生きるということ
ある洞窟に男がいた。その男はもう何年もここにいる。ずっといる。飯を食べるでもなく、何をするでもなく
生きているのか死んでいるのかもわからない、そんな感じだった
その洞窟は森の中にある。人里から離れているのかここに人が来ることはない
私は洞窟にいた。
何をするでもなく、気付けば一日が過ぎ、また一日が過ぎ、気付けば何年かたってしまったように思える。私にはぼーっと時が過ぎるのを待つことしかできない。私には何もないのだから。
歩けはするが、歩いてどこかに行ったところで何も感じず、そこにとどまり、ぼーっとしているといつのまにか数年が経過している。そんな感じだ。だから歩いたところで意味がない、走ったところで意味がない。だからもう移動もしない。動きたくない。
私は生きているのかわからない。死者の魂なのではないかと思っていた時期もあったが、どうもこれもピンとこない。自分が何者であるのか何故ここにいるのかわからない。自分がどんな姿なのか水面で見ようとしたが、そこには何も映らなかった。私には何もない、心も体も。
だが考える力はある。この思考というものはある日突然私の中に入ってきた。
私は一時人間界にいた、誰にみられるでもなく、誰とかかわるでもなく、ただ何となくそこにいた。そして何年か過ぎたとき、私に違和感が生じる。目の前の人間を認識できる、今まで何も思っていなかった、考えていなかった、というよりそんな物なかった。それなのにこれは一体何なんだ!怖くなって私はそこを離れた。それ以来人間界に行ったことはない。
その日以来、時間が長く感じるようになった。
思考など邪魔でしかない、思考などなければ時間などあっという間に過ぎ去ってしまうのに、自分に興味など湧くこともなかったのに、自分の存在意義に苛まれることもなかったのに…。
今日も男は洞窟にいる。何をするでもなくぼーっと何かを考えている。