表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝けるもの(下)  作者: 長谷川るり
5/12

第5章 過去と現在の交差点

5.過去と現在の交差点


「チーフ、今日ですよ。OKですね?」

沙希の気持ちをよそに、桜田が意気揚々と声を掛ける。以前から誘われていた千梨子とその彼氏と一緒に四人で食事をする約束が、今晩仕事の後だというのだ。

「あぁ・・・でも、どうかな・・・。今日 雑務が色々残ってて・・・」

「じゃ、接客終えたら サロンの後片付け 私やっときますから、チーフはそっちやっちゃって下さい」

それ以上何も言えず 一度は断念したものの、閉店後 もう一度沙希が声を掛けた。

「もしかしたら・・・これ、間に合わないかもしれないから・・・」

「あ、じゃ 時間遅らせてもらいましょうか?」

またもや その一言に一撃されると、駄目押しする様に 店長がそれを聞きつけ声を掛ける。

「それ今日中じゃなくてもいいわよ。今週中位にやっといてくれれば。今日何か予定があるんでしょ?早く上がっていいわよ」

そして再び沙希は肩を落とした。


 横浜駅西口の地上へ続く階段の上で、沙希と桜田は二人を待った。随分昔に、大地と別れて何ヶ月も経ったある夏の日。仕事で失敗をし、駆け付けた桜井のマンションからは元カノの雨宮がひょっこり顔を出し、傷心のまま呼びつけた大地と再会を果たしたこの場所で、今夜また 再会の時が近付いていた。薄っすらと この場所に妙な縁を感じながら、沙希が道路の方へ顔を向けると、当時のれんをくぐった赤提灯が懐かしく灯っていた。その時のコップ酒の味と 固くなった焼き鳥をぼんやりと思い出しながら、沙希は桜田の方を向いた。

「本当に私・・・来ちゃって良かったのかしら・・・」

すると桜田は目を丸くした。

「まだ遠慮してるんですかぁ?今日はこちらがチーフにお願いして来てもらったんです。堂々と大きな顔していて下さい」

苦笑いを隠す様に 顔を伏せる沙希。

「今日会う千梨ちゃんの彼氏、すっごく優しいんですよ。前一緒にご飯食べに行った時、さり気な~く千梨ちゃんの好みの物注文したり、『これソースが辛いけど平気か?』とか、もう寄り添ってメニュー見ちゃって、超ラブラブで 見せつけられたーって感じだったんですけど、でも ちゃんと私の事も凄く気に掛けてくれて。大人っていうかぁ・・・、やっぱり海外での生活 経験してるから違うのかなぁ。チーフも今日、千梨ちゃんと彼のそういう所、こっそり良くチェックしてみて下さい。それが今日の見どころですっ!」

ウキウキと話す桜田が、沙希には痛かった。じりじりと迫り来る時間に、沙希は身動きの取れない窮屈さを体いっぱいに感じていた。もじもじとその時を待っていると、ふと沙希が 自分の腕が軽い事に気が付く。

「あっ!時計忘れてきちゃった」

そして同時にひらめく。

「サロンに・・・取りに行って来ようかな・・・」

「え・・・でも・・・もうすぐ来ちゃいますよ」

当然の如く 止める桜田が最後まで言い終わらないうちに、階段の方を見ながらもう一度叫んだ。

「あ!来た来た!」

とうとうこの時が来てしまった事に、今更ながら怖気づく沙希は、顔を上げる事が出来なかった。

「待ったぁ?」

少し離れた所から 明るい千梨子の声がする。

「時計の事は諦めて下さい」

桜田がそっと沙希に耳打ちした頃、二人の靴が目の前で止まる。顔を上げたら、そこには紛れもなく現実が待っているのに、五年前の思い出にしがみついている沙希は どうしても頭を持ち上げられずにいた。

「こんばんは」

千梨子のこの一言が、重たい沙希の首を動かした。にっこり笑って挨拶を返したが、どうしてもその隣へ視線を移せない。

「紹介します。私の彼の・・・木村大地さんです」

一瞬だけ目を合わせたら すぐにお辞儀をしてしまおうと目論んでいた沙希だったが、思わず目を疑った。沙希が大地と最後に会ったのは 四年前の7月7日だった。あの時は、髪も長いまま メキシコの太陽にこんがりと焦がされた褐色の肌に無精髭を生やして、正にメキシコで一年過ごした事を彷彿とさせる外見だった。しかし今は・・・。すっかり短く切られてしまった髪型のせいか、まるで別人で、当時は破れたジーンズにTシャツが定番だったが、今は四年前からは想像も出来ない 綿パンにシャツといった爽やかないでたちであった。きっとどこかですれ違っても気が付かない程の変わり様に、沙希は愕然としていた。言葉に詰まる沙希に対し、当然大地も凍りついていて、そんな間を埋める様に 千梨子が彼の腕を掴んだ。

「こちらが、私が今通ってるエステのチーフの河野さん。毎回私を担当してもらって・・・すっごく良い人なの。今日は無理言って、来て頂いちゃった」

千梨子の口から『チーフ』と聞こえてきた事で、沙希のスイッチが切り替わる。

「はじめまして、河野です」

深々と下げた頭につられ、大地も口調を合わせる。

「あ・・・はじめまして・・・木村です」

ふと視界に入った大地の足元は 小奇麗に磨かれた茶色い革靴で、そんな姿は 沙希にとっては初めてだった。昔はウェスタンブーツか 履き古したスニーカーで、そんな面影はもうどこにも残ってはいなかった。

 四名で席を予約しているレストランへの道中、大地の腕にしっかりと掴まり 寄り添って歩く千梨子の後ろ姿を見て、沙希は遠い過去の一ページを思い出す。沙希がまだ学生だった夏、初めて大地と桜木町の駅で待ち合わせた時の事。外でのデートなど 滅多になかった沙希には とても嬉しく、照れながら腕を組んだあの夜。お互いにぎこちなく、また初々しかったあの瞬間。大地が照れ隠しに口を開いた。

『俺、こういうのあんまりないからなぁ』

『今までは手繋いだり、腕組んだりしなかったの?』 

過去の話題に触れると、途端に口を重たくしたのだった。

『いいよ、昔の事は』

・・・・・・あの時現在にいた自分が、今は大地の過去になってしまっている事を、現在にいる千梨子の嬉しそうにはしゃぐ笑い声と共に 自覚し始める沙希だった。

 

 レストランで 通された席に腰を落ち着けると、目の前では おしぼりやらグラスのお水やら 甲斐甲斐しく世話を焼く千梨子の幸せそうな顔が、沙希にため息をつかせる。何も知らずに 千梨子が声を弾ませ、沙希に顔を向ける。

「どうでした?彼。イメージ通りでした?」

まるで、恐る恐る渡る吊り橋が揺れる度にドキドキする様な心境で、沙希は答えを返す。

「うん・・・どうかしら・・・。そうかもしれないですね・・・」

多少難解気味の意味不明な言葉に、桜田がつっこむ。

「今日チーフ、何かいつもと違いません?」

「え?!・・・そう?」

また吊り橋が揺れる。

「そうですよ。何か・・・ソワソワしてるっていうか・・・。いつものチーフらしくないですよ」

「あ・・・だって・・・初対面の方がいらっしゃるし・・・」

「チーフって、人見知りするタイプじゃないですよね?しょっちゅう新規のお客様の接客してるのに・・・」

「あれは仕事中だもの。それに・・・うちにみえるお客様は皆女性だし・・・」

「へぇ、チーフって 男性に照れたりするんですね。意外~!」

沙希のプライベートな表情を垣間見た桜田が、面白がって笑う。

「何よ、それ。私の話はいいじゃない。今日はねぇ、こちらが主役なんだから・・・」

すると千梨子が 大地に話し掛けた。

「こちらのね河野さん、昔遠距離してた事あるんだって。しかも日本と海外だって」

「へぇ・・・」

複雑な面持ちで相槌を返す大地に、そのはす向かいに座る桜田がすかさず飛びつく。

「初耳!チーフ、そうだったんですかぁ?じゃ、何かコツとかアドバイスとかってありますか?」

沙希は俯いて、首を必死に横に振った。

「私は駄目になったクチだから・・・」

あれ程望んでいた大地との再会も こんな形で実現するとは・・・。もっと良く見たいし感じたい大地が目の前にいるのに、手を伸ばせば届く距離にいるのに、大地の顔すら見る事もままならない この現実に、沙希はつくづく“縁がなかった”と思わざるを得なかった。

