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30.変転するダンジョン

「フレイオン、シャヘル」


私は現在戦っている孫達を、ただ見ているしか出来ないでいた。


私は彼らを放置し過ぎてしまった。

その結果が数年前のあの襲撃だ。

私がもっと早く対処していれば、孫達をこんなめにあわせずに済んだというのに。


ズンッ!


私が後悔に苛まれていると、突然激突している孫達の間に土壁が迫り出した。


「なんだこれは!」


二人を戦わせていたかつての仲間達が、突然起こった事態に戸惑いを見せている。


ブゥワァァア!!


次の瞬間、さらにこの場所で異変が起きた。

また唐突に、今度は紫色の霧が辺り一帯に立ち込めはじめたのだ。

私もこの状況の変化には、彼ら同様ただ戸惑うしかなかった。

「ぎゃあああ!!」


私が視界を遮られて困っていると、この場に居たかつての同僚達から次々と絶叫が上がっていく。


「なに?いったい何が起こっているというの?あっ!フレイオン!シャヘル!」


私はかつての同僚達のことも気になったが、それよりも孫達のことが気になり、慌てて孫達の方に駆け出した。

孫二人が無事であるか心配で堪らなかった。


「婆ちゃん!」「御祖母様!」


私が向かった先に居た孫達は、かつての同僚達とは違って無事だった。


私は私に抱きついて来る孫達を抱きしめながら、今度は今なお絶叫を上げ続けているかつての同僚達の方を見た。


「うっ!」

するとそこには、全身が爛れ、のたうちまわっているかつての同僚達の姿が転がっていた。


「本当にいったい何が起こっているというの?」

「あの、御祖母様…」

「どうしたの、シャヘル?」


私は孫達の方に視線を向けた。

すると、私に呼びかけたシャヘルが、私に自分の腕を見せてきた。


「腕がどうかしたの、シャヘル?ああ!そういえば先程フレイオンの攻撃を腕でガードしていたわね。腕が痛むのかしら?」


私がそう尋ねると、シャヘルは首を横に振った。

それなら、シャヘルは私に何が言いたいのだろう?


「違います御祖母様。いえ、先程まではたしかに痛かったんです。だけど、この妙な霧が立ち込めだしたら、急に痛みがひいていったんです」

「どういうことかしら?少し触って診ても大丈夫?」

「はい!」


私はシャヘルの腕を手に取ると、フレイオンの攻撃を受けた箇所を調べた。

そこには傷口どころか傷痕すらなく、綺麗なものだった。

しかし、その箇所の周囲には血がべったりと付着していて、たしかに傷を負っていたことを証明していた。


傷がこの短時間で快癒した?

ニクス達ならわかるけど、シャヘルにそんな高い自然治癒能力はなかったはず。

ならシャヘルの言うとおり、この妙な霧が原因かしら?

だけど、私達はなんともないけど、彼らは全身を爛れさせてのたうちまわっているのよね。

この差はいったい何なのかしら?


ボコンッ!


「あら?」「なんだ!」「えっ!?」


私が頭を悩ませていると、今度は私と孫達の足元に突如大穴が空いた。


「あらあら?」「婆ちゃん!」「御祖母様!」


孫達は慌てて大穴から飛びのいて逃れたが、老骨の私にはそんな緊急回避は無理だった。

私は孫達に見送られながら、大穴の中を真っ逆さまに落ちていった。


「良かった。……あら?」

「婆ちゃん!」「御祖母様!」


私が孫達まで落ちなかったことに安堵していると、何かに襟首の辺りを掴まれた孫達が、私を追いかけるように落ちて来た。


そう、文字通り追いかけるように。

先に落ちた私を越える速度で孫達は落下して来て、私に急接近。そして落下していく私の身体を空中でキャッチ。

私を二人がかりで抱き抱えると、急に落下速度が緩和された。


この子達に、浮遊能力なんてあったかしら?


