14.時間樹
近くで見ると、さらに圧倒されるな。
俺は現在大樹を根元から見上げているが、この大樹の先端は雲の向こう側で、それだけでも大樹の高さが窺い知れた。
さらにはその高さを支えるだけの太さもあり、これが世界樹とか言われても信じてしまいそうだ。
『あいにくと、これは世界樹ではありません。これは、時間樹です』
時間樹?なんだそれ?
『時の管理神の影響をもっとも受けた樹木が変質したもので、時の間にそびえるものです』
時の間にそびえる・・・。
具体的には?
『まずは、先程の貴方のように同じ時間軸に立たなければ、その姿を見ることすら出来ません。
次に、この樹は老化をしません』
老化をしない?
『はい。現在過去未来の間に存在する為、老化のような時間の終端に向かう流れからは遠ざけられているのです。そのかわり、延々と成長を続けています。その結果がこのサイズです。そして、この時間樹は今なお成長中です』
これでまだ成長中!?
もう雲の上、成層圏まで伸びてそうなのに!?
『残念ながら、もう先端は宇宙空間にまで到達しています』
現実はさらに酷かった。
ちょっと待て!俺は宇宙までこれを登るのか!?
俺は大樹を見上げ、目眩がした。
『いえ、貴方が時間樹を登る必要はありません』
うん?
『[重力]で重力の向きを反転させ、自由落下ですぐに宇宙まで行けます』
おい!
登らなくて済むかと思えば、予想の斜め上の答えが返ってきた。
『これが一番確実で楽な移動手段なんですよ?今現在の貴方の能力ですと、他に方法がなくはないですが、かなり面倒になりますよ』
・・・一応聞いておくが、他の方法ってのはどんなのだ?
またとんでもない方法を提案されそうだが、一応聞いておこう。ひょっとしてだが、まともなのが提案されるかもしれないことだし。
『EXPドレインで時間樹の経験値を吸収するという方法です』
・・・するとどうなるんだ?
『経験値を吸い出した分、時間樹の時間が回帰して縮みます』
縮む?
『はい。刻まれた経験値を吸収するということは、相手から経験した過去を奪うということです。今回の場合ですと、時間樹の成長した過去を奪い、現在の姿に到る過程である成長をなかったことにします』
つまり、自分がてっぺんに行くのではなく、時間樹の方を元のサイズに戻す提案ってことか?
『そうなります。ただ、これだけのサイズの大樹から経験値を吸収し尽くすとなると、最低でも数十年はかかるでしょうね』
数十年!?
時間をかけるかかけないか。
安全を採るか採らないか、か。
片方が数十年も時間が必要なら、もうさっさと成層圏を突破して、宇宙空間にまで落ちた方が良いか?
『時間的には、やはり最初の提案をオススメします。ただ、もう一つの案の方だと、一気に豊富な経験値が手に入りますから、Levelがたくさん上がりますよ』
へぇ?Levelが上がるのか?
『それは上がりますよ。EXPドレインは経験値を吸収する能力。つまりは、相手を倒さずに経験値を得られる能力なんですから』
なるほど、そういう特典があるのか。
だがそうなると、どちらが良いか迷うな。
『私としては早く宝玉を回収してもらいたいですが、貴方が強くなってくれるなら、多少は後回しでも構いませんよ?』
譲歩してくれたのか?
それなら、こちらも譲歩しないとな。
わかった。同時進行でいく。
『同時進行ですか?つまり、EXPドレインを発動させながら上を目指すと?』
ああ、そうだ。
ただ落ちるだけの時間はもったいないからな。
『たしかにそうですね。ここから宇宙まで行くのですから、それもありでしょう』
なら決まりだ。
それじゃあ始めるとしよう。
俺は[重力]を五重起動で発動させた。
途端に天地がひっくり返り、俺は空に向かって落下を始めた。
落下を開始して数十分が経過した。
さすがに五重起動の結果は凄まじく、もう頭上の森が随分と小さく見えるようになった。
そろそろこの状態にも慣れてきた。
もう一つの提案も、そろそろやってみるとしよう。
俺は一つだけ[多重起動]から外した頭を、時間樹に向ける。
そして、そのまま[EXPドレイン]を発動させる。
すると次の瞬間、時間樹から金色の粒子が大量に周囲に広がり、その後俺の方に押し寄せてきた。
なんだこれ!?
