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17.神獣

・・・降参だ。未来は何の情報を基にしているんだ?

『正解は、可能性からの演算です』

可能性からの演算?それはどういう意味だ?


『言葉通りです。未来への転位は、その対象が能力発動時に到達出来る場所に限られます。つまりは、対象が自力・他力で移動して、未来にその場所にたどり着く。その過程を省くのです』


うん?

正直、意味がよく理解出来ない。


『・・・言い方を変えます。この世界には、未来予知や危険察知のような未来の情報を先取りするような能力があります。未来転位は、その先取りした情報の位置に対象を転移させるのです』

今度はわかったかな?


『ですが、今回こちらはあまり気にしないでください』

なんでだ?


それなりに使い道はありそうなのに?


『未来の位置情報は不確定要素が多く、演算にもかなりの時間と力をようします。それに、確定した過去の位置情報ならともかく、未確定の位置情報なら私の方でいくらでもジャミングが出来ます。ですから、今回は気にしなくて大丈夫です』

そういうことか。了解した。


しかし、未来はよくても過去の方は有効なんだよなぁ。

あのまま戻し続けられたら、いつまで経っても宝玉に手が届かないぞ?


『短期的にはそうですね。しかし、長期的には好都合です』

どういうことだ?

『転移関係は燃費が悪いんです。何度も繰り返せば、すぐにエネルギー切れに陥ります。このままエネルギーを浪費し続けてもらえれば、ノルニルにはエネルギー切れでダウンしてもらえます』

なるほどな。これでようやく終わりが見えてきたってことか。

『はい』

良し!それならどんどんエネルギーを使わせてやる!


俺は全ての浮遊腕を、宝玉に向かって突撃させた。



六つの腕が四方八方から宝玉に襲い掛かり、その度に宝玉は腕を退ける。

だが、回数を重ねる毎に腕を戻すタイミングが遅れてきている。

これは順調にエネルギーが消費されているということだ。


俺は浮遊腕の回転率を上げにかかった。


浮遊腕の突撃タイミングを少しずつずらし、連続でいかせることで負荷をさらに増大させる。


その結果、後もう一押しというところにまでこぎつけた。



『もうノルニルも限界のようですね。無理もありません。封印された状態で、こんな無茶をするのが無謀なのです』

まあ、それは否定出来ないだろうな。


『おや?』


俺達が話しをしていると、宝玉と時間樹に新たな変化が起きた。


宝玉が淡く輝き、時間樹の枝に花が咲き乱れだしたのだ。

それは宝玉の辺りを起点に始まり、やがて見える範囲の全ての枝に桃色の花を咲かせた。


なんだこれ?新手の攻撃準備か?

『おそらくは違います。時間樹の花や花粉などに毒性はありませんし、物理的な攻撃力もさしてありませんから』

じゃあ、攻撃以外の何かをするつもりってことか?

『おそらくはそうです』

攻撃以外に、この状況で何をするつもりなんだろうな?

『さあ?』


時間樹達が何をするつもりか判断がつかなかった俺達は、成り行きを見守ることにした。



桃色の花が咲き誇り、甘い芳香が周囲を満たす。


甘い良い臭いだな。それに景色も良い。

花見にはもってこいのロケーションだな。

『そうですね。ですが、やっぱり相手の目的がわかりませんね。何がしたいんでしょう?』

花を咲かせることが目的じゃないなら、花の次の実か種が目的かもな。


『・・・実か種?』

どうかしたのか?


不自然な間が気になり、声をかけた。


『・・・なるほど。私達が来たタイミングが悪かったということですか。あるいは、経験値を吸い取って回帰させ過ぎたのですね』

何かわかったのか?


どうやら何かに思い到ったようだ。


『はい。ノルニル達の先程からのおかしな行動の理由がわかりました』

それは何だ?