「でもね、河野さんのお話聞かせてもらって、私はつくづく恵まれてるんだなって思ったんだ。大ちゃんはこうやって 月に一回はこっちに来てくれるし、こっちでは毎日毎日一緒に居られるし。だから私達は大丈夫かなって、元気出てきたの」

千梨子の絶えない笑顔と、親しみを込めて呼ぶ『大ちゃん』という言葉、そして『私達』と何の疑いもなく話す様子に、沙希はもう限界に近い自分を感じ始めていた。

 その時だった。沙希の携帯が鳴る。

「彼氏からですかぁ?」

冷やかし半分に桜田に言われ、携帯の液晶画面を見ると『番号非通知』と示されていた。きっと普段なら取らないこんなコールも、何かに逃げたい一心の沙希は、通話キーを押して 電話を取った。

「河野沙希さんですか?」

それは聞き覚えのない女性の声で、何故か少々強い口調だった。

「南沢ユキと申します」

名前を聞いても やはり沙希には全くピンと来ず、戸惑いながら返事をすると、その南沢と名乗る女が説明を始めた。

「浜崎修也、知ってますよね?」

「はい・・・」

一瞬だけドキリとする。

「修也の事で・・・会ってお話ししたい事があるんですけど、今どちらですか?」

何が何だか分からないまま、沙希も答える。

「横浜駅の・・・近くにいますけど・・・」

「じゃ、これから・・・30分位で行きますので、会ってもらえますか?」

「はい・・・」

何か嵐の前の様な嫌な予感を胸に抱いて、沙希はそれを受けた。

「西口のターミナルで待ってます。近くに着いたら、又連絡します」

一方的に押し切られる様な内容で、少々茫然としていると、隣の桜田が気に掛ける。

「どうかしました?」

「あ・・・ごめんなさい。急用が入っちゃって・・・。もう少ししたら、悪いんだけど 先に失礼するわ」

歯切れの悪い電話での受け答えと、切った時の思い詰めた表情から、その場の空気がぐっとよどむ。

「ごめんなさい、なんだか私のせいで。気にしないで・・・続けて」

そして間を繋ぐ様にして、桜田が口を開く。

「遠距離の人って、結構いるんですね・・・。あっ木村さんは、以前にも遠距離経験者ですか?」

「えっ・・・」

不意を突かれ 言葉に迷う大地を、横から千梨子がせっつく。

「そうだ。私も聞いてなかった。だって前、メキシコに行ってたんでしょ?その時とか、彼女いなかったの?」

何故か沙希までが 俯いて小さくなる。

「どうしたの?急に、二人して」

その一言ではごまかされないと言った様子の千梨子と桜田に、大地は慎重に言葉を選んだ。

「いたよ。いたけど・・・あの時は、今と違って 相手を見てやれる余裕もなかったし。そんなんじゃ誰だって女の子は嫌になるでしょ」

隣で話を聞いている千梨子の顔がみるみる曇ってくるのに、大地がすかさず気が付く。

「とっくの昔の話だよ」

とうとう千梨子は 黙ったまま俯いてしまい、首を横に振り続けた。

「ほら、だから聞かなきゃいいのに。俺は、嘘ついた方が嫌だろうと思って 話したのに・・・」

大地の言葉に語尾に、千梨子の声がかぶる。

「違うよ。そんな事じゃないよ。・・・大ちゃん 昔、結婚考えた人がいたって・・・その人でしょ?」

思わず沙希は耳を疑ったが、桜田も同様の様だった。

「え?!木村さん、婚約してた事あるんですか?!」

「ないよ、ないよ。俺いつそんな話した?」

真相を突き止めるべく、千梨子に皆が集中する。千梨子は少し顔を上げ、大地を上目使いに見ながら言った。

「一番最初に会った時。まだつき合い始める前。『何で結婚しなかったんですか?』って私がきいたら、その時大ちゃん『今までに一人だけ結婚したいと思う人がいたけど・・・結局その人とは縁が無かった』って言ってた。私すご~く覚えてて・・・」

「それがどうして その・・・遠距離の彼女・・・なの?」

桜田が率直な疑問をぶつける。

「何となく。・・・女の勘」

曖昧でありながらも、とても信憑性に富んだ表現に桜田が納得していると、千梨子がもう一度 大地を見た。

「そうなんでしょ?」

問い詰められ、一瞬口をつぐみ 目をそらした大地を見て、思わず沙希が口を挟む。

「そんな、問い詰めたら お気の毒よ。私みたいな初対面の人間がいたら、話しづらい事もあるでしょうし。又その話は、二人っきりの時にでも・・・」

「あ、ごめんなさい。せっかく皆で来たのに・・・」

「私・・・そろそろ・・・かな?」

場の空気を変えようと、席を立つきっかけを作る。沙希が時間を見ようと腕を上げて、思い出した。

「あ、私 今日時計忘れてきちゃったんだった。ごめん。今何時か分かる?」

隣に居る桜田も 腕時計の習慣がなかったらしく、ゴソゴソと携帯を取り出そうとした時、大地の腕が沙希の前に伸びてきた。

「10時・・・10分です」

今日 今までで一番大地との距離が縮まった瞬間だった。真っ黒に日焼けしていたあの日の大地の肌とは違っていたが、一瞬だが見えた指や手の甲の骨ばった感じは、沙希の良く知っている大地 そのままだった。しかし目の前に差し出された時計は、昔沙希がクリスマスにプレゼントしたアンティーク調のアレではなかった。あの時あれ程喜んでくれた時計。メキシコでも大事に使ってくれていた時計。そして『これを見て、沙希を思い出してるよ』と言ってくれた あの時計。その姿は もう影も形も無くなっていて、この時沙希は もう本当に大地の中で とっくの昔に自分という存在が消えてなくなっていた事を確信した。

「あ・・・すみません。ありがとうございます」

悲しくも初めての会話がこれだった。込み上げてくる熱いものを目頭に感じながら、必死で最後の笑顔をふり絞った。

「じゃ、私 これで・・・失礼します。ごめんなさい。せっかく誘って頂いたのに。ごゆっくり」

「あ~残念。もっとゆっくりお話ししったかったのに・・・。またお誘いしてもいいですか?」

「そうよ、また四人で。ね、チーフ」

口々にそう話す姉妹に、沙希はただ黙って 笑顔を返すだけだった。そして最後に 大地に頭を下げた。

「すみません。お先に失礼します」

「お気をつけて」

そう返って来た大地の言葉に、沙希は堪らず奥歯を噛みしめた。


 沙希が西口のターミナルに着いた時には、もう既に南沢ユキと名乗る女は到着していた。携帯で話しながら車を降り、同じ様に携帯を耳に当てキョロキョロする沙希に、軽く頭を下げた。近くに駆け寄ると、どこか見覚えのある車で、乗りこんで初めて それが先日ドライブに行った浜崎のMRⅡである事に気が付いた。

