プロローグ
ふと気がつくと、俺は暗闇の中にいた。
頭はくらくらしていて、思考が纏まらない。
それでも現状をなんとか把握しようと、俺は周囲に手を伸ばそうとした。
しかし、俺は手を伸ばすことは出来なかった。
なぜなら、今の俺には伸ばそうとした手の感覚がなかったからだ。
手だけではない。足の感覚も俺にはなかった。
俺はそのことに困惑したが、何故か混乱や恐慌には到らなかった。
妙に冷静なことを不思議に思ったが、今は先に現状把握を優先することにした。
俺は手足のことは諦め、頭や身体を動かして自分の状況を確認した。
その結果わかったのは、今俺は何処かに閉じ込められているらしいということだ。
俺が身体を動かす度に、身体の一部が固い何かにぶつかる。
それと、身体を動かす時に違和感があった。
どうも、いつもの肉体の稼動範囲を逸脱して各部を動かせるようなのだ。
ますます困惑しそうになるが、とりあえずはここからの脱出をはかることにした。
身体全体を使い、周囲を叩きまくる。
それからしばらくすると、パキリ、頭上で何か固いものがひび割れる音がした。
俺はその音がした場所を、さらに強く叩いた。
パキリ、パキパキ、何かが割れる音は徐々に大きくなり、そして暗闇の中に光と、大量の水が入ってきた。
俺は咄嗟に溺れ死ぬと思い、全力の頭突きで完全にひび割れを粉砕して、外へと脱出した。
脱出した先は、水の中だった。
俺はまた困惑することになったが、何故か息苦しくなることはなかった。
どうやら溺死するようなことはないようで、そんな場合ではないはずなのに不思議と安堵してしまった。
俺は周囲の景色を見回す。
周囲には何も無く、視界に広がるのは水草、魚影。そして、水中を照らす日の光。
ここは何処だ?というか、俺は何に閉じ込められていたんだ?
俺は足元にある、先程まで自分が閉じ込められていたものを確認した。
そこにあったのは、深い青色をした卵だった。
それを見て嫌な予感がした俺は、慌てて今の自分の姿を確認する。
長い手足の無い胴体に、全身を覆う卵と同色の深い青色の鱗。
駄目押しとばかりに舌を伸ばしてみると、赤く長い、先端が二股の舌が確認出来た。
ここまで確認出来てしまうと、まず間違いない。
どうやら俺は、蛇に転生してしまったようだ。
転生。最近では小説や漫画でよく登場するアレである。
基本的には神様やら何やらが、主人公達の不幸な死後にご提供してくれる、ボーナス人生というのが俺の認識である。
まさか自分が当時者になるとは、考えてもみなかったが。
さて、この転生というのには、往々にして問題がある。
その問題とは、誰が、何の目的で、どうして俺を転生させたかという点だ。
誰がの部分は、神様かそれと同じくらいには魂に干渉出来る存在。
何の目的かは、小説関連なら善行の報奨から、暇つぶし、悪意ある何事かまで千差万別。
最後の何故俺なのかというのは、目的がわからないので不明。
とりあえず、現在解答をくれる相手がいないので、深く考えるのは止めておく。
しかし、なんとか状況把握は出来ないものか?
【状況確認申請を受諾。ステータス情報を開示します】
俺がそう考えた瞬間、何かのメッセージと共に、自分の目の前にゲーム画面的な見た目の何かが出現した。
プレイヤー名:未登録
種族:ポイズンスネーク
Level:1/5
HP :5/5
MP :5/5
SP :0
【攻撃】1
【防御】1
【魔力】1
【敏捷】5
【精神】20
【運】まあまあ
【属性】水・毒
【特殊能力】
[ゲームプレイヤー:Level1]
[生物進化の道:Level1]
【耐性】
[水中適応][毒耐性:Level1]
【通常スキル】
[毒生成:Level1][熱感知:Level1][脱皮:Level1]
【称号】
[転生プレイヤー][■■■■■■■]
【祝福・加護】
[■■■■■■■]
【経験値】0
次のLevelまで20
なんだこれ?
