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61.ルストとシュピーゲル

『完成したな』

俺の毒腺に新たな毒が満ちると、テレサの周囲の楽譜が消えていった。これで毒は完成らしい。早速試射を行ってみようか。

俺は周囲を確認し、ばれなさそうな相手を捜した。どうせこの街全域に使うが、最初の騒ぎは小さい方が良い。街から逃げられると、それはそれで面倒だからな。


『…うん?』

『どうしました?』

『いや、アビス達を探索させていた方の頭が、ようやくアビス達を見つけただけだ』

今俺の視界の一つには、無数のアビス達の姿が映っている。

以前見たアビスウォーカーに、アビスコアに寄生されている魔物の姿がかなりある。他にも知らないタイプのアビスの姿もちらほらあった。


『アビスですか?』

『ああ』

『随分と数がいましたが、どんな様子ですか?』

『そうだなぁ。……この街を攻める準備中かな?』

少しアビス達の様子を観察してみると、なんとなくアビス達の意識がこのトワラルの街に向いているように感じた。その証拠に、アビスコアに寄生されている魔物達の視線が一様にトワラルの街を見ている。


『この街をですか?でしたら、共食いでもさせますか?双方で潰しあってくれれば、こちらとしては好都合ですし』

『貴女はそれで良いのか?』

『邪魔物が互いに潰しあってくれるのですから、私としては問題無いです。出来ればこの手で人類種達を始末してしまいたかったのは事実ですが、アビスに生命力を搾り取られた死に方も、ある意味人類種達の自業自得で、人類種達にはお似合いの末路です』

『そういう考え方もあるか。なら、奴隷商から信徒達を回収したら、高見の見物と洒落込むとしよう』

『ええ、そうしましょう!』


そう決まったので、俺は頭の一つを奴隷商の建物に向かわせた。頭が到着したら、建物を丸呑みにして、亜空間エリアを経由して上空にいるダンジョンゴーレム内に待機している頭から吐き出す。それで彼らの保護は完了となる。

頭の一つを上に残しておいてよかった。おかげで保護がスムーズに終わる。


そして俺は、城の方を見た。

アビスからの襲撃で起きる騒動に紛れ、ニュクスとアステリアの宝玉を回収しないとな。


『うん?』

そう思って領主の城を見たのだが、視界に何かが引っ掛かった。


『どうしました?また向こうで何かありましたか?』

『いや、向こうじゃなくてこっち側だ。今城の傍に何か…』


ドォーン!!


そう彼女に言おうとした直後、突如領主の城の上半分が吹き飛んだ。


『『「「「はっ?」」」』』

俺も、彼女も、テレサ達も、街を歩いていた人類種達も、全員がその突然の出来事に、目を白黒させた。


ドォカーン!!


そして全員が領主の城を見ていると、今度は領主の城の下半分が、地下からの爆発で吹き飛んだ。


『『「「「へっ?」」」』』


だれもかれもが、この立て続けに起こった事態に茫然とするしかなかった。


『………あっ!宝玉!』


しばらく間抜けにも茫然としていた俺だが、いち早く復活して、ニュクスとアステリアの宝玉の回収に動きだした。ちなみに見張りとして宝玉に張り付けていた二つの頭は、今の出来事で両方とも吹き飛ばされてしまった。現在は自動治癒で復活し、城の瓦礫の下で宝玉を探している最中だ。


『うん?……うげっ!退避!!』

そうして宝玉を探していると、瓦礫の下で見つけたくないものを見つけてしまった。それはよくわからないものだったが、安全を優先してこの場からの退却を俺は選択した。

まだ茫然としているテレサ達の身体を操り、領主の城跡から急いで距離をとる。宝玉を探索させていた二つの頭も忘れずに後退させる。


ドォーン!ドォーン!


