56.街での探索
「うわー!いろいろとあるなぁ。婆ちゃん、これが人の街なのか?」
「ええそうよ」
「いっぱい人がいるんですね」
街に入ったテレサ達は、とりあえず街中を見て回っている。フレイオンやシャヘルは、始めて見る人の街に興味津々なようで、街のあちこちに視線を向けてははしゃいでいる。
完全なお上りさん状態だ。
まあ、それも仕方がないんだろうけどな。ずっとあんな陰気な施設暮らしだったんだし。
「それで、これから私達はどうすればよろしいのです?」
『とりあえずは、この街にある二つの宝玉を捜索しよう』
「わかりました」
『宝玉への誘導は可能か?』
『可能です。ルート案内を開始します』
テレサ達は彼女の案内に従って、街中を歩きだした。
『あそこですね』
彼女の誘導に従って、中世ヨーロッパのような煉瓦づくりの町並みを歩いていくと、街路が集中した開けた場所に出た。
そこには、周囲の建物の比ではない、大きく荘厳な建物の姿があった。いや、ここははっきりと言ってしまおう。その大きな建物の外観は、西洋風のお城だ。お城の規模なんてものは知らないが、少なくとも駅のホームのサイズくらいはあるように見えた。
『街中にある城ってことは、領主の居城ってことでいいのか?』
『はい、それで合っています。あの城は、このトワラルの街を治めている領主のものです』
『…あの中に宝玉があるのか?』
『はい。あの城の宝物庫の中に闇の宝玉があります。もう一つの星の宝玉は、領主の執務室のインテリアになっています』
『宝物庫と領主の執務室か。どちらも宝玉を回収したらすぐばれそうな場所だな』
というか、ばれなきゃまずい場所にあるな。これでばれなかったら、どんだけ管理が杜撰なんだよって、話しだよな?
『そうですね。回収するのは簡単なんですけどね』
『そうだろうな。[透過]と[亜空間エリア]を組み合わせれば、誰にも気づかずに回収出来るだろうな』
『いっそあの城を叩き潰しませんか?そうすれば、宝玉を回収しても気づかれませんよ。おそらくですが、瓦礫に押し潰されたとか人類種達の方で勝手に解釈してくれると思います』
『やたら過激というか、物騒な提案だな。まあ、俺は別にその提案を受けても構わないんだが…』
「領主様のお城を破壊!本気なのですか!?」
ちらっとテレサのデコイを見てみれば、信じられないという顔をしていた。
まあ、とくに敵対をしてもいない相手の居城を破壊するなんて、ある意味テロと変わらないからな。だが、それはテレサ達の話し。俺や彼女にとっては、明確な敵だからな。管理神達を回収する為には邪魔だし、俺達には城にいる人類種達を生かしておかなければならない理由なんてものはない。というか、このトワラルの街にいる人類種達は潜在的かつ、後顧の憂いになる可能性のある相手。最終的には残さず片付けておきたいというのが本音だ。
『本気かと問われれば、俺達は本気だと答えよう』
「……どうしてもやるのですか?」
『今はまだやるつもりはないな。まだデメテルの宝玉がこちらに向かっている最中だ。今のタイミングで領主の城を襲撃すると、ひょっとすると異世界人がこの街に来なくなるかもしれない。なら、ことを起こすタイミングは異世界人達がこの街に来てからだ』
難しい顔をしているテレサに、俺はそう自分の考えを伝えた。
『それでは、二つの宝玉を二週間後までずっと放置しておくのですか?私としましては、早くニュクスとアステリアを救出したいのですが…』
『もちろんただ放置なんてことはしない。不意のアクシデントに備えて、俺の頭をそれぞれの宝玉に張り付けておく。もしもの時は、デメテルの宝玉は今回見送って、二つの宝玉の方を優先的に回収する。それで問題はあるか?』
『いえ、それで構いません。出来れば人類種達の手に堕ちている宝玉は、三つともすぐに回収したいというのが私の本音ですが、貴方に無理を強いるつもりはありません。貴方が健在なら、いずれは宝玉を回収出来るでしょう。私はその時を待つことにします。もう二千年も回収出来ずにいたのですから、いまさらな話しでもありますしね』
『そうか』
俺は彼女の許しをもらうと、早速二つの頭をそれぞれの宝玉のもとに向かわせた。テレサのデコイの中から二つの霧が発生し、城に向かって飛んで行った。
これでこの街に来てから分離させた頭は、合計三つか。
『そんな暢気に感想を持っていますが、頭をこうも簡単にぽんぽん分離させても大丈夫なんですか?』
『本体にはとくに影響はないな。まあ、例え分離させた頭が消滅しても、どうせ本体の方に生えてくるしな。ヒュドラの頭は一本は不死で、残りの頭も潰しても複数に分裂して新しく生えてくる。それは神話での話しで、俺にそんな便利かつ反則な能力は無い。だが、その代わり俺には[エレメンタルの魔素炉]がある。外部と内部から無尽蔵のエネルギーであらゆるものを回復し続ける特殊能力。この特殊能力が有る限り、俺は不滅だ』
『たしかにそうですが、あまり過信はしないでください。その能力はあくまでも回復。即死したらどうにもならないんですからね』
『そうだな。だが、それでも管理神達を取り込んでいる俺を倒せる奴なんて、かなり稀だと思うがな』
『まあ、それは否定しまんけど』
「この後はどうなさるんです?」
『とりあえず、宝玉に対する備えは出来た。異世界人が来るのは今のペースで二週間後だから、こちらは急ぐ必要は無し。あとやっておくべきことは、この街にいる管理神達の信徒の有無の確認だな』
「私達と同じような人々を捜すのですか?」
『ああ。二千年ものの長き年月、管理神達に祈りを捧げてくれた相手だ。今の勢力図から考えると、かなり少数だろう。出来れば保護するか、俺達の仲間に加わってもらいたい』
「そうですね。私達のように管理神の方々を崇める人々は、今ではかなり少数です。それに、私の家は陰で密に信仰を受け継いできました。おそらくは、他の管理神達の信徒の方達もそれは同じはずです」
『だろうな。だからこそ、信徒達の安全確保が必要になる。つらい生活を送っているのなら、その生活から解放してやりたい。そうでなくても、同朋との繋がりは必要だ。また、この街の周囲にはアビスと謎の異世界存在が徘徊している。信徒達のことを把握しておかないと、信徒達が奴らの餌食になる可能性がある』
『たしかにその可能性は高いですね。アビス達は生命体を無差別に襲いますから』
『だろう。それに、俺達がこの街を破壊する時に巻き込む可能性もある。まあ、そちらは俺達の意思で起こさなくすることが出来る事柄ではある。だが、宝玉の回収時や異世界人達との戦闘に巻き込む可能性もある。なら、平和な今のうちに見つけておくにかぎる』
「そうですね。ですが、こんな広い街でどうやってその人々を捜すのです?また、この街にいる信徒達を全員見つけられるのでしょうか?」
そう言うテレサの表情は、不可能ではないかというものだった。
『たしかに、普通に捜すのなら難しいだろうな。だが、俺達には普通ではない手段が手持ちにある』
『私にお任せください』
『ああ、頼む』
『それでは、………あら?』
『どうかしたのか?』
『それが、この街に検索をかける時にノイズが入るんです。この感じは、何らかの隠蔽スキルか魔法が発動しているようです』
『隠蔽スキルか魔法ねぇ?ここの人類種達は、何かを隠れて行っているってことか?』
『その可能性はあると思います。ですが、それをやっているのがアビス達である可能性も否定は出来ません』
『そうだな。なら、今度は俺の方でやってみよう』




