53.実験と目的
『まずはこれからやることについて。まず最初にするのは、俺の特殊能力を使っての、ダンジョンゴーレムを基点とした一定の範囲の空間の異空間化と、ダンジョン化だ』
「この施設の異空間化とダンジョン化ですか?」
『そうだ。これによって、俺達は自分達に都合の良い拠点を確保する』
「貴方達に都合の良い拠点と言っていますが、実際にはどういうものになるのです?」
『そうだなぁ?まず第一に、異空間化させることである意味この世界から独立させることが出来る。これによって、異空間内は外界からの影響を受けなくなる』
「具体的にはどうなるのでしょう?」
『それは…』
『それは私が説明しましょう』
俺がテレサに自分なりの説明をしようとしたところ、彼女が割り込んできた。どうしたのかとは思ったが、ここは専門家に説明を任せることにした。
『まずメリットとしては、私(この世界)から独立していることによって、この世界で発生する自然災害や人災の影響を受けなくなります。例え強力無比な魔物が施設の近くで暴れようが、竜巻や地震が発生しても被害を受けることは絶対にありえません。また、異空間化していることで内と外のルール(法則)が違うので、外からの魔法やスキルを遮断することも出来ます。つまり、この施設を難攻不落の城塞にすることが出来るというわけです』
「難攻不落の城塞…。随分と便利そうな特殊能力をお持ちなのですね」
彼女の説明に、テレサ達は驚きながらも感心しているように見えた。
『メリットは外部にたいしてだけではありませんよ。ダンジョン化することによって、内部の空間も好きに弄れるようになっています。好きな場所に多種多様なトラップを仕掛けることも出来ますし、ダンジョン内の環境も自由自在です。山だろうが海だろうが、自由に配置出来ます。細かく設定すれば、その山や海から山の幸や海の幸を得ることも可能になります。また、生態系や自然の循環系を構築することにより、それらを何度でも取れるように設定することも可能です』
『だからこの特殊能力を使えば、貴女達の食料事情の問題を一気に解決することも出来る』
「まあ!それはすごいですね!」
俺がテレサ達に、彼女達の問題を解決出来ることをアピールしてみると、テレサ達の輝いた。
どうやら、彼女達の食料事情はわりと切迫していたみたいだ。
「……ですが、そこまで貴方達にご迷惑をおかけして良いものでしょうか?」
だがテレサは、すぐに申し訳なさそうに顔を曇らせた。
テレサは好意にただ甘えるだけの人物ではないようで、俺は好感を覚えた。
『別に構わない。別段貴女達が関係していなくても、このダンジョンゴーレムは異空間化させる予定だったし、食料の生産もするつもりだったからな』
「そうなのですか?」
『ああ。異空間化の特殊能力は常時発動型だから、今も俺の周囲の空間を異空間化している。ただたんに範囲を広げるだけだから、そんなに手間もかからない。それと食料の方も、自分が食べる為に大量生産するつもりだったからな』
「…大量生産。貴方にはそれほどの食料が必要なのですか?」
『なにぶん図体がデカイからな。怪獣サイズにもなると、狩りでは餌をいくら捕っても足りないだろうし、よしんば狩りで腹を満足がいくまで満たせたとしても、捕りすぎで生態系を破壊しそうだからな』
「怪獣というのはわかりませんが、それはまずいですね。自給自足が可能なら、ぜひそうしてください」
『ああ。あと、貴女達でも食べられる食用の魔物も生産するつもりだ』
「食用の魔物ですか?なぜわざわざ魔物を食用にするのです?」
『まずは普通の生物よりは食いであるからだな。あと、俺の特殊能力では普通の生物を大量生産するのは難しいんだ。出来ないわけじゃないが、手間隙かかるわりに腹が満たせないんじゃやる意味自体が薄いからな。それと、実験的にその方が都合が良いからだ』
「実験的に都合が良い?食用の魔物が実験に必要なのですか?」
『食用である必要はないが、魔物は実験に必要だな』
「魔物をどう使うのですか?」
『貴女達に狩ってもらうつもりだ』
「それはいったい…?」
『それを説明する為に、実験の内容を一括で伝えよう。疑問についてはあとで解答する』
「……わかりました」
テレサや他の二人が頷いたことを確認し、俺はぼんやりとした実験内容を話し出した。
『まず最初に、先程言った異空間化・ダンジョン化で安全な拠点を用意する。次に、その中で魔物と戦闘を行う。あとは、戦闘を繰り返しながら生活を送ればオッケーだ。高望みをするなら、貴女達にはどんどん子供を産んで育てていってもらいたい。いじょうが俺の実験となる。何か質問はあるか?』
「……一つお聞きしたいのですが、それのどこが実験なのでしょう?」
俺の実験内容を聞いた面々は、皆不思議そうな顔をしていた。
『実験だよ。貴女達の成長率を確認する為のね』
「私達の成長率を?どういうことでしょう?」
『俺の特殊能力である[ダンジョン領域]には、異空間化・ダンジョン化の他にも、魔物を生み出す効果や、敵味方の成長率に補正をかける効果がある。それがどういう風に作用するのか、実際に確認したいんだ』
「なるほど、そういうことでしたか」
テレサは俺が実験と言ったことに納得がいったようだ。
『まあ、他にも目的はあるがな』
「他にもあるのですか?」
『直接、間接、結果的にそうなるだろうというのがな』
「内容を聞いてもよろしいですか?」
『構わない。まずはダンジョンに住んでもらうことで、貴女達を外にいる連中から保護出来る。次に、貴女達を保護することによって、最低限の管理神達への信仰と祈りを確保出来る。これによって、今だに封印されている管理神達の復活が助けやすくなる。次に先程から話している実験に協力してもらう。成長率を確かめる為には、戦闘をしてもらう方が効率が良いと俺は思っている。この成長確認に食用の魔物を用いることにより、成長と食料の確保が同時に出来ることになる。また、これは言い方を変えると、管理神側の戦力強化と、貴女達信徒達の生活を成り立たせられると言える。そして、自分達の生活が成り立つのなら、人は自然に数を増やしていく。普通なら移民とかでも増えるんだろうが、貴女達の場合は全て子宝になるだろうな。子宝がふえれば結果的に戦力が増えるし、管理神達を信仰する者も増える。これでさらに管理神達の力が回復。あるいは増すことになる。貴女達が誰ひとり死なずに数を増やしていけば、やがてこの世界(彼女)を取り戻し、貴女達が世界に満ち満ちることも夢ではない!』
俺はそう締めくくり、テレサ達の様子を確認した。
「「「『・・・』」」」
なぜか全員がぽかーんっと、していた。
一気に伝え過ぎただろうか?
俺はしばしの間、皆が回復するのを待つことになった。
『……随分と壮大なことを考えていたのですね』
『そうか?私的にはそこまで壮大な話しとは思わないが…』
『やがて世界をテレサ達の子孫で満たす。十分壮大な話しだと思いますよ』
『そこだけ聞くと、たしかに壮大だな』
『それと一つ気になったのですか、誰ひとり死なせずにというのはどういう意味なのですか?貴方の能力に、対象を直接不死にするようなものはなかったはずなのですが?』
『いや、あるぞ』
『ありましたっけ?』
『ある。わからないのか?』
『……ちょっと思い当たりませんね』
『そうか。なら後で直接見せるよ』
その後テレサ達も復活し、テレサ達が実験に協力してくれるということで話しはまとまった。




