18.強制介入進化
これからどうする?
すぐにでも宝玉を回収するのか?
それとも、あのヒヨコが成長するまで待つか?
『・・・そうですねぇ?宝玉は早めに回収したいところですが、神獣はまだ生まれたばかり。主であるノルニルと今すぐ引き離すのは、問題が発生する可能性があります。今回は見送るということにしましょう』
了解した。
俺はヒヨコ達から目を逸らし、来た方向を見た。
帰りも落下方式か?
『そうなります。けれど、帰りはただ自由落下するだけです。着陸する時以外は、能力を発動する必要がありませんから、行きよりは楽ですよ』
そうだな。
俺は端に向かって移動しようとした。
ピヨ!
ピヨ?
わりと近くから鳴き声が聞こえてきたので、後ろを振り返ってみると、何故か生まれたばかりのヒヨコがそこにいた。
さらに言うと、そのヒヨコはノルニルの封印されている宝玉の上に乗り、時間樹の枝葉と蔓によって宝玉ごとこちらに向かって差し出されている感じになっている。
ピヨピヨ!
・・・なんだこれ?
よくわからない状況に、俺は全ての首を傾げた。
『ママ、ママ言っていますよ』
はっ?
『ですから、先程から貴方のことをママと言っています』
なんで俺がママ!?
『たぶん、刷り込みですね。生まれて最初に見た相手を親だと思う、あれです』
俺はたぶんオスで、蛇型モンスターだぞ!?
蛇と鳥で天敵!
それに、こいつのママならノルニルや時間樹がいるだろう!?
というか、神獣も刷り込み式なのかよ!?
『あいにくと、神獣でも刷り込み式です。それと、刷り込みの相手は動く生物限定です。宝玉であるノルニルや、植物である時間樹は対象外です。そうなると、この場所で刷り込みの相手になるのは、貴方だけです。ママについては、貴方は無性なのでそこまで間違っているわけではありません。精神的な部分は、ヒヨコにはわからないので、ヒヨコには当たらないでくださいね』
つらつらと疑問に答えられ、反論する部分もなくてなんかどっと疲れた。
ピヨ!
俺がそれぞれの頭を俯かせていると、その一つにヒヨコが乗って来た。
・・・これ、どうすれば良いんだ?
帰ろうとした直後に神獣からママ扱い。
それに、時間樹がなんかヒヨコと宝玉を差し出している感じだし、受け取った方が良いのか?
『良いんじゃないですか?もう刷り込みが終わってますから、ほおっておいても追いかけて来ますよ、そのヒヨコ』
・・・だろうな。
なんだか諦め気味だが、ヒヨコの親になることを受け入れつつある自分がいた。
それから少しして立ち直った俺は、いくつかの疑問を確認することにした。
いくつか確認しておきたいんだが、このヒヨコの餌とかはどうすれば良いんだ?
この時間樹の果実を食べるものなんだろう?いちいち在庫が無くなる度に、ここまで登って収穫しに来ないと駄目なのか?
『そうですねぇ、もういっそ時間樹も取り込んでしまいましょうか。宝玉もアリアンロッドも去ってしまっては、時間樹も寂しいでしょうし』
取り込む?
『はい。貴方のLevelは上限に達していますから、今すぐに進化が可能です。この間エレメンタルの苗木を取り込んだように、時間樹も取り込んでしまいましょう』
それ、一度は成功しているんだから、今回も成功はすると思うが、こんな馬鹿でかいものでも融合出来るのか?
『大丈夫です。融合させる時に、圧縮と縮小、質量と重量の変更もしますから』
・・・そうか。
なんだか大規模な話っぽいが、任せておけば大丈夫か。・・・多分。
進化先の表示を頼めるか?