出現したものを確認し、俺はまずそう思った。
【説明要請を受諾。ステータス情報の説明を開始します】
俺の疑問を理解しているのか、謎のメッセージが今度は説明すると言ってきた。
なので、まずは説明を聞くことにした。
【ステータス情報は、世界に登録されている個体情報です。このステータス情報の閲覧は、管理者・プレイヤー・特定の能力持ちが行えます】
プレイヤー。これが、俺がこれを見られる理由か。
【次に、ステータス情報の詳細説明に移行します。疑問点は、最後にまとめて受け付けますので、ご静聴ください】
そう言われた俺は、居住まいを正した。
【ステータス情報の説明は、上から順に行います。お手元の画面をご確認ください】
言われるままに画面を見る。
【まずはプレイヤー名。これは個体名となります。現在は未登録ですが、自身で名乗られるか、他人に名前をつけられ、それを了承されるとその名前が登録されます】
ふむふむ。それなら名前は後で考えておこう。
【次に種族。これは現在のあなたの種族になります。その為、種族が変更されると自動的に書き換えられます】
種族が変更される。ゲームみたいに進化があるのか?
だとすると、完全に魔法系列の世界に転生したんだな。
この時点で、元の地球世界の蛇に転生した可能性が無くなった。
【次にLevel。こちらは現在の種族においての強さにおける目安です。左側が現在のLevel。右側が現在の種族で到達出来る最高Levelになります】
最高Level。そこに到達出来れば、進化して他の種族になれるのか?
【次にHP・MP。左側が現在の残量。右側が最大値となります。HPが無くなると死亡します。MPが無くなると気絶します。双方共に、時間経過でゆっくりと回復していきます。また、睡眠中は回復速度が上昇します】
歩くとHP・MPが回復するゲームと同じ仕様か。あと、宿屋で休むと全快する要素に近い部分もあるな。
【次にSP。こちらはプレイヤー専用の項目になります。SPは、進化時及び自身よりもLevelが上の相手を倒した場合に獲得できます。そして、プレイヤーはSPを消費することによって、知識・魔法・耐性・通常スキルなどの獲得が可能です】
ほうほう、スキルや魔法を任意で獲得出来るのか。
ますますゲームっぽいな。
【次に攻撃・防御・魔力・敏捷・精神・運についてです。攻撃の値が高い程、相手に与えるダメージが上昇します。防御が高い程、自分が受けるダメージが減少します。魔力が高い程、一度に扱えるMP量が増加します。敏捷が高い程、行動する速度が早くなります。精神が高い程、集中力・精神耐性・MPの使用効率が向上します。最後に運は、自己評価と世界から見た間の評価となっています】
ステータスもゲームっぽいけど、魔力や精神がMPに関連しているのか。
あと、運がまあまあなのは、どんな評価の結果なんだ?
これだと、良いのか悪いのか微妙だな。
【次に属性。これは現在自分が持っている属性で、持っている属性の親和性が向上します】
俺の場合は水と毒か。水はともかく、毒の親和性が向上するのはなんだかなぁ。
【次に特殊能力。こちらは通常の方法では獲得出来ない能力で、複数の効果を併せ持っています】
複数の効果。ゲームプレイヤーと生物進化の道は、どんな効果を併せ持っているんだろうか?
【次に耐性。特定環境における適応を補助するものです】
特定環境における適応の補助。
水中で苦しくないのは、水中適応のおかげということか。
【次に通常スキル。その種族の持つ身体的能力や、特定の行動をシステム化して、補助するものです】
毒生成、熱感知、脱皮。
たしかに蛇の生態に関するものばかりだな。
【次に称号。特定の条件、行動を満たしたものに送られます。称号によっては、ステータスに補正が入るものもあります】
俺の称号は転生プレイヤーと不明。
転生プレイヤーの方は、転生したこととプレイヤーになっていることが条件なのか?
【次に祝福・加護。特定の上位者より与えられる恩恵。または厄災です。この点は、本人の受け取りかた及び、与える者の性質によって変わってきます】
恩恵か厄災。こっちも不明だから、現状ではなんともいえないな。
【最後に経験値。これは、本人の行動結果を数値化したものです。これが一定値に達すると、Levelが上昇します】
このあたりもゲームみたいだな。
ただ、行動結果の部分が少しひっかかるな。
【いじょうで説明を一旦終了します。これより先は、疑問の受け付けを行います。疑問があればどうぞ】
ようやく質問が出来るようだ。