16.世界時計
うん?
宝玉の様子を見守っていると、宝玉の周囲に光の円が出現した。
なんだあれ?
『マズイですね』
マズイ?何がだ?
光の円が出現したくらいで、何がまずくなるんだ?
『あれは時の管理神、ノルニルの能力です』
管理神の能力?どんな能力なんだ?
『能力名は[世界時計]。0から24までの時刻に対応した時間に関係する大能力と、その数字から派生する複数の小能力を併せ持つ特殊能力です』
二十五以上の能力を持った特殊能力!?
そんなものが発動しているのか!
『間違いありません。あの円は時計の文字盤です。あれに対応する数字が浮かび上がることで、対応する能力が発動します』
おい、ちょっと待て!このタイミングでそれが発動するってことは!
『・・・おそらくですが、貴方の迎撃が目的です』
なんで俺を迎撃するんだよ!
俺は助けに来た側だぞ!
なんで助けにきた相手に攻撃されるんだよ!
『今のノルニルに、それを判断することは出来ないと思いますよ?』
それはそうかもしれないが、これはそういう問題なのか!?
というか、回収する時にこうなる可能性は考えていなかったのか?
『考えていませんでしたね。そもそもそんな余力があるとは思っていませんでしたし、貴方を敵と認識するとは思っていませんでしたから』
なんて杜撰な話。
というか、結局この状況はどうすれば良いんだよ!?
『相手を無力化してから宝玉を回収しましょう。幸いなことに、[時空間適応]のおかげで[世界時計]の効果の大半は無効化出来ます。それに、あれはあくまで封印から漏れ出した力のようです』
それがどうしたんだ?
『あくまで本体は封印の中です。ですので、漏れ出した力は本来の出力に達していません。この程度の出力なら、今の貴方でも十分対応が可能です』
それは朗報だな。
全力全開の神と正面対決なんてしたくないからな。
『そうですね』
攻撃は何が有効だ?
『[重力]やそれの派生能力が有効です。ノルニルは貴方の時間を操れませんから、ノルニルには自分か周囲の時間を弄るしか出来ません。そして、ノルニル本体は今だに宝玉の中です。おそらくは、時間樹を間接的に支援してくる戦い方になるでしょう』
やはり時間樹も攻撃してくるのか?
先程の蔓を思えばそうなると思うが、一応確認しておく。
『おそらくは。両者の意図はさっぱりわかりませんが、少なくとも攻撃はしてくると思われます』
了解した。
その前提で行動する。
俺は[重力][斥力][誘導][反射][歪曲]の五つをそれぞれ[並列思考]で起動させ、相手の攻撃に備えた。
そうして相手の動きを待っていると、時間樹に動きがあった。
枝葉や蔓を宝玉を中心に束ねだしたのだ。
それはすぐに人型を形成しだし、最終的には一体の巨人を生み出した。
どうやら、あの巨人で俺と戦うつもりのようだ。
だが、的を大きくしたのは失敗だ。
俺は巨人に向かって[重力]を使用。
巨人の重さを、現在の数十倍に引き上げた。
その結果巨人は立っていられなくなり、自分の本体にへばり付く格好になった。
やはり重力は、相手がデカイ程効果が高い。
俺がそのまま[重力]で巨人を拘束していると、どうやら時間樹は不利を悟ったらしい。
巨人の姿を解き、今度は無数の蔓と枝で攻めてきた。
俺は[重力]を解除して、[飛行]に切り換えて上空に退避した。
時間樹は眼下で頑張って蔓と枝を伸ばしているが、そう簡単には俺のいる所まで届かせられない。
だが、相手もやられているばかりではない。
先程巨人の内部から出てきた宝玉が光り、光の円に数字が浮かび上がる。
その途端、蔓と枝の伸びる早さが加速した。
先程までの数倍の早さで俺を追いかけてくる。
俺はとくに焦らず、[誘導]を使って蔓と枝の向きを横に逸らした。
枝はそのままあらぬ方向に伸びていき、蔓は誘導した先からUターンしてまた向かってきた。
やはり固い枝よりも、柔らかい蔓の方が融通が利くらしい。
俺は今度は[歪曲]を使用し、俺と蔓との間にある空間を歪め、蔓の進路を捩曲げた。
今度は蔓も抵抗しきれず、枝のようにあらぬ方向に伸びていった。
『順調に対処出来てますね』
ああ。
だが問題は、この戦いの落としどころだ。
どうすれば向こうは攻撃を止めるんだ?
