セーラー服を狩らないで
男女平等が掲げた日本は、あらゆることに対して平等にしてきた。
そして、時代は進み政府は新たに高校生の制服選択自由化を義務付けた。
内容はいたってシンプルだった。
制服を男女関係なく選ぶことができる。
女生徒が学ランを選ぶのも可能になり、そしてもちろん男子生徒がセーラー服を選ぶことも出来るのだ。
これは、ある男子生徒の戦いの記録だ。
桜が咲く季節、私、奈倉 梓は高校生へと進学した。
入学するのは、私立 眞白高等学校。
この高校は、とても倍率が高くて正直私がここにいるのも不思議なくらい。
理由は今着ているこの制服。
今時珍しい、セーラーで赤いリボンがチャームポイント。中学二年生の時に街でこれを着ている制服のお姉さんを見てから、私はこの子の虜になってしまった。
「一生懸命、勉強して良かったなー」
周りを見ると、私と同じ制服に包まれた女の子達が歩いていた。
きっと、この高校生生活は素敵になる。
そう予想していた。
「良いか、特にセーラー服を着用している奴等……きちんと着こなしていない奴に俺は容赦しない。その制服狩るぞ……」
………ん?
今、何が起こっているんでしょうか?
入学式で新入生代表で、一人の男の子が壇上に立っていた。
セーラー服姿で。
しかも内容が物騒なこと言ってるし……
けど、セーラー服姿。
新入生代表ってことは、入試で一番だったってことだよね?
顔だけ見ると、とても真面目な青少年。
けど、セーラー服!
周りを見ても彼の言動に唖然としていた。
確かに今年から制服の選択自由化されて、制服を発注するさいに男子の制服も選べたけど……まさか、男の子が女子の制服を選ぶなんて。
彼は一体何者なんですか?
「茂木中学から来た、白石 小太郎だ。」
教室が入学式の時のように異様な空気に包まれる。
原因は全く同じで新入生代表の挨拶をした生徒によってだった。
セーラー服姿の彼は、私達の様子を気にすることもなく堂々として、腕を組み、足を組み座っている。
クラスの子達はコソコソと話し始めて、1人の女の子がクスクス笑ってしまった。
それを聞いて白石くんは急に立ち上がり、その生徒の目の前に立って睨みつけていた。
「おい、お前。」
笑われたのが、気になったのかな?
クラス全員の視線が彼にいく。
「な、なに?別にアンタのこと笑ったわけじゃないわよ。自意識過剰なんじゃない? 」
その子は少し声を震わせながらも彼に対抗していた。
「し、白石君、授業中だから座りましょう?ね? 」
先生も必死で止めようと間に入るけど彼の目には入っていないようだった。
「何を言ってるか知らないが、俺はさっきからお前の身だしなみで気になる点がある」
え?
素っ頓狂な返答にさすがの相手も言葉が出ない。先生も自分に被害がいかないように、彼から離れてしまっていた。
「まず、そのスカートの短さ。短くするならきちんと折れ。折っているのがバレバレで足が短いのが丸わかりだ。そもそも制服のスカートの丈はどの女子も平均的に似合うように作られている。それを折るということは、お前は平均以下な人間ということだ。」
「は、はぁっ?!」
女の子は急に言われた侮辱に顔を歪めた。
「次に、制服姿だというのにお前化粧してるだろ。良いか制服は青少年、青少女が似合う物なんだよ。お前みたいなみてくればかり気にして、大人のフリしてるやつに似合うわけないんだよ。それともお前はもう青少女といえないか?このクソビッチが! 」
教室が凍りついてしまった。
女の子は怒りを言葉に表せられないか、プルプル震えていた。
まさに爆発三秒前という感じだった。
「アンタ、なんなのよ!!」
彼女の怒号と一緒に手が振り上げられた。
入学早々、暴力事件?!
