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33.激突3

「一、二、三、………十五体も!」


施設の壁を壊して現れたデーモンタイプの数は、十五体。

その数は、先生と同じ遺産を研究していた者達と同じでした。


『デーモンタイプが十五体か。デーモンタイプには、毒類は効きにくかったようだな』

「そんなことを言っている場合ですか!」


緊張感のない彼の言葉に、私は苛立ちました。

先生一人でもまだ暴れているというのに、追加で十五体も来たのです!

そんなに落ち着いていられる状況ではありません!


『別段俺にとって脅威じゃないからな。だが、毒類の効きが悪いなら、もう少し積極的に力を行使しようか。あいつらはなかなか美味しい獲物のようだし』

「えっ!?」


美味しい獲物?彼らが?どういった意味で?


『い出よ』


私が彼の言葉の意味を理解出来ない中、彼は行動しだしたようです。

彼がい出よと言った直後、地面に天井のものと同じ紫色の沼が新たに発生し、その中から勢いよく何かが飛び出して来ました。


「あれは!ヒュドラ!」


沼から飛び出して来たのは、透明感のある群青色の鱗を持った、八つの蛇の頭でした。

私の知っている中で、あの頭の形状と複数の頭を持つ魔物は、討伐難易度ランクAクラスのヒュドラだけです。


あれが、彼に緊張感がなかった理由なのでしょうか?

たしかにヒュドラは強力な魔物です。

しかし、私の知識では、デーモンタイプの同僚達を圧倒出来るほどではなかったはずなのですが、何処からあれほどの自信が生まれているのでしょう?


『見ていればすぐにわかる。それと、あれは通常種のヒュドラじゃないぞ』

「えっ?たしかに鱗の色や角があることは通常のヒュドラとは違うと思いますけど…」

『もっと根本的な違いなんだが、外観からだとそれくらいしかわからないか』

「?」

『まあ、良い。そう偽装していることだしな。貴女が気がつかないというなら、偽装が上手くいっているということだからな』

「偽装?」


何かを偽っているということでしょうか?


『行け!』


私が疑問を持つなか、彼の命令に従ってヒュドラが動きだしました。

それに応じるように、同僚達もヒュドラに向かって行きます。


ヒュドラは複数の頭をそれぞれ向かって来る敵に向けると、口からその敵に向かって、黒い何かを発射しました。

それは黒い柱のようなもので、それは宙を直進し、向かって来る悪魔達をそれぞれ打ち抜こうとしました。


それを見た彼らは一斉に回避行動を採り、蝙蝠の羽根を動かして攻撃の射線上から退避していきます。

私はこれで、攻撃は失敗するだろうと思いました。

けれど、結果は私の予想とは違うことになりました。


今まで直進していた黒い柱達が、途中で一斉に進路を曲げ、中心に居た悪魔に殺到したのです。


八本もの柱に取り囲まれたその悪魔は、その攻撃を回避することが出来ず、黒い柱の何本かに貫かれました。

半数近くは避けていましたが、はた目から見ても半数で致命傷を負ったように見えました。


『潰れろ』


しかし、それでヒュドラの攻撃は終わりではありませんでした。

彼が追加でそう命じると、悪魔を貫いている柱が解けて、その後球体となって悪魔を閉じ込めました。

少しすると、中に悪魔を閉じ込めたまま、その球体が収縮を始めました。

球体はだんだん小さくなっていき、球体が縮む毎に、辺りに中にいる悪魔の骨が砕ける音が響き渡ります。


ただ、悪魔から悲鳴が上がることはなく、ただ骨が砕ける音だけが、ゆっくりとこの階層に木霊していきます。


敵である悪魔達が、皆青い顔をしていますが、私も負けず劣らず青い顔をしていると思います。


それほど嫌な音と雰囲気なのです。


『なかなか美味かったな。さすがは瘴気をたらふく吸収しているデーモンタイプ。経験値が多めだ。さて、次はリサイクルといこうか』

「リサイクル?」


そんな中、悪魔が私の拳大にまで圧縮されると、彼は嬉しそうに悪魔を。同僚を倒したことを喜びました。

敵を倒したのだから当然のことなのに、雰囲気的に場違いな気がしました。


そして、彼の最後の言葉を合図にするように、圧縮された同僚の遺体が、ヒュドラの居る沼に落ちて行きました。


誰もがその光景を見守り、長い沈黙が生まれました。


ゴポッ!ゴポポッ!!


