしている椿は今、是非とも隣にいて欲しくない醜態を晒している。しかし注目の的となってしまった椿にも、冷ややかな目で見てくる周りを見るや否や頬を赤らめて声も体の動きも小さくなってしまうくらいの羞恥心はあったらしい。


 因みに、椿の言う3周年記念イベントとはマキシマムライブ(通称ML)というRPGにリズムゲーム要素を加えたスマホゲームのリリースから3周年が経った事を製作陣やゲーム内の声をアテレコした声優陣と共に祝おうとする完全抽選形式のイベントの事である。


 椿はこのゲームの記念イベントに参加する為、横須賀から小1時間かけて横浜へとやって来ていた。


「にしても、流石にそろそろ、次の日が楽しみだと眠れなくなるってのもどうにかしないと、身体面で厳しいもんがあるなぁ」


 そんな子供らしい体質を気にしながら前日の夜更かしを反省し、少ない睡眠時間で寝違えて出来たであろう痛みで悲鳴をあげる体を黙らせ、眠れず夜遅くまでスマホの画面と睨めっこしたせいであろう頭痛に耐えながら、一歩一歩と目的地であるパシフィコ横浜を目指して歩く椿は、よく来る横浜に似合わない妙に静かな風景に微かな違和感を感じていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あかん…こりゃ完全に迷子ってやつだ……パシフィコとかどこだよ」


 椿は自身の致命的な特性『方向音痴』とこの場合なら若干奇跡的な特性『帰巣本能』を発揮させながら桜木町の駅を出た所、つまり先程椿が叫んだ所に舞い戻ってしまった。


「なんで桜木町で降りたんだろう…みなとみらいで降りれば5分くらいで着くって書いてあったや〜ん……」

 

 泣いたって無駄なのは分かるがどうも無性に泣きたくなってくる。

 

 降り慣れた桜木町の方が信頼出来ると思っていた自分が1番信頼出来ない存在だった。それを20年弱してやっと気付けた自分が情けなく思えて仕方がない。

 

「そだ!スマホの地図使えばわかるじゃん!」


 それに気付くのがあともう少し早ければと思いつつも、椿は手のひらサイズの画面に記された道のりに従いGPSに翻弄されていく。

 

 目的地であるパシフィコ横浜が視界に入った時にはもうスマホのバッテリーは残り15%程度。桜木町に着いた時はまだ70%程だったから、どれ程迷ったのかこれを見ただけでも悲しい気持ちになってしまう。こういう日に限ってモバイルバッテリーを忘れてくるのだから。


「「あ、ごめんなさい!」」


 肩と肩がぶつかり謝罪が重なった。

 椿はスマホのバッテリーの事に気をとられ前を見ていなかった。そうなってしまえばそれは案の定の範囲にある話、人にぶつかった訳だ。見れば相手は同年代程の女性だ、当然の事かもしれないが振り返るまで女性である事に気付けなかった。しかしそれにはスマホを見ていたから以外の理由がある、ぶつかった時の椿に掛かった反動が大きかったのだ、それは一般的な成人男性、ないしはそれ以上の反動が椿を襲ってきたのだ。だが、ぶつかった時は勿論その反動の大きさに気をとられていたが、その女性の顔が見えた時、そんな事など心底どうでも良いと感じていた。

 

 今この時間に、この場所に、椿の前に立っていてはいけない人間。そこに立っていてはこの世界の倫理に反してしまう人間。一昨年行方不明になった、もっと的確に細かく言うのなら、他界してしまい椿を絶望の底へと落とした幼馴染、篠崎 千夏によく似た、いや、瓜二つな顔だった。

 

 千夏は、真面目な人間だった、しかしそれでいて彼女の性格の核なる部分を天然が牛耳っていたため気を抜くとすぐ天然発言が出てしまう、そんな辺りがギャップ萌えだと、千夏こそがギャップ萌えの真髄なのだと広辞苑に書き換えろと言いたいと椿は思っている。広辞苑にギャップ萌えの説明が書いてあるかなんて椿の知った事ではないが。勿論それだけではない、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、この言葉とは彼女の事と言っても過言ではない。むしろ千夏の為に作られた言葉だと、心の中で椿はいつも思っている。それくらい椿は千夏の事を人としても異性としても、好きだったし、信頼していたし、支えとしていた。

 