『EXPドレインで実体化された経験値です』
経験値!?これがか?
『はい』
俺が驚いている間も、金色の粒子はどんどん俺の方に押し寄せてきた。
そして、俺の身体に触れた端から、俺の身体の中に吸収されていった。
そして、金色の粒子は限り無く周囲に広がり続け、現在俺は金色の海の中を潜行している状態となっていた。
ぶっちゃけもう視界いっぱいキンキラで、目が痛い。
どうなっているんだこれ?いくらなんでも、経験値が多過ぎないか?
『いえいえ、時間樹が溜め込んでいる経験値の総量を考えると、まだまだこの程度は序の口です』
これで序の口なのか!?
俺はそれを信じたくはなかった。
現在でもこれなのに、これ以上増えられたら経験値で溺れてしまう。
『ええ。宝玉がこの地にたどり着いてからの、二千年分の経験値ですからね。まだまだ有り余っていますよ』
・・・二千年。
その年数を聞いた瞬間、少しの間気が遠くなった。
少しですんだのは、[精神耐性]のおかげだろうか?
あれから数時間後。俺はそんなことを考えたりもしたが、あれからも経験値の吸収を続け、今では現在の最大LevelまでLevelが上がっている。
しかし、現状では進化をすることが出来ない。
そんなことをすれば、進化前の眠りで地上に真っ逆さまに堕ちてしまうからだ。
おかげで、吸収した大量の経験値がある意味無駄になっている。
これだけ無制限に経験値を吸収出来る環境なのに、それが進化をしないと次のLevelへの糧にはならない。
はっきり言って、現在吸収している分は余剰分だ。
それでも吸収している理由は、時間樹の高さを下げる為である。
視界が塞がっていて実感がわかないが、多分それなりには効果が出ているはずだ。
『ちゃんと効果は出ていますよ。それから、現在吸収している経験値も、無駄にはなっていませんよ。現在の余剰分は、進化した時にステータスボーナスになりますから』
そうなのか?
『はい。このまま経験値を吸収していけば、かなりの値が加算されることになりますよ』
それはよかった。
やっぱり、有益なものを無駄にはしたくないからな。
『そうですね』
【EXP変換を獲得しました】
【EXPドロップを獲得しました】
【EXPギフトを獲得しました】
【EXPバーストを獲得しました】etc.
そんなことを話していると、突然そんな膨大なメッセージが表示されはじめた。
どうなってるんだこれ!?
唐突に表示されだしたメッセージに、何事だと思った。
『どうやら経験値を取り込み過ぎた結果、EXP関係の通常スキルの獲得条件を片っ端から満たしたみたいですね』
片っ端からって・・・。
『EXP関係は、そのまま全て経験値に依存していますから、獲得条件も全て経験値関連になっています。これは当然の結果ですね』
・・・そういうものならそれは良いが、これはいつ止まるんだ。
現在表示されているメッセージ枠は、金色の海を流れる滝のような様相となっていた。
出現した端から新しいメッセージに変わっていく結果だ。
『経験値の吸収を止めるか、通常スキルの在庫が無くなるまで続くと思います』
そう言われた俺は、メッセージはしばらくほおっておくことにした。
今はとても確認していられないからだ。
そうしてさらに時間が経過し、ようやくメッセージの表示が終わった。
【EXP関連の通常スキルをコンプリートしました】
【EXP関連の通常スキルが統合され、EXPロードを獲得しました】
【時属性を獲得しました】
【木属性を獲得しました】
【生属性を獲得しました】
そして、メッセージ群の終わりにはそう表示されていた。