 南沢ユキは早速本題に入る。

「修也と付き合ってるんでしょ?」

一体自分は何者なのかも名乗る前から 随分とぶしつけな質問を投げてよこす南沢に、沙希は口を閉ざした。すると南沢は、表情一つ変えずに続けた。

「いいの。知ってるから」

それでも声を発しない沙希をチラリと見やり、また続けた。

「私・・・修也と一緒に住んでるの」

思わず南沢を振り返り、今の言葉を確認する様に口元を見る。

「まぁ住み始めたのは まだ今年に入ってからだけど、付き合ってたのは その前から・・・。私の事・・・知ってた?」

明らかに沙希よりも若いと見られる その南沢がため口でそう言うと、挑発的な視線を送った。沙希はすっかり呆気に取られながらも、首を横に振った。

「でも・・・薄々・・・誰かいるかなとは・・・思ってた」

かなり挑発的な南沢に対し、拍子抜けする程 沙希は骨の抜けた様な状態になっていた。

「もう多分 修也、あなたに連絡しないと思う」

その一言で、沙希自身 いつが浜崎と話した最後だったんだろうと思い返す。あまりにも冷静な沙希を、南沢が不思議がる。

「驚かないわけ?・・・それとも・・・修也が自分を選ぶって自信があるとか・・・?」

力なく笑うと、沙希が言った。

「もう終わりかなって 思ってたし・・・。だから、私の事なんて もう気にしないで。・・・彼にも、そう伝えて」

暫くの間 押し黙っていた南沢が、ポツンと言った。

「そこの・・・ダッシュボード・・・開けてみて」

沙希はハッとした。先日、浜崎とのドライブ中に ふと開けたダッシュボードの中から、セイラムライトの煙草とシャネルの口紅が出てきた事を思い出しながら、ゆっくりと取っ手に手を掛けた。暗くてあまり良く見えなかったが、何やら一冊の本が中には入っていて、ゆっくりとそれに手を伸ばした。取り出すと同時に、南沢が車内にライトを灯した。

「母子手帳・・・?」

手元の浮かび上がった母子手帳と南沢の顔を交互に見る。

「これって・・・?」

さすがに言葉を失う沙希だったが、一向に浜崎への怒りや南沢への対抗心など生まれてこなかった。それよりも、数か月前 生理が予定日よりも大幅に遅れてえらく悩んだ日の事を思い出す。あの時、自分には出来なかった決断を、今横に座るこの南沢はしたんだと思うと、一回りも二回りも彼女が大きく見えるのだった。

「今・・・4か月・・・」

「・・・凄い・・・」

思わず沙希がそう漏らすと、南沢は軽く首を傾げた。

「だって・・・今ある色々な物を捨てて『産む』って決めたんでしょ?凄いと思う・・・」

すると南沢は、それに対し サラッと言ってのけた。

「愛してる人との子供 産みたいって思うの、女の本能でしょ?」

そこで沙希は、ふと数か月前のあの時、浜崎に子供の話題で打診した事を思い返していた。『子供嫌いだからなぁ』と言っていた彼。『自分にはまだまだやりたい事が多くて、自分の子でも 愛情注ぐエネルギー残ってない』と言っていた彼。他人事ながら、その言葉が無性に不安になる。

「彼と・・・結婚は?」

自分だって ついさっきまで浜崎の彼女であった筈なのに、まるで第三者の様な口ぶりの沙希に、いつの間にか南沢も むき出しにしていた牙をしまい始める。

「もちろん・・・するつもり。修也も・・・そう言ってくれた」

「良かった・・・」

思わずそう漏れた。それが沙希の本音だった。

「なんか・・・おかしい」

南沢が車内の照明を切った。

「自分の彼氏に 実は女がいて、そこに子供まで出来たって分かって、それを機に結婚するって聞いたのに・・・『良かった』なんて」

沙希は力無く笑った。

「それもそうね。でも・・・やっぱり子供には両親揃ってた方が・・・いいもんね」

「修也とか私に対して『ふざけんなっ!』とか『ムカつく!』とか・・・ないわけ?」

まだ沙希の反応を信じられない南沢が、用心深く突っつく。

「あっ、それとも・・・あなたにも他に彼氏がいるとか?」

沙希は大きく、ゆっくりと首を横に振った。

「いないわ、そんなの。大丈夫。後でドカーンと大っきな仕返し考えてたりしないから。・・・安心して・・・元気な子、産んで。それじゃ」

ドアに手を掛けると、南沢が待ったをかける。

「私がどうして、あなたの携帯の番号知ったかとか・・・色々聞かないの?」

背中越しの南沢の張りつめた声に、振り返らずに沙希は答えた。

「そんな事・・・もう、どうでもいいから・・・」

ドアを開け、車を降り、ゆっくりと黄色いMRⅡのドアを閉めようとした時、沙希が思い出した。

「あっ!・・・セイラムライト吸ってるの・・・あなた?」

運転席から見上げる様に沙希と目線を合わせた南沢が、こくりと頷いた。

「お腹の赤ちゃんの為にも・・・もうやめてあげて。・・・余計なお世話かもしれないけど」

そしてドアは バタンと音を立てて、二人の間に重く立ちはだかった。


 いつの間にか石川町の駅を降り、とぼとぼと歩き始めた沙希。車のドアが閉まる音が耳に大きく響いたと同時に、沙希の意識はもうろうとしていて、一体どうやって電車に乗り込んだのか、それすら覚えていない程だった。でも確かに自分は いつもの見慣れた町を歩いていて、家路に着いている自分を変に感心したりしていた。大酒を飲んで酔っぱらい 記憶を無くしても、いつもの家への道は忘れていないで帰れる様に、人間の神経とは上手く出来たものだと、まるで第三者みたいな思考回路が沙希の頭を占拠していた。いつもの元町商店街に差し掛かった辺りで、携帯電話を取り出す。そして掛けた相手は・・・神林であった。

「ごめんね、夜遅くに。寝てた?」

「まだまだ。どうした?」

神林の電話の向こうからは テレビの音が聞こえていた。

「私・・・本当に一人ぼっちになっちゃった・・・」

何故そう言い終えた後に笑ってしまったかは、沙希にも説明がつかなかった。もうろうとする頭のまま 何とか事の一部始終を話すと、いつの間にか 神林の部屋のテレビの音は消えていた。アルコールも殆ど入っていない筈なのに、何故か耳が遠く どこかで耳鳴りでも聞こえてくるかの様な、頭の中だけがめまいを起こしている様な、そんな体をすっかり持て余している沙希に、神林が言った。

「これから、そっち行こっか?」

「いいよ。もう遅いし・・・明日もあるし」

沙希もいつの間にか、近所の人気のない公園のブランコに腰掛けていた。時々鎖の擦れ合うキコキコという音だけが、深夜の公園に響いていた。

「ほら!そうやって自分の本音をいっつも隠してきたんだろ?もっと正直に生きたってバチ当たんないぞ。車ならすぐだから、これから行くよ」

そんなやり取りから15分と経たないうちに、神林が姿を現した。

「ほ~ら」

そう言って、ぐったりとうなだれる様に ブランコに腰掛ける沙希に、缶ビールを一つ投げてよこした。

「たまたま家に2本あったからさ」

沙希の前のブランコの柵に 軽く腰を落ち着かせると、プシュッとビールを開けた。それにつられて沙希もビールを開けると、神林が缶を高く掲げ“乾杯”を促した。

「たまには星空の下でビールってのも、悪くないな」

「ごめんね。遅くに呼びつけたりして・・・」

「『ごめんね』じゃないだろ?『ありがとう』だろ?」

そして沙希は軽く笑った後、頭を下げた。

「ありがと。感謝してる」

「今度『私はひとりぼっち』なんて抜かしたら、殴ってやっからな。こんなすぐに飛んできてやる仲間がいるってのに・・・まったく・・・」

ふと神林が夜空を仰いで、思い出した様に呟いた。

「そういや二年の時さ、スピーチの授業で お前『自分の星を買うのが夢』って言ってたよな?あれ、どうなった?」

たちまち沙希が苦笑いをした。

「今その話題は、酷だったな・・・。ま、いいや。あれね・・・半分叶って、半分・・・叶ってない・・・かな」

「何だ?それ」

沙希は足を地面につけたまま、ブランコを揺らした。

「22の誕生日にね、その・・・元彼の大地がプレゼントしてくれた」

神林は無言のまま、ただいつもの様に聞き続けた。

「ま、そんな事も 忘れちゃってるだろうけどね。・・・今日会って・・・本当わかったんだ。大地はもう とっくに新しい人生を歩き始めてるんだって。彼の中で、私の存在なんて かけらも残ってないって事・・・嫌って程 確認しちゃった」