『承りました』
【ハイポイズンハイドラ】
ハイポイズンスネークの海蛇版。
海産物由来の毒を生成出来る。
有名なのはフグ毒など。
【ブリザードハイドラ】
ブリザードスネークの海蛇版。
北方の寒い海に生息し、獲物を体内から凍てつかて保存する習性がある。
【セプテムハイドラ】
七つの頭を持った海蛇。
もうそろそろ怪獣の域に到達しそう。
【クロノハイドラ】
時の流れを泳ぐ海蛇。
目撃数が少なく、幻のモンスターとも呼ばれている。
【ウッドハイドラ】
海藻や珊瑚を身に纏い、海中に森を形成する海蛇。
小魚や、鯨などの大型哺乳類とは共生関係にある。
【ライフハイドラ】
周囲のものに命を吹き込み、擬似生命を生み出す海蛇。
群隊で狩りをし、全てを食い尽くす。別名海の蝗。
【サテライトハイドラ】
宇宙の海に生息する海蛇。
強力な重力場と、星の力を操り、時空間にも影響を与える。
【エレメンタルの若木】
エレメンタルの苗木の第二形態。
確定進化先。
エレメンタルの能力を一部開放。
【■■■■■】
特殊追加進化先。
上記進化時に進化先に干渉する。
複数選択の対象外。
進化拒否、選択見送り不可。
・・・なんか、進化先が混沌としてきたな。
『そうですね。属性や能力が順調に増えていますから、ある意味当然の結果です』
それもそうか。
それにしても、とうとう進化先にまで正体不明なのが食い込んできたな。
『そうですね。ようやく介入しても大丈夫な下地が出来たのではないですか?』
えっ!このタイミングでの介入理由って、そんな理由なのか!?
『だと思いますよ。それと一度介入が始まれば、どんどん押してくると思います』
どんどん押してくるのか?
『あの方は過保護ですから、貴方の安全確保の為に、いろいろとしてくるのは確定事項です』
・・・。
何と言えば良いのか、わからなかった。
その過保護なあの方とやらは、いったい俺の何なんだろう?
『それで、進化先はどれにしますか?私の分は確定していますし、介入分はカウントされませんから、五つまで選択出来ますよ』
そうだなぁ?
それじゃあ、セプテム、クロノ、ウッド、ライフ、サテライトの五つで頼む。
『了解しました。それでは進化を開始します』
その言葉を聞いた直後、いつものように眠くなって、まぶたを閉じた。
【対象の進化準備完了】
【称号[■■■■■]及び、祝福[■■■■■]の効果を起動】
【肉体の分解・再構築開始】
次の瞬間、そんなメッセージとともに身体が七色の光の粒子に変わった。
そんな光景を、いつの間にか俺は見下ろしていた。
なぜか今回は、意識だけが肉体を離れ、自分の進化の様子を眺めることが出来るようだ。
なんだこれ?
足元で広がる光景を眺めながら、俺はどうしてこうなったのか、首を傾げた。
うん?
だが、すぐに違和感に気がついた。
なぜか現在、自分の視界が一つしかないこと。
そして、傾げた頭が今の自分には無い肩に当たったことに。
俺は視線を光になっている本体から、今の自分の方に向けた。
するとそこには、鱗に被われた蛇の身体ではなく、人肌の人間の身体があった。
・・・もっとも、半透明で幽霊っぽくなっていたが。
そこは今は意識だけということで、無理矢理納得しておくことにした。
けど、なんだこれ?なんでこんなことになってるんだ?
『私の端末と融合しているせいですね』
俺が声のした方を見ると、青い球体がそこには浮かんでいた。
貴女か?
『そう、私です。そして貴方の意識は、現在私の本体の方に来ているんです。今の状態は、それが理由です』
なるほど。貴女の端末のせいか。
『そうです。けど、普通はこんなことにはならないんですよ。貴方と私の繋がりが、強かったせいです。まあ、ゆっくりしていってください。肉体の変化はすぐに終わりますが、魂が新しい身体に馴染むまで、それなりに時間がかかりますから』
わかった。
そう言われた俺は、進化が終わるのをゆっくり待つことにした。
ピヨ!
そうしようと思ったが、どうやら子守をしないといけないようだ。
俺はヒヨコに手を伸ばし、触れないが構ってやることにした。