「婆ちゃん!」「御祖母様!」

「ああ、よしよし。二人とも泣かないでちょうだい」


疑問には思ったが、まずは泣いている孫達をあやすことにした。


□□□□□□□□□


「あら?」


私が孫達をあやしていると、穴の中を抜けて空中にほうり出された。

けれど相変わらず落下速度は緩和され続けているので、私はとくに問題に思わなかった。


「あら!」「「あっ!」」


地面が近づいてくると、私と孫達はそこに見知った顔を見つけた。

私の夫であるニクス。

私の子供達と、その連れ合い。つまり、孫達の両親。

そして、さらわれていた孫達。

私の研究区画で養育してきた子供達に、その子供達。


私の今生きている家族達が、全員そこに居た。


「あなた!」「父さん!母さん!」「父様!母様!」

「テレサ!」「母さん!」「お母様!」「「フレイオン!」」「「シャヘル!」」


私と孫達が地面に辿り着くと、お互いに駆け寄り抱きしめ合った。

そして、お互いの無事を確認しあった。



しばらくの間再会を喜びあった後、私達はそれぞれどうしてここにいるのかを説明しあった。

ニクス達の話しを聞いてみると、ニクス達の方でも突然紫色の霧が発生して、近くに居たかつての同僚達が爛れながらのたうちまわりだしたそうです。


その後私と孫達は穴に落ちたけれど、ニクス達の方は壁に穴が空いたり、地面が突如盛り上がって、上に押し上げられたりしたそうです。


そして最終的に、私達全員がここに集められたとのこと。

いったい何が起こっているというのでしょう?


「テレサ!」

「先生!」


名を呼ばれ、私が声のした方を見ると、そこには現在敵対中の恩師の姿があった。

もっとも、もう恩師とは呼べないでしょうけど。

それにしても、先生もあの霧にやられたようですね。

私の見える範囲ですが、身体のあちこちが爛れています。

というか、現在進行形で爛れが広がっていっているようです。


「テレサ、お前はいったい何をしたのだ!」

「はい?何のことです?」


突然そうなことを言われましても、私はとくに何もしていません。


私は孫達と一緒に上から落ちて来たばかりで、どう行動して良いのかもわからない状況なんですから。


「とぼけるつもりか!」

「ですから、何のことことなんです!突然そんなことを言われても、意味がわかりません!」

「白々しいことを。先程この施設の装置全てが、我々の手を離れた」

「えっ?」

「その直後に紫色の霧がダンジョンのあちこちで発生しだし、各研究区画に居た、プロジェクトメンバー達がバタバタと倒れだしおった。今現在無事なのは、テレサ!お前とお前の身内達だけだ!これだけの状況証拠があって、とぼけられるつもりなのか!」


「テレサ?」「母さん?」「お母様?」「婆ちゃん?」「御祖母様?」


先生からの糾弾に、周囲に居る夫達からそうなのかという視線を向けられた。


「ち、違います!私は何もしていません。というよりも、出来るのならもっと早く。孫達が戦いあう前にことを起こします!」

『そう、やっているのは俺の方だ』

「「「「!?」」」」


私が弁解していると、私の口から私のものでない男性の声が出てきた。


これには私、先生、夫達。

この場にいる誰もが驚いた。


「あ、あなたは誰なのです?」

『残念ながら、俺に名乗る名前はない。だが、自己紹介はそこにいる男を片付けてからちゃんとする』


私の問い掛けに、声の主はそう返事を返してきた。


名乗る名前が無い?

いったいどういうことなの?


「貴様が黒幕というわけか!」

『しかり。このダンジョンはすでに俺の眷属。防衛機構を含め、全ての設備は俺が掌握している。当然、転移魔法陣も俺の手中にある。お前達には、もはや退路はない』

「なんだと!」

「「「「!」」」」


その声の言葉に、私達はただただ驚くばかりでした。


『さあ、終わりの始まりだ!』


そんなことは気にしないとばかりに、声の主は声を上げました。

そしてそれが、そのまま戦いの合図となりました。



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