表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も私は死んでいる  作者: 柿の種
9/153

男は生涯で一番大きな声を上げた

男は子供のリスに手を引かれて歩いていた。


「…わ、私はどのように見える」


 男が子供のリスに手を引かれながら言った。


「え?どうみえるって、なんで?」


「う、うぬう…」


「なんで?」


「み、皆に聞いているんだ。私がどう見えているかについて…」


「なんできいてるの?」


 男は困っていた。本人は気づいていないが、目からは涙を流していた。

 男は涙を流した。


「うるさい!とにかく俺は何なんだ!」


「お兄さんはぼくとおなじリスじゃない。ぼくよりお兄さんだけど」


 男は唖然とした。

「…またか」


 何なんだ、私は一体何なんだ。私は何の生物なんだ。蛇なのか、キツネなのか、リスなのか。…わからない。なにもかも…


「お兄さんってぼくよりバカなの?」


 男は混乱しながらも


「バカではない」


 とはっきりした口調で返した。




「ここがぼくのすみかだよ」


 その住処というものは見た感じ、木に軽く穴があいてあるだけのもので、こんなもので大丈夫なのかと心配になった。


「…こ、ここか」

「そうだよ」


 そう言って子リスは中へ入っていった。男も苦い顔をしながら入った。


「…うお!中はなかなか広いではないか!」

「そうでしょ」


 中は予想よりもはるかに広く、男はよたよた歩き、何か心地よさそうなものを見つけ腰を下ろした。


「これはなんだ!ふかふかではないか!」


 男が興奮気味に言う。


「ふかふかでしょ」


「ここもよく見れば何となくだが、あの洞窟に似てなくもないな」


「でしょでしょ」


「決めた!私は、ここに、住む!」


「やった、やった」


 子リスはぴょんぴょん飛び跳ねている。


「なんだ?うれしいのかお前?」


「うん、うれしい」


「そうかそうか、うれしいのはいいことだ」


 男も嬉しくなった。すると子リスが

「じゃあきねんにこのおいしいのいっしょに食べよ?」

 男は木の実を受け取った。


「食、べる?」


 そういえば私は今まで何も口にしたことがなかった。私は食べなくても生きていける。食べるという感覚を知らなかった。


「いらないの?」


子リスが泣きそうな目でこちらを見てくる。


「食べないの?」


 男はすっと立ち上がり


「…食べよう」


 と言った、顔の眉間にはしわが寄っている。


「うん食べよう」


 子リスが踊って食べ始めた。


 男はそれを見てたどたどし、木の実をじっと見た後にやけになって一口で食べた。


「…こ、これは!」


 男は目が点になった。

 口に入れた瞬間はなんだこいつ、なんだこの行事は、いい加減にしたまえ!と思ったが、それをかじった瞬間に、その果肉?というのだろうか、それがぱあっと広がり、そしてほのかな酸味?というのだろうか、それとこれは甘味?というのだろうか、それらが交わり、最高に美味しい。



「どう?どう?」



 子リスがキラキラした目で言う。


「これが美味いというやつか!」


 男は生涯で一番大きな声を上げた。


「よろこんでもらえてうれしいよ」


 子リスはぴょんぴょん跳ねている。


「もっと持って来い、もっと!」

「いいよ、いいよ」


 子リスが木の実を山のように持ってきた。


「これが俗にいう天国ってやつか」


 すると子リスが急におとなしい声で


「ちがうよ、天国っていうのは、死んじゃったものしかいけないんだ」


 と言った。すると男は木の実を見てよだれを垂らしながら


「何を言ってる。天国も、そして地獄というのも、生きてるときにみるもんだ。天国も地獄も生きてるときの特権だ。まあ地獄というのはあじわいたくないが」


 そう言って男は木の実をすごい勢いで食べだした。


「だったら…」


 子リスがぼそっと呟いた。


「ん?なんだって?」


 男が木の実の汁を飛び散らしながら言う。


「ううん、なんでもない」


 子リスが答えた。急に覇気がなくなったように思えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