白石君に平手打ちがされそうになるけれど、彼はそれをあっさりと避けてしまい。
何故か彼女のリボンを取っていた。
「お前にこれをきちんと着る資格はない。ジャージからやり直せ。クソが」
女の子はその場で泣き崩れていた。
白石は満足そうに、そのリボンをどこから出したのかハサミでバラバラに切ってしまった。
彼女の泣き声が響く中、彼はまたあの時と一緒の台詞を言った。
「きちんと着こなしていない奴に俺は容赦しない。その制服狩るからな」
この時、クラスにいた全員が彼はふざけて言っているんじゃなくて本気なんだと感じた。
それから、白石君の被害者は日に日に多くなった。
学校は少し厳しくて、制服に不備のある物はジャージを着なくてはいけないという変わった校則がある。
もちろん、登校も下向も学校指定のジャージだ。
しかも、白石君が切ってしまうリボンは特注品で買うにしても少し値段のするものだった。
また発注にも時間がかかるらしくて、最低でも二週間はジャージ姿でいなくてはいけない。
もしかして、白石君はそれを知っていてリボンを切っているのかもしれない。
もちろん、女生徒だけではなく男子生徒も被害にあっていた。
男子生徒にはネクタイがついているので、それを切られてしまう。
学校中は白石君を恐れていた。
関わらないように、生きていこう。そう決めていた。
幸いにも地味な私は大丈夫だろう、油断していた。
「おい、そこの女生徒止まれ」
ある日の放課後、日直の仕事で1人で居残っていた私は白石君に止められた。
「な、なんでしょうか……」
白石君の注意は大抵、スカートの短さや頭髪だったりする。私はスカートを折ったりはしていない。頭髪だって問題ないはず。けれど彼の何かに引っかかってしまい
「……襟が、汚い」
眉間にしわを寄せながらこちらにせまってくる様子は、恐怖以外に言葉が見つからない。
狩られる……
せっかく頑張って、受験合格して得た制服なのに、この制服が大好きなのに!
「次から気をつけますから! 制服を取らないで!」
どこから出したのか分からなかったけど、廊下中に響く声で叫んでいた。
お願い、やめて……
気持ちの昂りで涙が出てきそうになるのを我慢する。
「……そうか、なら次から気をつけるんだな」
白石君は一体どこから出したのか、携帯用のアイロンを出して私の襟にあてて、のばしてくれた。
てっきりリボンをとられると思っていたので、思わぬ行動と言葉に唖然とするかなくて黙ってアイロンをかけてもらった。
しばらくして、満足したのか彼はアイロンをまたどこかにしまい、その場を去ろうとした。
私は思わず、声をかけてしまった。
「あ、あの……」
「なんだ?」
彼の不機嫌そうな顔を見て声をかけなきゃ良かったと後悔が生まれる。
「リボン、とらなかったのはどうしてですか?……」
とられるはずだったリボンを、ギュッと掴みながら聞いた。
「なんだ、狩ってほしかったのか?」
「ととととんでもないです!」
「別に、シワがぐらいではやらん。だけど、次はないからな。毎日アイロンがけぐらいしろ。それが制服に対しての礼儀だ。」
制服に対しての礼儀……
白石君の制服を見ると、襟はもちろん、スカートの折り目もとても綺麗だった。
ゴミ一つついていなくて、私と同じ制服のはずなのに何か違って見えた。
「白石君は、この制服が好きなんだね」
「当然だ、だから着ている」
「私も! 私もこのセーラー服が着たくて、この高校を受験したの。大好きなの! だから、だから……きちんと着こなします!」
って、こんな宣言彼にしてどうするの……
慌てて、ごめんなさいっとさっきまでの強気を撤回すると、白石君は鼻で笑い飛ばしてくれた。
「一緒だな。俺も、このセーラー服が着たくて入学を希望した」
私は、堂々した彼の姿に一瞬ときめいてしまった。
女子制服を着ている彼がカッコいいって思う私は、頭のネジが飛んじゃってるのかもしれない。
「お前、名前は?」
「奈倉 梓 白石君と同じクラスだよ」
「奈倉、覚えておこう」
彼はそう言って、また生徒の服装を狩りに行ってしまった。スカートから出ている白い足は、私よりも細くて綺麗だった。
これが、私と白石君の出会いです。
とんでもない人がいる高校に来てしまったと思ったけど、なんとかやっていけるような気がしました。
この時までは……
彼の戦いはこれからだったのです。
それが始まるのはもう少し先のお話です。
最初に言っておきます。
続きません。
ただの思いつきで書いたお話なので、雑い内容となっています。
この後、白石君VS生徒会や制服泥棒を撃退したりなどドタバタなことが起きるまで想像しています。男の子も早くセーラー服が着られるようになってほしいです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。