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117.成果神

「……帰って来ないな」


アストラルはフリーズした面々を見ながら、そう一人ごちた。

アーク達がフリーズしてから、すでに一時間近い時が経過していた。


「それは当然ではありませんか?彼らは、自分達が崇めている神々の正体を知った。今までの信仰が砕け散ってしまったとしても、それは仕方のないことでしょう」

「まあ、それもそうか。……暇だな」

「そうですね。たたき起こしますか?」

「……いや、最期の安らぎの時間だ。これから死霊漬けにするのだし、今ぐらいは待っていてやろう」


エレメンタルの提案を、アストラルは少し考えた後に断った。


「そうですか。お優しいですね」

「それはどうだろうな?あるいは、たたき起こしてやった方が、こいつらの為かもしれないし、な」

「それはないでしょう。それで、これからどうします?」

「ふむ。………説明の続きでもしておくか」


アストラルは少し考えると、それをすることに決めた。


「説明ですか?全員フリーズしていますから、聴者は誰もいませんよ?」


エレメンタルはアーク達を見た後、そうアストラルに確認した。


「聴者ならいるさ。君だよ」

「私、ですか?」

「ああ。君も立派な聴者だよ。それにこの後の説明は、彼らにはあんまり関係ないからな。それでも説明するのは、俺が途中でやめるのが嫌なだけだし」

「そういうものですか?」

「そういうものだよ」

「酔狂なことですね。ですがまあ、それを止める理由はとくにありませんね。それではひと時、私が貴方の聴者となりましょう」

「ありがとう」


アストラルはエレメンタルに礼を言うと、エレメンタルから少し距離をとった。


「それでは次は、他のバリエーションについて説明しよう」


移動したアストラルは、そう言って説明を再開した。


「思いが直接神に為った顕現神の他には、既存の人物や物に思いが集まって誕生する【成果神】や、【投影神】などがいる」

「まずはその二つからですか?」

「ああ。成果神は、元となった人物の功績に人々の思いが集まることによって誕生する。具体例をだすと、救国の英雄や癒しの聖女などだ。前者は、国を救ったという功績。後者は、人々を癒し助けたという功績。これらの功績に対し、数多く人々がその人物に感謝の念を大量に抱き、そしてある程度の期間持続させ続けると、成果神が誕生する。まあ、この世界に成果神は誕生しないがな。だよな?」

「ええ。他の世界ではともかく、私(この世界)では成果神は誕生しません。なぜなら、この世界の人類種達は勇者や聖女ではなく、それに力を与えている信仰神達の方に感謝を捧げますから」

「そうなんだよな。だから勇者や聖女達がなるのは、成果神じゃなくて神の下の階級の、【御使い】なんだよな?」

「そうです。この世界の御使い。神の下働きである天使達は、この方法によってのみその数を増やします。信仰神達には、天使を生み出すような能力は標準装備されていませんから。まあ所詮は人形ですから、人々のイメージ出来ない能力は、扱えないということですね」

「そうなんだよな。よくそれで神を名乗れるよな。だってそれだと、この世界の管理にはまったく関わっていないだろう?」

「まったく関わっていませんね。…関わられても困りますが。トラブルを増産させそうですし…」

「まあ、そうだな」


アストラルの頭の中では、信仰神達が人々の欲望のままにシステムを弄る様が、かなり明瞭に想像されていた。


「ふむ。そこの勇者一行は、御使いになれると思うか?まあ、御使いになったとしても、この間ルーチェが降臨させていた御使いよりも弱いだろうが。いや、下手をすると、分体で援軍に来ていた御使いよりも弱いかもしれないな」

「そうですね。安易に御使い降臨を発動させていて、自身の特徴が見受けられませんでした。いくら準成果神で力を供給されているとはいえ、あれでは御使いになったとしても、下位の御使いにしかなれないでしょう」

「力の供給、か。随分とあれなシステムを形成しているよな」


アストラルは七罪邪神達と悪神達。成果神と準成果神、そして人々の関係を考え、そう感想を口にした。


「そうですね。ですがまあ、それは仕方がありません。なにせ集団無意識で構築されている欠陥システムですから」

「そうなんだよな。人々の思いが七罪邪神達や悪神達を生み出した。そして七罪邪神達や悪神達は、人々の期待や希望に応じて行動する。七罪邪神達や悪神達の行動の結果を見て、人々が七罪邪神達や悪神達に合否を出す。これが合だと、七罪邪神達や悪神達は信仰を獲得して、信仰神として存在を安定させる。これで信仰と行動のサイクルが確立し、安定稼働が可能になる」

「このサイクルについては、何処の世界でも同じですね」

「そうだな。このシステム自体は普通だな。要望を出して、それを実行。行動の合否を判定し、また要望を出すかどうかを判断する。よくある、ありふれたシステムだ」

「まあ、だからこそ弱点も明確なんですよね」

「そうだな。信仰が途絶えた時が、信仰神の最期の時だ。そして信仰の形が移ろえば、それだけで信仰神達に影響がでる」

「そのとおりです。そして私達には、それを可能に出来る仲間が存在しています」

「記憶の管理神ムネモシュネに知識の管理神メティス。そして、思想の管理神オモイカネか」

「はい」


アストラルが三人の管理神の名を上げると、エレメンタルはそれに頷いた。


「記憶、知識、思想。この三つの内どれか一つでも介入出来れば、信仰神達は戦わずして敗北します」

「まあ、そうなるよな。信仰神達の存在が人々の記憶、知識、思想によって支えられているんだ。その屋台骨を作り替えてしまえば、信仰神達は簡単に存在を崩壊させる」

「そうです。信仰神達の記憶を忘却させる。信仰神達に関する知識を喪失させる。信仰神達に向けられる思想を遮断する。これだけで信仰神達は終わります」

「まあ、出来てもやらないがな」

「やらないのですか?」

「ああ」


エレメンタルが不思議そうにアストラルに確認すると、アストラルはそれを肯定した。


「それはどうしてですか?」

「なあに、信仰神達は自己崩壊させるよりも、利用した方がお得だという話しだ」

「お得?どういう意味ですか?」

「記憶を書き換える。知識をすり替える。思想を塗り替える。七罪邪神達や悪神達を、人類種達への本当の邪神悪神に落としてみようかなって、な」

「ああ、なるほど!それは面白いですね。自分達が生み出した神に。自分達の欲望という名の悪に滅ぼされる。堕ちた人類種達には、なかなかお似合いの末路ですね」

「あるいは、俺達が七罪邪神達や悪神達を直接滅ぼすのもありだろうな」

「そちらはどうしてですか?自己崩壊させた方が、簡単に終わらせられますよ」


エレメンタルは、アストラルの意図をはかりかねていた。


「そうだな。だが、俺達の本来の目的からするなら、そちらの方が手っ取り早いし確実なんだ」

「本来の目的?」


エレメンタルは首を傾げた。


「そう、貴女から頼まれた最初の目的。この世界にいる人類種達の排除」

「…たしかにそれは頼みましたが、信仰神達とその目的がどう繋がるんですか?」


エレメンタルには、アストラルの考えがいまひとつよくわからなかった。


「人類種達と信仰神達の繋がりを利用しようと思っている」

「繋がりをですか?」

「そうだ。信仰神達は人類種達と常に繋がっている。逆に言えば、人類種達は常に信仰神達と繋がっていると言えるだろう」

「まあ、そうですね」

「だから、そのフィードバックを利用する」



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