『見ていればわかります。最後まで見守ってください』

・・・わかった。


そう言われた俺は、その最後までを、黙って様子見することにした。



やがて桃色の花が一斉に散り、数多の花びらが花吹雪となって周囲一帯を充たした。


美しいな。

『そうですね』


そして花が散ると、枝にはいくつもの黄金の果実が鈴なりに実っていった。


ぽぉぉ


宝玉から光りの円が浮かび上がる。

浮かび上がった円は回転し、だんだん回転スピードを増してやがて球状になった。


何が始まるんだ?

『新たな命の誕生です』

新たな命の誕生?


俺がそれに疑問を持っていると、光の球の中に突然、一抱えはありそうな卵が出現した。


なんだあれ!?今何処から現れたんだ!?

『別の時間軸からですね。最初時間樹が見えなかったように、あの卵も別の時間軸のあの場所に最初からあったんです』

そうなのか?だが、なんでこのタイミングで出てきたんだ?


『あれがノルニル達が戦っていた理由です。そろそろ卵から生まれますよ』

さっきのあれって、あの卵のことだったのか!

『そうです』


肯定の返事をされた俺は、卵を注視した。


卵にひびが入り、それが徐々に大きなひび割れになっていく。

よく見ると、そのひび割れからは小さなくちばしが見えた。

やがて卵は真っ二つに割れ、中から淡い桃色をしたヒヨコが出てきた。


『新たな神獣の誕生です!』

神獣!?あのヒヨコが!?


突然卵が出てきたのも驚いたが、その中身が神獣だったことでさらに驚くことになった。


『はい。時の管理神ノルニルの眷属。時の神獣アリアンロッドです』

アリアンロッド?銀の車輪の女神?


アリアンロッドは、ケルト神話に登場する時の女神の名前だったはずだ。


『いえ、女神ではなく神獣です。ですが、たしかにあの神獣の能力には、[銀の車輪]というものがあります』

[銀の車輪]。名前と能力が同じとは、偶然で片付けて良いのか?

『片付けて良いと思いますよ』

・・・そうか。


詮索は止めておくことにした。


それで、その神獣と時間樹の関係は?

ノルニルの方は、主と眷属という関係で、先程までの戦闘の理由としては十分だ。

おそらくは、生まれそうだった眷属を守ろうとしたんだろう?

『まず間違いなくそうでしょう。貴方が宝玉を回収してしまえば、あの卵を守る者がいなくなりますから』


そちらの理由は確定か。

それで、時間樹と神獣の関係は何なんだ?

時間樹に果実が実った後に卵が現れたんだ、無関係じゃないんだろう?


『たしかに無関係ではありません。時間樹とアリアンロッドは、共生関係にあります』

共生関係?


『はい。時間樹はアリアンロッドの巣であり、餌となる果実をアリアンロッドに提供します。アリアンロッドの方は、時間樹を死から遠ざけ、長い生を約束します。また、時間樹に害を与える者を排除する守護獣でもあります』

前者はともかく、後者はノルニルと時間樹の今の関係そのままじゃないか?


ここに来るまでに聞いた話しを思い出しながら確認した。

『そうですね。主と眷属ですから、似たような関係を構築したんでしょう』

そういうものなのか?

『そうとしか言えません』


・・・そういえば、時間樹が神獣の巣だと言っていたよな?

『言いましたが、それがどうかしましたか?』

・・・あのヒヨコの親は何処にいるんだ?

卵があるんだ、親鳥もいるはずだよな?

なんで親鳥はさっきの戦いに参加しなかったんだ?


幾つもの疑問が沸いて来て、それを順番に聞いてみた。



『・・・アリアンロッドは。いえ、ほとんどの神獣達は、かつての管理神達が封印された戦いで亡くなっています。運よく生存した者達も、重傷を負って表舞台から姿を消しました』

えっ!?それじゃあ・・・。


『はい。あの神獣には親はいません。おそらくですが、あの戦いからなんとか生き延びた個体が、主の宝玉を見つけて卵を託したのでしょう』

なるほど。それであれだけエネルギー消費を無視して、抵抗してきたのか。

眷属の忘れ形見を守る為に。

『そうだと思います』


物悲しくなる話だな。


俺はしんみりしてしまった。



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