沙希の頭の中では、先程見た 大地の腕時計が鮮明に甦り、時を刻む針の音までが 耳の奥で響いていた。

「でもね、その彼女が 突然言い出したの。『今までに一人だけ結婚考えた人がいたって、メキシコに行ってた時につき合ってた彼女でしょ?』って。結局彼は答えなかったんだけど・・・ってより、私が遮っちゃったんだけどね。何だか怖くてさ。でも・・・もし答えが“Yes”だったとしたら・・・私達は本当に縁がなかったんだなって思えちゃって・・・余計に悲しくなっちゃった・・・」

その時、神林の手に持つビニール袋がガサガサと音を立てる。

「今来る時、コンビニで買って来たんだ。やろうぜ!」

そう言って少年の様に笑って 袋から取り出したのは、花火だった。

「気分的には打ち上げだったんだけど、さすがに ここじゃヤバいかなと思って、大人しいヤツにしたよ」

そして二人は 久し振りにやる花火に魅了され、沙希はその日あった様々な事を 花火から立ちのぼる色とりどりの煙に包まれ、段々と記憶までもが幻想化されていくのだった。


 大地は、その日の仕事が一段落した後、東横線の新丸子駅へと降り立った。そして、もうすっかりシャッターの下りた商店街を通り、昔のバイト先であるレンタルビデオ屋のネオンに向かって歩いていた。

「おう!今こっち来てんのか」

いつもより少し頬のこけた店長が、元気そうに声を掛けた。

「あれ?痩せました?早くも夏バテですか?」

「いやいや、それがさ・・・」

待ってましたとばかりに 店長はカウンターに肘をついて、身を乗り出す。

「子供がもう夏休みじゃない。だから8月の休みに海に旅行に行く事にしたんだよ。そしたらうちのカミさん『太っちゃったから水着着られない』から始まってさぁ、旅行までにダイエットするって言い出して、毎日ローカロリーなもんばっかり一緒になって食わされて、俺のが痩せてきちゃったって 笑い話よ」

「で、奥さんは?」

店長は 下唇を少し出す様にして、首を横に振った。

「俺もビール腹だから 最初は『まぁいいかな』なんて思ってたんだよ。でもさ、腹は引っこまないで 顔ばっかりこけてきちゃってさ、その上かみさん一つも痩せもしないんだぜ?もう何とかしてくれよ。俺だって こう暑いとさ、とんかつとか・・・こう・・・スタミナの付きそうなもん食いたいじゃない。ビールに唐揚げとかさ。もうここ暫くそんな食事とは無縁になってるからね」

それを聞いて、大地の声に急にハリが出る。

「奥さん・・・エステとか・・・行きます?」

「エステ?どうした?急に。何か・・・始めんの?」

大地は笑いながら 首を振った。

「知り合いがエステで働いてるんですけど、今丁度キャンペーン中らしいんです。元々そんな値段も高くないらしいんですけど、更にキャンペーン中って事で 割引されてるって言ってました。ちなみに俺の彼女も通ってる所で・・・えらく気に入ってます。もし良かったら、行ってやって下さい」

いぶかしげに店長は大地の顔を見た。

「エステって・・・本当に効き目あんの?」

「僕の彼女は『すっごい良い』って連発してます。ま、男には分かりにくいですけど、エステにも色々あるらしいっすよ、当たり外れが」

「そっか・・・。そういや うちのかみさんも新聞のチラシで エステの見付けると、まじまじと眺めてたもんな。『無料体験してきちゃった』とか『千円で体験コースやって来た』だの、前言ってたな。言ってみとくよ。・・・で、チラシか何かないの?」

そして大地はチラシの代わりに、サロンラヴィールの電話番号と沙希の名前をメモした紙を渡して、店を後にした。


再び懐かしい商店街の通りに出ると、夏の夜風が大地を昔のアパートへ誘った。ぶらりと とても懐かしく街の風景を眺めながら、あおい荘の前に辿り着く。もちろん昔と何一つ変わらないその風貌に、大地の奥深くにしまい込まれていた記憶が呼び覚まされた。ある日突然、思いがけなく 沙希に別れを告げられて数日、こっそりと部屋の合鍵を返しに来た沙希を呼び止めた あの階段。『元気で』だか『幸せに』だったか 自分の発した言葉すら覚えていない程、夢中で追った沙希の足音。あの頃はまだ若くて、沙希の気持ちを尊重してやる事が 何よりもの愛情と勘違いしていた。そして、かつては自分の部屋だった203号のドアを見上げる。すると、まるでタイミングを合わせた様に玄関のドアが開いた。もちろん、そこから出てきたのは 大地の友人の弟、健太だった。

「健太君?!」

階段の下で待ち構える様にして そう声を掛けると、一瞬健太の足が止まる。そして暫くして、やっと

「・・・木村さん・・・ですか?いやぁ、全然分かんなかったです。すっかり昔と変わっちゃって。今一瞬誰かなって・・・。お久し振りです」

遅ればせながら そう頭を下げると、健太が続けた。

「今、こっちなんですか?」

「いや、いや。たまたま仕事でこっちに出て来ててね。用事があって近くまで来てたから、懐かしくなって ついふらっと来てみちゃった。健太君も、ここ長く住んでくれてるね」

「そうですね。大学に入った年からだから・・・もう5年になるんだ。早いっすねぇ」

健太は、頭をボリボリと掻いた。

「今は?就職した?」

「いや・・・なかなか不景気で・・・就職浪人ってやつです。で、今フリーターしてます。今日もこれからバイトなんです」

「これから?大変だねぇ」

そう言って見た腕時計の針は、10時半になろうとしていた。

「夜勤の方が、時給いいっすからねぇ」

照れた様に、そしてまた苦々しく笑う健太に 大地が言った。

「急いでるとこ 引き止めちゃって、悪かったね。兄貴にも宜しく言っといて」

そう言って その場を去ろうとした時、背後で健太が大声を上げた。

「そうだ!そういえば・・・数か月前かな・・・。『木村さんを探してる』って女の人から電話がありました」

思わず立ち止まって、振り返る大地。

「そういえば・・・名前聞かなかったけど・・・昔の知り合いとか何とか。何だか、木村さんがメキシコに行ってる間に連絡が取れなくなったとかで、結構切羽詰まった声をしてて・・・。木村さんの後に、ここのアパートに僕が入った事とかも知ってて、だから・・・本当に知り合いの人かなと思って、僕 北海道の電話教えちゃいました。連絡・・・行きました?」

大地が一瞬上の空になり 返事がないと、途端に健太の顔が不安で曇り始める。

「あれ?教えちゃ・・・ヤバかったですか?・・・いたずらだったのかな・・・。いや・・・でも本当に真剣にあの人『探してるんです!』って・・・」

また頭を掻きながら首を傾げる健太の肩を、大地がポンポンと叩いた。

「ああ!連絡来たよ。電話教えてもらって助かったよ。ありがとう」

そう笑う大地の頭の中では、数か月前 北海道の実家に電話をしてきた沙希の声が再生されていた。あの時、てっきり由美姉から番号を聞いたものとばかり思い込んでいた大地に、この真実は かなりの衝撃を与えた。

  

 そしていつの間にか辿り着いたのは、駅の反対側にある 昔よく来た小さな喫茶店だった。カランコロンとドアベルが懐かしく響く。閉店間近の店内は がらんとしていて、カウンターに二人程 一つ席を置いて それぞれ座っているだけで、テーブルはどこも空いていた。大地が選んだのは・・・やはり沙希との いつもの席だった。初めて沙希を この店に連れてきた時も、たまたまこのテーブルだった。一度しか会った事のない自分に会いに ビデオ屋にひょっこり現れ、休憩時間にここでコーヒーを飲みながら 初めて二人きりで過ごした時間。一度別れた後で『もう一度やり直したい』と 唇を震わせながら沙希が言ったのも、このテーブルだった。そして、メキシコ行きを伝えたのも・・・。昔の様に黒いエプロンをした奥さんが運んできたコーヒーに口をつけた時、携帯が震え 千梨子からの着信を伝えた。

