19.干渉された結果
ほれほれ。
ピヨピヨ!
俺は現在、指を左右に揺らしながら、ヒヨコの相手をしている。
俺が指を揺らす度に、ヒヨコがあっちへヨチヨチ。こっちへヨチヨチして、わりと微笑ましかった。
一方、俺が子守をしている間も、俺の本体の変化は続いている。
光の粒子は徐々にその量を増していき、すでに元の二倍近くにまで膨れ上がっている。
そしてそれらは、やがて一つの形状を象りはじめた。
基本的なフォルムは、ゼクスハイドラの時と同じで多頭の蛇の姿をしている。
だが今回は、小さな樹や無数の何かが背中に生えていて、ある意味ヤドカリのような様相ともなっていた。
なんでこんな感じになっているのか、わりと不思議だ。
ただ、変化はまだ終わっていない。
時間樹の頂点から無数の光が舞い上がり、その光を吸収しながら俺の本体は変化をし続けている。
先程の話からすると、この時間樹そのものを圧縮したり縮小したりしながら、全て俺の本体と融合させるつもりなのだろう。
つまり、完全に融合しきるまでこれが続くというわけだ。
光が集い、俺の身体のサイズと密度を上げていく。
時間経過とともに、俺の本体の曖昧だった部分がだんだんはっきりとしていく。
やはり背中の部分に変化が集中している。
おそらく、時間樹が俺の背中に植樹されているのだろう。
エレメンタルの若木と時間樹。
二本の木が同居出来るのか、今更だが少し気になるな。
まあ、もう融合しだしているんだから、気にしてもしかたがない話だが。
俺は視線をヒヨコに戻した。
俺の本体は、まだまだ時間がいる。
もうしばらくは、子守で時間をつぶしておくとしよう。
そして半日も経過すると、俺の本体は時間樹の全てを取り込み終わった。
あの時間樹の巨体はすっかり消滅し、俺の本体の背中にそのミニチュア版がそびえ立っている。
光もおさまり、俺の本体はそろそろ進化を完了するようだ。
俺のこの意識も、そろそろ本体の方に合流するらしく、だんだん引っ張られてきている。
俺はそれに身を任せ、ヒヨコにバイバイして本体に戻った。
そして、意識の方もいつも通り眠りについた。
ピヨ?ピヨピヨ!
頭をこつこつされた俺は、まどろみから意識を浮上させた。
起きたてで少しぼんやりするが、鳴き声の主の姿を探す。
ピヨピヨなヒヨコは、俺の真ん中の頭の上に乗っかって、ピヨピヨしていた。
愛くるしいと思う反面、食べたい程可愛いとも思う。
これがなんとなく浮かんだ比喩表現なのか、蛇としての本能からくる言葉なのか、少し悩ましいところだ。
俺は浮遊腕でヒヨコを掬い上げ、その後いつもの進化後の確認を行った。
首の数は、五つから何故か九つに増えていた。
一気に四本も増えてしまった。
原因はやはり、リストの最後にあった進化後に干渉するあれだろうか?
『それですね。進化への干渉で、もう一段階進化した結果です』
もう一段階?
『はい、もう一段階。進化した後に次の進化が実行されてます。まあ、これは貴方の意識が眠った後ですから、気づいていなくても無理はありません』
そうなのか。それで、どんな風に進化したんだ?
進化の上書きとか、すごく気になる。
『能力は後で教えますから、先に外観のチェックを終わらせてください。疑問には、その都度答えますから』
了解した。
俺は九つの首を動かし、あらためて自分の身体をあちこち確認した。
首は九つになり、その後頭部には立派な角が生えている。
頭部の形状も、なんだか蛇から竜っぽくなった気もする。
鱗の色は今回全て統一で、透明感のある群青色。
視線を次に移す。
背中には漆黒の蝙蝠の羽根。
サイズは前回よりも大きくなっており、約二倍といったところ。
その羽根の向こうには、透明感のある七色に光る、宝石のような1mくらいの樹木。
おそらくは、エレメンタルの若木が生えている。
キラキラと輝いていて綺麗だし、このサイズならユニットの材料にも使えそうで、嬉しいかぎりだ。
ただ、少し気になる点がある。
それは、その若木にぶら下がっている果実だ。
俺の気のせいでなければ、時の管理神ノルニルの封印されている宝玉に見える。
『そのとおりです。今私に実っているのは、ノルニルの宝玉です』
なんで宝玉が貴女に実ってるんだ?