その合間に、今度は城跡の二カ所で瓦礫が吹き飛んだ。

そちらを見ると、城跡で何かがうごめいているのが見えた。それは最初、本当に小さな点のようなものだった。しかし、突如その質量を急激に増していき、あっという間に瓦礫と化す前の領主の城と同じくらいのサイズにまで膨れあがった。


自分の現在のサイズを無視するなら、二体の巨大生物か怪獣、巨人が突然出現したような状況に今はなっている。


片方は最初、白いゲル状の何かだった。それが質量を増していき、現在は白い人型の巨人となっている。

もう片方は、最初は黒い菱形のクリスタルのようなものだった。それがどんどん周囲に自身の結晶を伸ばしていき、現在は黒い蟻のような巨大生物の姿となっている。


どちらも現在はとくに動きを見せていないが、どちらか片方でも動きだせば、この街は今日中に廃墟となることだろう。ただの想像ではあるが、現状ではその未来が一番現実的だと思った。


いやそれとも、二体で怪獣大決戦でもやりだすだろうか?いや待てよ、さらにそこにアビス達も加われば、三つ巴の戦いに発展しやしないか?

………普通にありえそうだな。


どうやらこの街と人類種達を襲う現実は、悪化の一途を辿って行くようだ。



……まあ、この街や人類種達のことはもう横に置いておこう。こっちに飛び火さえしなければ、あっちがどう行動しようと関係ないしな。今俺が考えないといけない問題は、ニュクスとアステリアの宝玉がどうなったかについてだろう。なんせ、城自体が吹き飛ばされて瓦礫の山になっているからな。何処にいったことやら。


『……うん?ルストにシュピーゲル?それにこの気配…』

そう思いながら俺は、それぞれの頭で宝玉の探索と巨人と蟻、アビスの監視を行った。だが、すぐに意識を巨人と蟻に集中することになった。

その理由は、白い巨人と黒い蟻を見ていたら、その二体の種族名が記憶の中から出てきたからだ。また、この二体からはここ最近身近で感じているのと類似した気配をそれぞれ感じたのも理由としてはあった。

その類似した気配というのはずばり、ノルニルとラケシスの気配である。つまり、あの二体から管理神達の気配がしているのだ。なら答えは簡単だ。どうやらニュクスとアステリアの宝玉は、ルストとシュピーゲルにそれぞれ取り込まれてしまっているということだ。

これはかなり問題のある事実だ。しかし、俺としては彼らのことが自分の記憶から出てきた事実の方により驚いた。

これはあれだろうか?以前彼女が言っていた、記憶のプロテクトとやらがこないだの進化で緩んできたということだろうか?

……とりあえず、今はそれらを気にせず、彼らに関する記憶と知識を頭の中から引っ張り出すことにした。


そしてその情報が以下のものとなる。

白い巨人の方がルスト。種族の基本形態は最初のゲル状の姿で、性質というか性格は情熱的である。何に情熱的かというと、恋愛と繁殖にだ。ルストは基本的にはゲル状のスライムの姿でいるが、他種族に恋をすると、その他種族の細胞を取り込み、その種族の姿と特性を全て模倣する。あとは恋した相手に突撃し、両思いになったらその相手と繁殖。振られたら、その相手の細胞。遺伝子情報をこっそりゲットして、自己分裂的な感じで繁殖する。

そうして生まれた子供には、ルストと相手の種族の特性が必ず引き継がれる。こうしてルスト達は、自分達の種族を強化しつつ、より良い相手と番いになることを夢見ながら生きていく。ちなみに、ルスト達の価値観としては、繁殖よりも恋愛。もっと言えば、相思相愛の大恋愛をすることがもっとも重要なこととなっている。


次に黒い蟻。こちらがシュピーゲルである。こちらの基本形態も、最初の菱形のクリスタルがそうである。性質というか、性格は基本的に大人しいが、怒らせると洒落にならない。なぜなら、シュピーゲルの種族能力は反射と転写だからだ。外敵の攻撃を反射し、その攻撃を自身に転写する。ルストが種族的に強化していくのにたいして、シュピーゲルは個体を強化していくというわけだ。ゆえに、シュピーゲルの個体的な強さはバラツキが激しい。まさしくぴんきりだ。しかし、ぶっ飛んでいる個体はとことんぶっ飛んでいるということでもある。


つまり、どちらもアビスのような危険性は無いが、戦う相手としてはどちらも避けたい相手ということだ。



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