「ごめんね、電話したりして・・・。仕事中だった?」

「・・・あぁ」

「まだ・・・かかりそう?」

「今日は遅くなりそうだから・・・帰っていいよ」

「いいよ、待ってる」

「お父さん達心配するから・・・今日は帰りなさい」

ここ最近、大地が仕事で東京に来る時は、ウィークリーマンションを借りる事にしていた。ビジネスホテルも連泊すると やはり金額は馬鹿にならず、一週間位の滞在には ウィークリーマンションが都合が良かった。その為千梨子も、大地よりも早く部屋で待っている事も出来る様になり、そして必要な時は夕食を作って帰りを待った。大地が来ている間は、千梨子は自宅に戻る事はなく、ほんの束の間の同棲生活を、千梨子は何よりも楽しみにしていた。

「大丈夫。妹の所に泊まるって事になってるから」

「それにしたって毎回じゃ、お父さんだって勘付いてるよ。今日は・・・帰りなさい」

まるで だだっ子に親が諭す様な言い方だった。

「明日は絶対会えるよね?」

「大丈夫だから。・・・また連絡するよ」

電話を終えて、コーヒーをまた一口飲んだ。これが、千梨子に対してつく初めての嘘だった。

(俺は一体何をしてるんだ・・・)

大地は理由の付かない自分の行動に、頭を抱えていた。明らかに冷静でない自分がいて、もっともらしい顔をして千梨子に『お父さんが心配するから』と言えてしまう自らの醜さに首をうなだれた。

 その晩大地は、借りてきた“Silk of life”のビデオを観て、眠りについた。


 みのりの出産予定日から5日が過ぎた日の朝、純平から電話が入る。夜中に陣痛が10分間隔になり、いよいよ病院に入院したという。その連絡を受け、父はそわそわ落ち着かない様子なのに対し、母は『初産だからまだまだ時間が掛かるわ』とにこやかだった。沙希にとっても初めて身近な出産で、父と同様ソワソワドキドキが止まらずにいた。

「午前中、純平がどうしても行かなきゃならない仕事があるんですって。だから みのりさんも心細いだろうし、お母さんはこれから行ってくるから」

「私・・・行かなくていいの?」

母はその言葉を、いとも軽く笑い飛ばした。

「沙希行って、何するのよ」

『それもそうだ』と思いながらも、いじけた様な顔になる沙希に母が言った。

「生まれたら、ちゃんと連絡入れるから」

 そして その夜、サロンも閉店の準備に取り掛かろうとした時、沙希に待ちかねていたメールが入る。『午後7時32分、無事元気な女の子が生まれた』という知らせだった。

 

 次の日、仕事の後で 沙希は母と一緒に、みのりと その生まれたばかりの小さな命を見に病院へ行った。

「みのりさん、おめでとう」

「ありがとう。もう、見てくれた?」

「うん、さっき。ここ来る前、真っ先に新生児室覗いてきちゃった。小っちゃいね~!」

昨日お産を済ませたばかりとは思えない程、顔色も良く元気そうなみのりに母が言った。

「ごめんね。こんな面会時間外に来ちゃって。この子がどうしても行きたいってうるさいから・・・。すぐ帰るから、ゆっくり休んでね」

にこやかに頷くみのりの顔が、どことなく逞しく それでいて温かい母の顔つきになった様に沙希の目には映っていた。


 次の日いつもの様にサロンの中で忙しく動き回っていると、電話を取った桜田が沙希を呼んだ。

「花杉様とおっしゃる方が河野さんにって。何かコースの事で聞きたい事があるとか・・・」

「花杉・・・様?」

珍しい名前なのに まるで聞き覚えのない名前に、内心ドキドキしながら電話に出る。先日の沙希にとっては名前も知らない南沢ユキという女からの突然の電話以来、こういう事に必要以上に敏感になっていた。どことなく張りつめた声で電話に出ると、相手の女性がすぐさま謝る。

「すみません、お忙しいところ。あの・・・私、木村さんからの紹介というか・・・こちらの事伺ったんですが・・・」

“木村”の文字に体が素早く反応し、思わず桜田に背を向けた。

「今キャンペーン中だとか・・・」

結局その花杉と名乗る ビデオ屋の店長の奥様は、翌日の午後1時にボディの体験コースの予約を入れた。


 “劇的な”というべきか“意外な”というべきか、正に4年ぶりの再会を果たした後だけに、沙希は少々気まずい思いを抱え、電話を持つ手が重かった。しかし今日こそは 全うな“電話をかける口実”があった。いつもの通り、最初はまず 大地の母親が電話に出た。また『大野』と『河野』を間違えられるんじゃないかとハラハラしながら、心持ちゆっくりと 滑舌良く『河野です』と名乗ってみる。しかし その努力の甲斐なく、母親はいつもの様に明るい反応を返してきた。

「千梨子さん?この間は 立派なお土産どうもありがとうね。大地が戻って早速に貰ったんだけどもね、なんだかあんな綺麗なブラウス いつ着ようかってワクワクしちまって・・・大事にタンスにしまってあるんだべさ」

今日こそは もし間違えられても『河野と申します』ともう一度言い返すつもりでいたのに、やはり出来なかった。また勘違いをしたまま 大地が電話に出ると、沙希も こんな事何回目だろうと思いながら、名前を告げた。

「あっ・・・」

すぐさま聞こえてきた大地のこの台詞は、一体何を意味していたのか。真っ先に、この間横浜で会ってしまった事を思い出していたのか、それとも・・・『またお前か』という招かれざる客と沙希を思ったのか。沙希はその真相を知るのが怖くて、早口に用件を伝えた。

「この間、花杉さんって方から サロンに電話があって・・・。口きいてくれたって・・・。どうもありがとう」

「あ・・・連絡行ったんだ。良かった・・・。で、どうなった?」

「お陰様で・・・コース通われる事になりました」

大地との間に 少し距離を置くかの様に、沙希は心持ち“チーフ”に変身していた。しかし大地は 普段と何ら変わりなく喜んだ。

「良かったな。いや、たまたま8月までに痩せたいって言ってるって聞いたからさ」

「ほんと、ありがとうございました」

その沙希の異変に気が付いた大地が、思わず息を呑んだ。再び嫌な空気が流れそうになった途端、それを阻止する様に明るく大地が声を上げた。

「ほら、新丸子の俺が昔バイトしてたビデオ屋。あそこの店長の奥さんなんだよ」

「うん・・・」

「あ、知ってた?この間 チラッと寄ったらさ、そんな話で」

沙希の心に“新丸子のビデオ屋”が引っかかった。

「たまに・・・行くの?」

「昔散々世話になったからなぁ。時間があれば行く様にしてる。・・・あ、そういえば沙希、あそこでビデオ借りたって?」

ドキンとした。『まさか』『何故?』大地にその事実が知れている事に、沙希はこの二言を繰り返し 頭の中で呟くのだった。

「・・・あぁ、あれ?たまたま近く行ってね。お店の前通ったら なんか懐かしくて、思わず入ってみちゃった」

その言い訳を聞きながら、大地は先日の健太の言葉を思い出していた。沈黙の波が押し寄せる一歩手前で、大地が口を開いた。

「俺もこの間“シルク オブ ライフ”観たんだ」

「・・・懐かしいね」

苦し紛れに発した言葉は、たったこれだけだった。自然と二人はシルク オブ ライフの試写会に行った遠い夏の日を思い出していた。そんな過去の甘酸っぱい思い出にまったりと浸っていくのに歯止めをかける様に、大地の声が響く。

