4.ゴブリン
少し能力を見てみるか。こうなった理由が何かわかるかもしれないし。
追加能力の内、指定したものの詳細情報を要請。
【受諾。指定された能力を表示します】
[吸血]
噛み付いた相手の血液を吸い出し、自分のHP・MPを回復する。お腹も膨れる。
[流血]
傷をつけた相手の血を、一定時間固まらなくする。
[重力]
任意地点の重力を操る。Levelが上昇する毎に、操れる範囲・距離・形状・最大加重が上昇する。
[冷気]
自分を中心に冷気を発生させる。Levelが上昇する毎に温度が絶対零度に近づく。
[連続攻撃:3]
表示されている回数まで一度に攻撃出来る。
[並列思考:3]
表示されている数まで、一度に物事を考えられる。また、複数の動作も可能になる。
[多重起動:3]
同一の通常スキルを、表示されている回数まで重ねて使用出来る。
やっぱり冷気や連続攻撃なんかは、属性の追加と進化が原因みたいだな。が、やっぱり吸血や重力の出所は不明。
ふむ。
俺は今度はログに目を向けた。
最初から最後まで順にメッセージを確認していくと、いくつか気になるものがあった。
【多頭種への進化選択を確認。■■■■■■により、頭を一つ追加します】
【頭の追加にともない、ランダムに属性を追加します】
【氷属性が追加されました】
【追加された属性の耐性と、通常スキルを獲得しました】
【■■■■■により、所有耐性から逆算してランダムに通常スキルを獲得します】
【[吸血][流血][重力]が選出されました】
やはりこうなった原因は、名称不明な称号と祝福のせいみたいだ。
それにしても、多頭種を選択したら頭を追加する。
所有耐性から逆算してランダムに通常スキルを獲得する。
いったいどんな名称の称号と祝福なんだこれ?
・・・もう少しデータがないと、予想もつけられない、か。
俺は考えるのを止め、移動を開始した。
わからないことよりもわかること。
新しく獲得した通常スキルを試してみよう。
せっかく進化したことだし、少し大物を狙ってみるか。
俺はマップを見ながら、手頃なLevelの相手を捜した。
おっ!
そうやってあちこち見て回っていると、Levelがそこそこの反応を見つけた。
気持ち気配を消し、マップの範囲ギリギリに潜伏して様子を伺った。
ゲームプレイヤーのLevelが2になったことで、前よりも把握出来る範囲と、確認出来る情報精度が向上している。
それによると、どうやら相手はゴブリンのようだ。
【ゴブリン】
Level:5/10
HP:23/23
MP:5/5
[仲間を呼ぶ][こん棒]
【知能の低い鬼種。群れを形成するタイプの為、増援に注意】
簡易ステータスの他に、通常スキルと一口メモが追加されたようだ。
俺は視線をマップから現実のゴブリンに向ける。
そこには、醜悪な顔をした、緑色の小柄な姿があった。
手にはこん棒。
顔つきからは、知性や愛嬌は見て取れなかった。
どうやらこの世界のゴブリンは、妖精や亜人タイプではなく、完全なモンスタータイプのようだ。
それなら、餌にするのに問題は無い。
妖精タイプや亜人タイプだと、社会性や報復も視野にいれないとマズイが、モンスタータイプなら討伐される対象。
どれだけ食べても、組織だった襲撃をされる可能性は少ない。
しかし、一口メモに群れを形成するとある。
通常スキルの[仲間を呼ぶ]を使われないうちに片付けるのが吉と見た。
ゴブ!?
俺は手始めに、重力をゴブリンに単品で使用した。
ゴブリンの足元が凹んだので、効果は問題無いようだ。
次に俺は、ゴブリンにかける重力の向きをズラした。
ゴブ!ゴブ!?
その結果ゴブリンは、茂みに身を潜めている俺の方に落下してきた。
ゴブ?ゴブー!!!