『そもそも相手が攻撃してくる理由がわかりませんから、どうとも言えません』
そうなんだよな。
仕方がない。しばらく付き合うことにするか。
早めに諦めてくれると良いが。
『そうですね』
そしてそれから一時間近くの間、俺達の攻防は続いていた。
時間樹の攻撃手段は蔓と枝。そして時々葉っぱ。
ノルニルの時間操作は、時間樹の成長の加速。巻き戻しによる時間樹のダメージの回復。
この二つだけ。
他の能力はまったく発動させてこなかった。
どうやら、現在使える能力はこの二つだけのようだ。
対する俺は、大物は[重力]で沈め、枝は[誘導]、蔓や葉は[歪曲]でそれぞれ対処している。
また、それらを突破されたとしても、[斥力]で弾き、[反射]で攻撃を相手に返すで、俺本体への被弾は今だに無い。
しかし、お互いに決め手に欠けるのはたしか。
このままだと、いつまで経っても決着がつかない可能性もある。
そこで、少し強行な気がしたが、現状を打開する為に浮遊腕を突撃させることにした。
これで宝玉を確保出来れば、めっけものだ。
六本の浮遊腕が空を切り、宝玉に殺到する。
それに時間樹は、全力で抵抗してきた。
枝葉と蔓で幾重にもバリケードを構築し、浮遊腕の宝玉への接触を阻んだ。
だが甘い!その程度の障害では、俺の浮遊腕は停められない。
俺は[透過]を発動し、浮遊腕にバリケードを片っ端から摺り抜けさせた。
どれだけ堅く、厚くとも摺り抜けてしまえば無意味!
浮遊腕は次々とバリケードを突破し、宝玉への距離をどんどんつめていく。
ぽぉぉ
だが、相手も負けじと次の手を打ってきた。
浮遊腕の周りに光りの円が出現し、次の瞬間には最初のバリケードの位置に浮遊腕が移動していた。
いや、この場合は移動させられたというべきだな。
だが、今のは何をやったんだ?
俺の時間は直接弄れないはずなのに?
『どうやら位置情報の方を戻されたようです』
位置情報?
意味はわからないが、その位置情報とやらを戻したとして、どうして浮遊腕が戻されたんだ?
俺には[時空間適応]があるから、直接時間は操作されないって話だったろう?
『はい、そのことに間違いはありません』
なら、どうしてなんだ?
『ノルニルの対象は、貴方ではなく私(世界)だったからです』
どういうことだ?
『貴方の時間を直接戻したのではなく、私(世界)が認識している貴方の位置情報を過去の状態に戻し、私(世界)に貴方の位置を強制的に正させたんです』
俺に能力が効かないから、間接的に対処したってことか?
『そうです。これはノルニルの大能力の一つ、[時空転位]という能力です』
[時空転位]?その[時空転位]っていうのは、どういう能力なんだ?
『任意対象の位置情報を現在から過去、未来のものに変更することにより、その対象をその位置に転位させる能力です』
過去はさっきされたからわかるが、未来?
『はい。過去への転位は、位置情報を過去のログと差し替えることにより、一瞬で発生。現象としては、[瞬間移動]と同じと言っても良いでしょう』
[瞬間移動]。ああ、たしかにゲームなんかの瞬間移動は、自分が訪れたことのある場所にしか転移出来ないものな。
『そうです。そして、これは過去というすでに確定している情報を基にしている為、一瞬で発動が可能です。さて、そうしますと、先程聞かれた未来についてですが、この場合はどの情報を基にしていると思いますか?』
その質問に、俺は頭を悩ませた。