「あれがビデオ化されてから、俺が店長に一押ししたんだ。入れた方がいいって。そしたらやっぱり当たりだったって、前言われたよ。やっぱ女性の方が借りる人多いみたいだけどね」

大地も(こんな話どうでもいいのに)と思いながら話し、沙希もそれを何となく聞き流していた。会話が弾む訳でもなく、切るでもなく、お互いにどうにもならない時間が立ち込めてくると、大地がやはり 気になっていた話題に触れてくる。

「この間・・・びっくりしたよ。沙希は・・・知ってたの?」

「ううん、まさか!」

思わず こう口走っていた。

「あんな風に会うとは・・・思ってもなくて。度肝抜かれたよ」

電話の向こうから、大地の少し笑う声が こちらに届く。

「ごめんね、『初めまして』なんて。でも・・・どう言っていいか分かんなくって・・・」

「そうだな、俺も・・・」

沙希はわざとトーンを上げて喋った。

「彼女にも・・・話してないでしょ?大丈夫だった?勘づかれたり・・・してないよね?」

「あぁ、平気」

当然の返答でありながら、何故か沙希には淋しく響いた。再びスムーズに流れない二人の会話が途切れると、苦し紛れに話題を探してくる様に 大地が口を開く。

「あん時、途中で取った電話、大丈夫だったの?何か・・・ちょっと・・・様子がおかしかった様に見えて・・・さ」

「・・・そう?全然大丈夫」

あっけらかんと言い放つ沙希の表情は、その言葉とは裏腹に 重く暗いものだった。

「なら、いいんだ。・・・彼氏とは・・・順調?」

全く一貫性のない二人のやり取りは、まるでショートストーリーを数珠繋ぎにまとめた、完成度の低い小説の様だった。

「うん・・・まぁ・・・ね」

沙希は、別れた事を大地には打ち明けなかった。


「どうして言わなかったのよぉ」

サンフランシスコからの国際電話だった。もちろん電話の主は京子で、今年もまた 沙希の27回目の誕生日を祝う内容で、ここ数年京子からのバースデーコールは恒例になりつつあった。そして『最近どうなの?』という沙希を心配した京子の一言から、話は始まっていた。

「だって『別れた』って言っちゃったら、大地に電話しづらくなっちゃうじゃない。『俺の事まだ引きずってんのかな?』とかって、下心あるんじゃないかって警戒されたら、私 話しづらくなるもん。今のまんま、私には彼氏がいて、大地には 懐かしい友達のとこにかけるみたいに電話してるっていう方が・・・楽なんだもん」

すると長い付き合いだけあってか、鋭い京子の指摘が飛ぶ。

「駆け引きするなんて・・・なんか・・・沙希らしくないよね」

そして、とどめを刺した。

「最近の沙希・・・ちょっと・・・屈折してるよね。どうしちゃったの?」

暫く考え込んだ後で、ようやく沙希の口が動いた。

「京子には分かんないかもね。愛する人と結婚して、かけがえのない宝物 二人の子供にも恵まれて、嫁姑の問題もなく、サンフランシスコの太陽の下で幸せいっぱいで暮らしてる京子には・・・私の惨めさなんて想像も出来ないでしょ?私だって この年になって、こんな思いするとは思ってもなかった。こんなに世の中に沢山の男の人がいるのにさ、誰一人として私の事を女として必要としてないんだよ。分かる?この気持ち。皆はどんどん どんどん前に進んでっちゃってさ、私は下りのエスカレーターに乗りながら 皆の乗る上りのエスカレーターを 指をくわえて眺めてる、無力な一人のちっぽけな存在。仕事に逃げられる程順調じゃないし。かえってストレス溜まる位」

愚痴っぽく、そして どこか突っかかる様な物言いにも、京子は腹も立てずに穏やかに相手をした。

「今の沙希を元気にしてやれるのって・・・結局は木村さんだけって事だね。誰でもいいから優しくして欲しいんじゃない。木村さんと同じ位置に立って、同じ未来を見ながら手を握りしめ合えたら・・・沙希、何も言う事ないんでしょう?それにはまず、沙希がアクションを起こさなきゃ」

京子の言葉には重みがあった。しかし沙希は、少し口を尖らせた。

「それが出来たら、今頃こんな事言ってないよ・・・」

すると京子が、思いがけない話を始めた。

「こっちってさぁ、大っきな太陽が眩しくて、真っ青な海が陽の光に照らされてキラキラ反射して、その上を渡ってく風も清々しくて、緑も多くてのびのびとしてて・・・って思うでしょ?確かにそうなんだけどさ、前 こんな素敵な景色が一つも目に入って来ない時があったんだ。雨でも曇りでもなく 抜ける様な快晴なのに、私の目には一つもキラキラが映んなくって・・・」

思わず沙希は、部屋に飾ってある大きな油絵に視線を移した。これは大地がメキシコに居た時に、ルームメイトのジルナに描いてもらったという真っ赤な夕日の絵だった。4年前に一度は外したものの、また最近引っぱり出して来ていたのだった。京子の言う通り、今の沙希にも そのキャンバスに堂々と描かれた夕日は死んで見えた。4年前には 確かにこの絵から 情熱や温もりや壮大さ、そして輝かしい未来までも感じ取る事が出来た筈なのに、今の沙希には何一つとして響いてはこなかった。そして、京子の話は続いた。

「自然は何も変わらないんだよね。太陽はいつも私達を分け隔てなく明るく照らしてくれるし、温めてくれる。雨は私達の火照った体を冷やしてくれるし、乾いた体を潤してくれる。風は遠くの音や香りさえも運んでくれる。・・・数え上げたらきりがないけど、この私達の住んでる地球上に存在する大自然に足りない物なんてないんだよ。足りないのは、いっつも自分の心なんだよね。おかしい位、全部映って返ってくる。鏡みたいだよ。子供もね、同じなの。私がイライラするとね 子供もイライラするし、私が結構のびのびしてると 子供も同じ様に・・・」

結局京子は、何があったかは言わなかった。しかし沙希には、それでもう充分に伝わっていた。


 大地らと四人で食事に行って以来、初めての千梨子との再会。久し振りのサロンの予約であった。いつもの様に沙希を指名しての予約で、心を重たくする沙希だった。

「この間は、途中でごめんなさいね」

その話題は出来るだけしないでおきたかったが、千梨子が開口一番『この間はどうも』と言ってきた事で、そうもいかなくなってしまったのだ。

「彼、どうでした?でも・・・あんまり喋らなかったから、いまいち分からなかったかな・・・」

「いえ・・・優しそうな人ですね」

そう言ったらまた、照れた様な笑顔で話すのろけを聞かなくてはいけなくなるのを、内心恐れていた。しかし今日はちょっと違っていた。

「ちょっと・・・聞いてもらえますか?今まで 彼がこっちに居る間は、彼の泊まってる部屋に私も一緒に泊まってたんです。一週間とか、三日とか・・・ずっと、居る間は。でもこの間から 急に・・・『お家に帰りなさい』とかって言い出して・・・」

千梨子の少々心細そうな声色が、沙希の耳には心地良く届いた。

「お家の方の事、心配されたんじゃないかしら・・・?」

「家には『妹の所に暫く泊まる』って言ってあるし、それに私達もう 親に『結婚を前提に付き合ってる』って紹介してるのに、彼は『お父さん達心配するから』って。何で、ずっと一緒に居たいって分かってくれないんだろう」

そんな千梨子の話から、沙希も昔大地の部屋でした言い合いを思い出していた。『帰りたくない』と甘えて 駄々をこねた沙希に、『帰りなさい』と促した大地。『目先の欲求じゃなく、もっと先にある大きなものを大切にしたい』と言っていた大地。あの時は理解に苦しんだが、もしかしたら あの時から大地は、自分との将来を漠然とでも考えてくれていたのかもしれない。そんな都合の良い自分勝手な妄想が 沙希の頭に蔓延した時、思わずこう口走っていた。