 そんな人間であったからこそ千夏がいなくなってしまった事は椿にとってこのまま死んでしまってもと思わせるほどの衝撃に満ちた出来事だった、だが千夏を追って死のうなど恐らく千夏本人はそんな事許しはしないだろうといなくなってから半年後に気付いた、だから椿は前を向いて躓きながらも歩いていた。それはあの時の記憶が薄れていく程に。

 

 椿の本能は危機を感じたか、あの日の記憶を鮮明に思い出す前に足を遠ざけさせ、椿の理性を、体を、心を、その場から立ち去らせた。


 心を急かし、体を急がせ、目の前に聳え立つパシフィコ横浜へ向かっていく、その間、止まらない鼓動はイベント会場がすぐそこだからだと言い聞かせていた。


 到着不可と思われていた会場に一歩一歩と近づいていく。今までの迷子の苦労がやっと消える、千夏に似た女性にぶつかった事もあり暗くなっていた椿の心はパシフィコに近づくにつれ徐々に晴れていき、解放感と達成感に満たされていく。感慨深くなり目頭が熱く涙が頬を伝わっていく、涙を拭き、ぎゅっと瞬きをしてから前を見上げるとそこにはあるはずのパシフィコ横浜の姿は無くなっていた。否、街全体が姿を変えていた。


 ビルは木々に、コンクリートは土に、人々は消え、椿と先程肩をぶつけてしまった女性と思わしき人だけが残っていた。


========================


「気の…せいだよな…疲れてるだけだろ、夜更かししちゃったし迷子になったし…」


 そう言いながら、何度も目を擦った。が、目に映るのは、それはもういわゆる『ザ・田舎』と言ったところだ。横浜とは似ても似つかぬのどかな風景に、消失感と焦燥感と先程違和感はこれなのかというもやもやからの開放感とこの田舎を見ていたいという衝動に駆られた。また、何かが頭に乗っかっている感触が気になるが触らぬ神に祟りなしという事で椿は気にしない事に決めた。


「どこかで見た事あった気がするんだよなぁこの風景……これナンパの口説き文句じゃね?」


 椿は田舎町にナンパしながら取り敢えず道なりに進んで行く、その先には先程肩をぶつけた女性に良く似た、いや違いと言えば薄い茶色掛かった黒だった髪から生粋の白髪へと変わったところぐらいな女性が立っていた。


「あの!どうやったら帰れますか!!」


 先に話しかけて来たのは女性の方だった。

 そんな事聞かれても、むしろ椿が今女性に聞こうと思っていたところだから答えようにも答えられない。


「…異世界?え…っと、リアル?まぁ、兎にも角にも取り敢えずここ、どこです?」


 咄嗟に出したその言葉に女性は困惑した様子を見せた。困惑してるのはこっちなんですが、なんて椿は当然言える訳もなく暫く沈黙の間が続いてしまった。しかし、その間を断ち切るように、人の話を聞かない椿に人の話を聞かないその女性はこう告げる。


「えっへん!わたし知ってますよ!あなたがこの場所の事を知ってる事ぐらい!!」


 そう言って白髪の女性は椿に向かって指を指してドヤ顔を決めてきた。この時の椿は、この人は何を言ってるのだろうかと半ば軽蔑をしていだのだから飛んだ最低な野郎である。しかもその相手は恐らく先程椿の不注意により肩をぶつけた人だと思われるのにだ。


「知らないです。」


「え…と、そんなはずはないと思うんですけど……まぁ、仕方ないですね、人間忘れる事もありますし!」


 あっさりと信じてくれ、尚且つフォローまで入れてくれたこの女性は本当は良い人でいて尚且つ単純な人なのではないかと椿は思い始めた。


「あっ!自己紹介まだでしたね。わたしはショコラ・サマーソング・アクスジャンって言いまぁす!ショコラって呼んでね」


「あ、俺は椿って言います。蒼井 椿です。よろしくお願いします。」


 椿も反射的に自己紹介をしてしまった。千夏似の女性だ、無論椿の好みの顔である。そのせいか自己紹介の仕方にコミュ障が出てしまっている。いや、正確には元コミュ障だ。高校に入った時までは確かにコミュ障だったが、高校3年生の時に何があったか突然コミュ障を克服出来たのだ。ただコミュ障は後遺症の様な形で健在していた。


