私は会話がにがてである
私は洞窟から出て、川にむかい、川を見つけ、新種生物に出くわし驚愕し、キツネと話し、がっかりさせ、かるく私もがっかりし、水面に自分がうつらずもっとがっかりし、手足のない川の中の新生物にまた驚愕し、帰ろうとしたら帰り方がわからずまたがっかりした。
あれから三日たった。現在私は川の近くの森の中ですわっている。確か人間はこのすわり方を(体育すわり)と呼んでいた気がする。どうも洞窟でないと落ち着かない。あれから洞窟を探しては見たものの、現在この体育すわりとやらに落ち着いている。
「はて、どうしたものか」
私がこのセリフを言うのはこの三日間で三二七二回目である。もはやよく言う言葉とかそういう次元じゃなくなっている。
「はて、どうしたものか」
また言ってしまった。
「お兄さんどうしたの?」
その声にふりかえるとそこには子供のリスがいた。
「う、うぬう…」
私は会話がにがてである。いつも誰かと話すときに変な口調になってしまう。前のキツネのようにならないように気を付けなければ。
「…私は洞窟に住んでた…でも今帰れない」
「なんで?」
「…迷ったから」
「なんでまよったの?」
これはまいった。
「…私が帰り方を、知らない、から」
「なんで?」
キツネよ…私は本当にひどいことをした。今、実感した。
「…わからない」
「なんでわからないの?」
「…んくう」
私の目はたぶん今グルグルしてる。
「じゃあぼくのすみかにくる?」
「…ん?」
「だって帰れないんででしょ。だったらぼくのすみかにおいでよ」
「…うん」
私は子供のリスに手を引かれながら歩き出した。