「そういう人なのよね・・・」

「えっ?!」

千梨子の声で我に返り、自分の耳を疑った。自分の口にした言葉とは・・・。慌てて言葉を付け足した。

「私の昔付き合ってた人も・・・そんな事言ってた」

この理由が相応しかったかどうかは定かではない。しかし 気の利いた言い訳が思い浮かばず、あと一歩で時限爆弾を踏みそうな そんな台詞が飛び出していた。

「だから・・・何となく分かる様な気が・・・します。その彼の・・・いい分も」

「そうですかぁ?でも・・・何か最近変なんですよね・・・。この間『今日仕事で遅くなるから帰りなさい』って言ってた次の日、仕事終わって部屋行ったら、何か・・・ビデオ借りてきて見た跡があって・・・。いや別に普通の映画のビデオなんですけどね。何か・・・ちょっと、引っかかるっていうか・・・。映画だったら 私と一緒に観たって良かったのに・・・って。一個こういう事があると、私どんどん不安になっちゃって、駄目なんです。河野さんは、この間会った時、何も感じませんでした?彼が私と居て 気が休まらない・・・とか・・・別に女の人がいそう・・・とか」

「そんな風には・・・何も・・・」

『大丈夫ですよ。彼を信じてあげて』とか『彼は浮気なんてするタイプには見えませんでしたよ。安心して』とか、様々な言葉が浮かんで喉元まで出かかって、それを飲み込んだ。


 産後 千葉の実家に赤ちゃんを連れ 里帰りしていたみのりが、一ヵ月もしない内に横浜に戻ってきた。予定では、千葉の実家で 生後一か月のお宮参りを済ませてから帰宅する筈だったが、母方の90歳になる祖母が風邪で入院したという知らせを受け、みのりの母はバタバタと準備をし 岩手の北上へと発ってしまった。そこに居ても仕方がないと自宅へ帰る途中で、河野家へ立ち寄ってくれたのだった。

「おっぱい、いっぱい飲んでくれる?」

みのりの腕に抱かれていた小さな小さな星夏ちゃんを 母は我が腕に受け取ると、笑顔で覗き込みながら みのりにそう聞いた。

「私もやっと、ちゃんとおっぱいが出る様になってきて、星夏もよく飲んでくれる様になりました」

「みのりさんも もう少しゆっくり体を休めた方がいいでしょう?お宮参り位まで、もし良かったら うちに居たら?」

車で送ってきた純平が すかさず返した。

「だって仕事あんだろ?おふくろ」

ふにゃふにゃ泣き出した星夏を 立ち上がって揺らしながら、母が言った。

「お休み貰うから大丈夫よ。お母さんは、仕事よりも今は みのりさんやこの子の方が大事なのよ」

「でも・・・それじゃ、申し訳ないです」

すっかり恐縮したみのりが、母と純平を交互に見た。すると母が、

「姑と一緒じゃ、かえって気も休まらないかな?」

突然の提案で、純平もみのりの様子を窺う。そして二人は目で会話をすると、純平が母に頭を下げた。

「じゃ、暫く世話になります。宜しくお願いします」


 その日から沙希にとっては新鮮な一週間が始まった。家の中に母以外の女性が居る生活。そして赤ちゃんのいる生活。全てが沙希には刺激となった。久し振りに見る、母のいきいきとした笑顔。そして 夜中に向かいの兄の部屋からかすかに漏れてくる赤ちゃんの泣き声。

ある晩、沙希が仕事から戻ると、リビングで母とみのりの話声が聞こえ ドアを入る。

「お帰りなさい。お疲れ様」

二人に声を揃えてそう迎えられ、少し照れ臭い気持ちで中に入ると、星夏はベビーラックに揺られ 起きていた。

「あっ!目開いてるね」

すると母が言った。

「今機嫌がいいから、抱っこさせてもらったら?沙希だって慣れとかないとね。いずれはきっと自分の番が来るんでしょうから」

「何だか、壊れちゃいそうで怖いね・・・」

そう言いながら、慣れない手つきで星夏を腕に抱いて暫くすると、沙希の中でじわじわと温かい気持ちが湧き上がってくるのを感じた。これが母性本能なのかなと おぼろげにそう思っていると、星夏はうつらうつらと瞼を閉じ始めた。暫くそのまま穏やかな時が流れた頃、みのりが言った。

「赤ちゃんって熱いでしょ?もう置いてもいいよ」

しかし沙希は、優しく首を横に振った。

「もう少し、このまま抱っこしててもいい?」

みのりの目が 無言で『もちろん』と物語ると、再び沙希は無意識のうちに揺らし始めていた。

「かわいくって手放したくなくなっちゃうね」

「そりゃ他人はね。良い時だけ相手するから そう思うのよ」

母が言った。

「子供は夜中でも何でもお構いなしに お腹が空けば泣くし、おむつが汚れてても泣くし、淋しければ泣くし。一日中一緒に居て、身を削る様にして子供を育てるって、本当大変なんだから。・・・ね、みのりさん?」

すっかり嫁姑同盟を組んでしまった様な母の口ぶりに、みのりも笑顔で答えた。すると星夏が、もぞもぞ手足を動かし泣き声を上げ始めた。

「ほらほら」

面白がる様に母が言うと、沙希も ああ言われてしまった手前、必死で揺らしてみたり 背中をトントン叩いたりして あやしてみせる。しかし一向に泣き止まないばかりか、どんどん泣き声は激しさを増していって、とうとう沙希が持て余し出したのを見計らって、みのりが手を差し出した。

「ありがとう。重かったでしょう?」

少々自信を失った顔つきで、沙希はみのりに言った。

「やっぱり私んとこじゃ、居心地悪かったのかなぁ・・・」

するとみのりは、優しく目を細めた。

「ううん。そろそろおっぱいの時間なの」

そしてみのりはその場でモゾモゾとおっぱいの準備をし、泣いている星夏にくわえさせた。途端に静かになり、必死におっぱいに吸いつく生命力に 沙希は不思議なものを感じ取っていた。

「凄いね。こうやって欲しい物を手に入れていくんだね」

「ほんと。誰が教えた訳でもないのに、自己主張するんだものね」

みのりもそれに賛同した。

「大人になると、変に我慢したり・・・理性で抑えたりするからね。でもどうなんだろう。色んな事我慢できる人だけが“大人”って言うのかなぁ・・・?」

目をつぶって おっぱいを飲むのに集中している星夏をじっと見ながら、みのりが呟いた。

「自己主張と理性と・・・バランスが上手く保てる人が“大人”なんじゃないかしら・・・?私なりにはそう思うけど・・・なかなか難しいわよね」

みのりは笑ってみせたが、沙希にはこの言葉は 重く腹の底にずしりと届いた。


 ある晩大地は、北海道の小樽から 川崎の由美姉のアパートに電話を掛けていた。たまに取り合う連絡だけで十年近く繋がってきた二人だけに、余計な挨拶は必要なかった。

「お前ってさ・・・エステとかって・・・行くっけ?」

「どうしたの?急に」

「・・・・・・ほら・・・沙希ん所のエステがさ、今キャンペーン中らしいんだよ。だから・・・」

由美姉の声の調子が少々変わる。

「沙希ちゃんと・・・連絡取ってるの?」

その言い方に、大地までが立ち止まった。

「たまたまだよ。・・・偶然・・・電話で話して・・・」

この言い訳が矛盾している事に、大地はこの時気がついてはいなかった。

「・・・会ったの?」

笑顔のない厳しい由美姉の言い方に、大地までもが思わず嘘をつく。

「いや・・・会っては・・・いない」

返事のない由美姉が、大地を焦らせる。

「いや・・・実はさ、沙希のエステも最近は業績が落ちてきてて、あいつ自身も営業とかしてるらしいんだよ。でもあんまり結果がすぐに出ないって、ちょっと焦ってたんだよ。んで、俺んとこに『もし そういう人がいたら』って電話が掛かってきて・・・さ。だから・・・そういえば、お前はどうかなって・・・思い出してやった訳よ」