というか、俺はいつ宝玉とまで融合したんだ?
『貴方がいつ宝玉と融合したのかといえば、干渉された二回目の進化の時です。何故私に実っているのかといえば、この私が私(世界)の端末だからです。ノルニルは元々、私(世界)の時を管理していた管理神です。それを考慮に入れて保管場所を考えると、ここに実るのはそうおかしなことではありません』
・・・そう言われてみると、そんな気もするな。
少なくとも、そう矛盾のある話ではなかった。
ただ、世界の端末とだけではなく、神とまで融合してしまった自分の今後が不安になってきた。
これからも他の宝玉と融合していくのだろうか?
そして、それが続いた場合自分はどうなっていくのか。
未来はかなり不透明だ。
さて、気持ちを切り換えよう。
そのエレメンタルの若木の後ろには、今度は立派な成木が生えている。
言わずと知れた、時間樹だ。
現在の時間樹の大きさは約10m。
あの巨体をよくもまあ、ここまで縮められたものだ。
外見的な特徴としては、青々とした葉が生い茂り、その枝に桃色の花と、神獣の餌である黄金の果実がそれぞれ撓わについている。
花と実が同時に存在しているのは、そういう植生なのだろうか?
『そうです。神獣が傍に居る時、時間樹は果実を絶やさないように、花と果実を同時に存在させます』
ああ、なるほど。ヒヨコの為か。
それなら。
俺は浮遊腕で持っているヒヨコを、件の果実に近づけてみる。
ピィ!ピヨピヨ!
するとヒヨコは果実に抱き着き、小さなくちばしで一生懸命果実を食べはじめた。
やはり小さな動物の行動は、見ていて心が暖まる。
次は時間樹の周り。
これは最初の進化を見た時に、正体がわからなかった部分だ。
光から完全に実体化したその姿は、海藻に珊瑚、野草に何かの結晶のようなものだった。
もっとも、これらが見ためそのままのやつなのか、そこはわからなかったが。
『見たままですよ。こちらの世界原産の海藻に珊瑚、野草に鉱物資源です』
そうなのか?
『はい。ウッドハイドラとライフハイドラに進化した結果を、干渉でさらにパワーアップされた結果、背中で自生するようになったのです』
そうなのか。
とうとう、融合以外でも背中に植物などが生えるようになったか・・・。
ショックのような、今更のような、なんとも言えない気持ちになるな。
最後に尻尾。
前までは普通に真っ直ぐな尻尾だったのが、今はとぐろを巻いた渦巻き状になっている。
何の意味があるのかよくわからないが、もう身体もかなりデカくなっているのであまり気にならない。
俺は身体のチェックを終え、視線を周囲に移した。
一応浮遊腕の数も確認しておかないとな。
そう思って確認してみると、随分と浮遊腕が増えていた。
六腕から十二腕。
倍の数になっていた。
いささか増え過ぎの気がしないでもない。
あと、よく見れば浮遊腕以外にも周囲に浮かんでいるものがあった。
それは水晶玉サイズの丸い球体。
それが何かというのはわからないが、自分と繋がっていることはわかる。
その証拠に、俺が意識を向けると浮遊腕のように自由に動かせるからだ。
これはいったい何なんだろうか?
もうそろそろ、ステータスに移った方が良さそうだ。
ステータス表示を頼む。
『了解しました』
それと、追加項目の内容もまとめて頼む。
『わかりました』
そう頼んだ直後、俺の目の前にステータスが表示された。