「そっか!椿って言う…のね、それじゃ早速この町を探検してみません?」

 

「随分と急ですね、勿論嫌ですよ。正直に申し上げますと、そんなよく分からんコンプレみたいな格好した人と一緒に行動?はい、嫌ですね。」


「ひ、ひどいですよ、この服しかないんですよ!!この髪の色がデフォルトなんですよ!!」


 正直な話、椿は疑っていた。何にか、それは勿論ショコラ・サマーソング・アクスジャンという女性にだ。真っ白な髪に、透明感のある肌。見るたび癒されてしまう笑顔に、鉄紺と紅碧にワンポイントで白藍の入ったセーラー服によく似ていて、後ろの方で2つの布が伸び同じ色合いのミニスカートと、ボタンで繋がっているのかどんな構造なのかよくわからない服を着ているこの女性。先程も言ったが完全に椿のドストライクだ。だが、いや、だからこそ疑心暗鬼を止められずにいた。何故この様な人が此処にいるのか。何故ここまで千夏に似ているのか。それが不思議に思えて仕方がない。


「あ、あと、ここで立ち止まってても戻る方法なんて見つかりませんよ?」


 正論を言われた椿はこの時、確かにそれもそうだなぁ、それにこのショコラって人結構好みな感じだし、いっかな。と思い、共に行動する事に決めた。


「そうですね、このままじゃどれだけ方法練っても机上の空論に過ぎませんしね。分かりました、それじゃ取り敢えず第一村人発見しに行きましょうか。」


「はい!あ、あと敬語止めても良いですか?なんかこうっ、堅っ苦しく感じちゃうんですよね、椿も敬語じゃなくて良いからね!むしろ、敬語止めてください!」


 そんな会話をしながら椿達は正面の方を道なりに進んでいく、何故こうなってしまったのか椿は考えるのを止めた。情報が一切手元にない今、そんな事を考えていたって無駄に頭を痛くするだけだ。


「そう言えば、服はこれしかないって言ってたけどぶつかった時は普通の服着てたよね、そっち着れば良いんじゃない?」


 あの時ぶつかった女性が今此処にいるショコラという確信はないが、それよりもショコラがあの時の女性であって欲しいという感情が強く出てきたのがこの言葉。


  「アレはこっちの世界の人に私の事を気付かれない様にねって聞いてる?」


「あー、すまん…まさかそんな見た目で中二病患者だとは露知らず、いや、そんな見た目だからか?」

 

  「ち・が・い・ま・す・よ!!本当の事なの…で……あ、あのぉやっぱり今の言った事聞かなかった事にして欲しいんですけど…」


 否定するかと思いきや、途中でそれを中断し左手をゆっくりと小学生が発言するときの様に上げ先程ショコラが言った事を聞かなかった事にしてくれと椿に頼んできた。


「今のを忘れるのは、ちと無理な話だけど、そんなに聞かれちゃまずいのか?その中二病患者ってのは」


「中二病ではないんだけどぉ…この際、今はその理解で良いです。まぁ、ほんとに違うんですけどね」


 椿の問いにショコラはそう答えてた。この会話でショコラは恰も椿達が住む世界以外からやって来た、つまり我々がよく『異世界』と呼ぶものの存在が有り得ると言っているのだ。椿は幽霊や異世界の存在はアニメやラノベ、ゲームなどで観るのは好きだが、信じるかどうかはまた別の話である。と言うのも椿はそういった類のものの存在は全く信じていない。しかし、今の自身の状況もあり、そういった類のものが無きにしも非ずなのではと考えてしまう。今の椿にとって異世界などは有り得ないというこの考えは現実逃避の意味として確立している。


「なるほどねぇ、深い事情的なのがある訳か。良いよ、これ以上は何も聞かない、今はね」


「そう言って貰えるとわたしもありがたいなぁ、ん?今はねって言った?いつかは聞く気なのね!答えないからね!」


 そんなショコラを軽く無視しながら先へ進む椿は先程から何かが頭に乗っかっている感触を無視出来なくなってきていた。


 何かが乗っかっているのならはたき落とそうと思い、頭に手を持ってきたとき、優しく吹いていた風か止み、横で煩いショコラが黙り込み、もとい視界から消え、気付いた時には世界が黒く染まっていた。


一応、次回はショコラ視点の話にする予定です。

時系列は1話と同じです。

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