やがて沼の表面に気泡が生まれ、ヒュドラや彼を除く私達は、皆何が起こるのか緊急しながらさらに見守りました。


バッシャーン!!


そしてとうとう、沼から何か黒い影が飛び出して来ました。


私達は一斉にその姿を追いかけました。


「『『!!』』」


そして、その正体を知った時、誰もが目を見張りました。

なぜなら、その影の正体が、先程潰された悪魔とまったく同じ姿だったからです。


『デーモンゴーレム。……能力値も申し分ないな。そら、行ってこい』


彼の命令を聞いたその悪魔は、茫然としている生き残りの悪魔達に向かって行きます。


『!げ、迎撃しろ!!』


それに気がついた悪魔達は、慌ててその悪魔に攻撃を開始しました。


悪魔達の手から闇が溢れ出し、それが玉の形になって悪魔目掛けて放たれていきます。

悪魔はそれを避けようともせず、自分から突っ込んで行きます。


『愚かな。同じ瘴気を扱う相手に、そんな攻撃が効くわけないのにな』


一発、二発、三発。攻撃は次々と悪魔に命中していきますが、彼の言うとおり、攻撃を受けた方の悪魔は、無傷でぴんぴんしています。


これで、彼の言っていることに間違いがないということが証明されました。

ですが、それは裏を返すと、あの悪魔の方も決め手に欠けるということなのではないでしょうか?


『いや、そうはならないぞ。なぜなら、アレはデーモンゴーレムであって、デーモンそのものではないんだからな』

「えっ、それはどういった意味なんです?」

『見ていればわかる。行け!』

『おおせのままに』

「えっ!」


彼に応えた悪魔の声は、間違いなく先程死んだ同僚のものだった。

あの悪魔は、まだ私の同僚と同じなのだろうか?


『いや、材料となった存在と、ゴーレムは完全に別物だ。声の方は、肉体構造を流用している結果にすぎない』

「そう、ですか」


やはり彼らが戻ってくることはないのですね。


私は少しの間、やるせなく思って俯きます。

ですが、状況はその間も動き続けていきます。


私の頭上では、悪魔達が激闘を繰り広げています。

そして驚くことに、優勢なのは単機の悪魔の方でした。


悪魔は縦横無尽に空を駆け、悪魔達を翻弄しています。

そして、すれ違う際に悪魔が腕を振るうと、悪魔達は簡単によろけ、身体のあちこちが陥没していきます。

瘴気が有効ではないので、接近戦を挑んでいるのでしょうか?


悪魔達の方も、最初は闇を放つことを続けていましたが、効果が無いとわかると、悪魔と同じように肉弾戦に切り替えました。


ですが、生体兵器化していても、彼らは元々研究者にすぎません。

ですから、まともな接近戦は出来ていないのが現状です。


悪魔に良いように翻弄され、それなりの頻度で同士打ちまでしてしまっています。


やはり技術畑の人間は、あまり戦いには向いていません。


『くっ!ならば!』

「えっ?」


悪魔に攻撃が当たらず、悪魔達はだんだんイライラしてきたようです。

そして、唐突に一体の悪魔が私の方を見ました。


『喰らえ!!』


悪魔は私目掛け、攻撃を仕掛けて来ました。


「テレサ!」

「婆ちゃん!」

「御祖母様!」


夫達の悲鳴が遠くから聞こえてきますが、その時の私にはそれに気を回す余裕がありませんでした。

突然のことで私は棒立ちになってしまい、攻撃を避けようとも出来ませんでした。


悪魔が放った巨大な闇が、私に迫ってきます。

そして、私の意識は次の瞬間には暗闇を認識しました。



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