俺は落ちて来たゴブリンに全身で巻き付くと、三つの頭それぞれでゴブリンに噛み付く。
そして、それぞれ[吸血][冷気][毒生成]を発動し、ゴブリンを捕食する。
ゴブリンの体内に毒を流し込み、冷気で身体の動きを鈍らせる。
そして、満足に身体を動かせなくなったゴブリンから血液を吸い取る。
ゴブゥゥゥゥゥゥ!!!!
ゴブリンの絶叫が森に響き渡る。
俺はそれを気にせず、今度は[吸血]の三重起動を行った。
ゴブリンの血液が一気に失われ、ゴブリンはあっという間に干からびる。
跡に残ったのは、萎びたミイラになったゴブリンの骸だけだった。
いや、その骸もすぐに消えることになった。
先に注入しておいた毒により、内部から破壊された結果だ。
【ゴブリンを倒しました】
【経験値を500獲得しました】
【称号[転生プレイヤー]により、追加で経験値を250獲得しました】
【SPを10獲得しました】
【称号[転生プレイヤー]により、追加でSPを10獲得しました】
【[プレイヤー名:未登録]のLevelが1から5に上がりました】
【称号[転生プレイヤー]により、ステータスにボーナスが入ります】
それを見送っていると、そんなメッセージが表示された。
うわ、多!
ゴブリンの経験値がハンターホークの倍以上で驚いた。
これは通常の鳥と、ファンタジー系のゴブリンの違いだろうか?
うん?
俺がそんな疑問を持っていると、マップに新たな敵影が表示された。
名称はゴブリンになっているので、おそらくは先程のゴブリンの絶叫を聞きつけて来たのだろう。
俺はゴブリンの骸があった場所から離れ、新たな獲物に備える。
これはマズイな。
しばらく茂みに身を潜めていた俺は、自分の判断ミスを悟った。
現在マップには、三十近いゴブリンの表示がされている。
しかもその反応達は、俺を。いや、絶叫を上げたゴブリンが居た場所を目指している。
つまるところ、俺は今ゴブリン達に包囲されている状況なのだ。
変な欲を出さずに、さっさと逃げておけばよかった。
こおいう場合の作戦としては、一点突破が正しいだろう。
しかし、突破する際にまたゴブリンに絶叫を上げられたら、今度は近場のゴブリン達にすぐ囲まれてしまう。
そうしたら待っているのは、ゴブリン達からタコ殴りにされる未来だ。
いくら進化したとはいえ、ゴブリン三十匹にタコ殴りされては堪ったものじゃない。
おそらく、早々にHPを削り切られてしまうだろう。
ならば理想は、誰にも気付かれずに逃走すること。
だが、円形に包囲されている現状でそれは無理だ。
なら、今回は頭か喉を先に潰す。
少なくとも、声を上げさせなければ援軍が来る可能性は下げられる。
俺はゴブリンが一番少ない方向に向かった。
あれが狙い目か。
現在俺の目の前には、三体のゴブリンがいる。
他の方向は七体以上だったので、この三体がいる方向が一番包囲網が薄い。
それでも相手は三体。
全員の頭か喉を同時に潰せるかが勝負の分かれ目だ。
俺はゆっくりとゴブリン達に重力をかけ始めた。
ゴブ?
ゴブリン達が疑問の鳴き声を上げるが、まだ叫ぶ程ではない。
急激にやると恐怖で叫ばれるだろうが、ゆっくりと違和感を感じる程度にすれば上手くいくはずだ。
俺はそれから、ゆっくりと時間をかけてゴブリン達に重力をかけていった。
ゴブ?ゴブ??
この世界のゴブリン達は頭が悪いらしく、身体が半分近く埋まってしまっているのに、ただ混乱しているばかりだ。
まあ、こっちとしては都合が良いんだが。
俺はさらに重力をかけ、ゴブリン達を完全に生き埋めにした。
後は逃げるばかりだ。
ゴブー!!!
いっ!?
俺がそう思っていると、遠くの方からゴブリンの叫ぶ声が聞こえてきた。