冗談まじりの語尾も、由美姉の見えない鉄のヴェールの前では 無惨にもほろほろと砕け散った。

「大地さ、あんた 私に電話してくる位だから、片っ端から女の子の知り合い 声掛けて回ってんでしょ?」

大地は黙ってしまった。受話器の向こうから 無言の返事を受け取ると、由美姉が少々感情的な声を出す。

「大地、あんた 何やってんのよ。・・・彼女は知らないんでしょ?この事」

「知らないけど・・・別に隠してる訳じゃなくて、ただ・・・言うと 余計な心配するし、離れてる分 不安が大きくなるかと思ってさ」

少しの間を空けて、由美姉が今度は淡々と話した。

「大地・・・。あんた、沙希ちゃんには会っちゃダメだよ」

大地の胸に、直球に飛び込んだ。

「あんたさ、あん時 あれだけの想い断ち切って、前に進むって決めたんでしょ?あんたにはもう 千梨子ちゃんっていう彼女がいるんだし、もう あの時とは違うんだよ。後戻りできないとこまで来てるんだよ。それ ちゃんと自覚しなきゃ。・・・どうしちゃったの?」

「そんな事・・・言われなくたって、分かってるって。心配すんな」


 月末のある晩、サロンの営業時間終了後、店長の青山に呼ばれ 行ってみると、何枚かの数字の並んだ紙が 沙希の前に差し出される。

「これ、昨日付の今月の集計。沙希ちゃん、営業頑張ってくれたわね。そのお陰で、少し上向きになったわ。もちろん、まだまだ取り戻せないけど、今月の新規の方の見込み分も入れたら、少しは将来明るいわね。沙希ちゃんの紹介だけで 今月は・・・五人 繋がったものね。凄いじゃない」


 その晩、沙希は再び大地に電話を掛けていた。知人を二人もサロンに紹介してくれたお礼と報告を兼ねて。しかし本心は それ以外のところにあった・・・。

「あっ千梨子さん?そっちは暑いべさ?また夏休みにでも、こっち・・・」

またいつもの様に勘違いをしたまま 会話を進める母の言葉を、沙希は勇気を出して遮った。

「河野と申します。・・・コウノ・・・です」

慌てた母が、困ってか恥ずかしがってか 早々に大地を呼びに行ってしまった。

「もしもし・・・?」

いつになく元気のない大地の第一声に、沙希は一瞬たじろぎそうになるが、ひとまず足早に用件を伝えた。

「ありがとう。二人も紹介してもらっちゃって・・・。お陰で少しは 数字・・・上がったんだ」

しかし 前回の様に手放しで喜んでくれない大地に、沙希は淋しさで涙が込み上げてきそうになる。それでも沙希は、明るく続けるしかなかった。

「心配してもらっちゃってるかと思って・・・とりあえず報告」

「あぁ・・・わざわざ・・・ありがとう」

沙希が話さなければ そのまま終わってしまいそうな雰囲気に すっかり心を倒していた。その時、向かいの部屋のドアを通して、星夏の泣き声が 沙希の耳に飛び込んできた。それと同時に、反射的に体が反応し、沸々と熱い何かが込み上がってきてしまった。暫く音のない世界に包まれたところで、沙希が口をゆっくりと開いた。

「・・・会いたい・・・」

しかし 何の返事もなく、沙希はもう少し強い口調で繰り返した。

「会いたいよ・・・」

やはり すぐに返答は無く、それに期待をしていいのか、それとも 絶望的な言葉で撃沈されてしまうのか、沙希の天秤は不安定に揺れていた。もし万が一迷っているなら、もう一押し 自分の感情をぶつけてみようと深呼吸をしかけた時、受話器から 何やらボソッと声がした。

「・・・無理だよ・・・」

「どうして?!」

理由など聞くまでもない筈なのに、沙希は星夏の泣き声と共に エスカレートしていった。

「私、そっちまで行くから」

しかし 沙希の想いは、遠く北海道の大地まで届かずに沈んだ。

「沙希・・・。俺達、もう それぞれの人生・・・歩き始めてるんだよ・・・」

そんな事 あらためて言われなくても充分分かっている筈の事実を 大地に冷たく告げられ、沙希はどうにもならない想いを持て余し、葛藤を続けていた。

「分かってるよ。そんな事、分かってる・・・。だけど・・・お願い。一回でいいから・・・一回だけでいいから・・・二人で会って欲しい」

「・・・・・・」

「じゃないと私・・・消化不良のまんま、喉に魚の小骨が引っかかってるみたいで・・・前に進めないんだよね・・・」

それでも大地の声は、聞こえてはこない。

「わかった。じゃ私、勝手にそっち行くから。会ってもらえるまで・・・待ってるよ」

「そんな・・・」

ようやく大地の声がした。

「それじゃお前、仕事どうすんだよ?」

「お休み取るから」

沙希は自分でもびっくりする程、あっさりと言ってのけた。

「今なら、店長と桜田さん・・・千梨子さんの妹さん・・・だけで 充分回せるし・・・。丁度良かったの。ゆっくりお休みも取りたいと思ってたから。だから気にしないで。会ってくれる気になるまで・・・待ってるから」

「・・・やめよう、そんなの 沙希」

沙希は食い下がった。

「やめないよ。・・・ごめん。・・・やめられないの・・・」

押して引いての綱引きの様な状態が暫く続き、無言の小康状態に入ると、沙希が再びゆっくり綱を引いた。

「どうして会えないのか・・・教えて。千梨子さんがいるから?それとも・・・私にはもう・・・会いたくもなければ声も聞きたくない?」

電話の向こうから、静かな息づかいが聞こえてくる。

「そりゃ・・・俺にはもう・・・彼女がいるし、沙希にだって・・・彼氏が・・・」

「私の事なんて関係ない!ごまかさないで・・・」

食ってかかる沙希に、大地も素直に折れた。

「そうだな・・・。俺は・・・もう昔には戻れないんだよ」

そして沙希は、大きく深呼吸をを一つする。

「わかった・・・」

同時に大地がふうっと息を吐いた時、沙希の言葉は続いた。

「それでもいいから・・・会って欲しい。一回だけでいいから・・・」


 大地が指定した場所は、小樽運河のガス灯が揺らめく 歩道に近い、ある倉庫の脇だった。何故こんな場所を選んだかというと・・・大地のせめてもの精一杯の誠意だった。千梨子に対しても、沙希に対しても・・・。小樽の土地勘のない沙希に 市街地以外の場所は難しく、だからと言って、観光名所は 以前千梨子を案内した事があったからだった。

 待ち合わせの場所には、沙希の方が早く到着していた。約束の時間から5分程過ぎた時、大地が姿を現した。

「来てくれて・・・ありがとう」

大地は声も出さず、こくりと頭を動かした。

「ご飯は?もう済んだ?」

明るくそう話す沙希の口元は かすかに震えてひきつっていた。

「どっか食べに行く?それとも・・・飲みに行こっか?」

さっきから俯き気味に 一言も話さない大地が、静かに首を横に振った。

「そっか・・・」

気付かれない様に下を向いて、沙希は下唇を軽く噛んだ。

「とりあえず・・・話・・・」

ようやく喋った大地の言葉は、先を急ぐようなニュアンスで、それも沙希の胸を一層絞めつけていた。しかし そう言われたものの、一体何から話し始めていいのか分からずにいると、遠くで汽笛の音がした。

「昔 横浜でも こんな風に汽笛が聞こえてきた事あったよね?・・・覚えてる?」

返事がなくても仕方がないと 半ば諦めていると、大地が口を開いた。

「あったな・・・。臨港パークで・・・沙希の誕生日のお祝いした後」

そう話す大地の顔を 思わず嬉しくて見上げると、大地は一点を見つめたまま 又続けた。

「22歳の誕生日だったな・・・。俺がメキシコ行く前・・・」

「うん・・・」

横浜港から聞こえてきた汽笛など、あんな小さな出来事まではっきりと覚えていてくれた事実に、沙希は胸が詰まり 相槌を打つのが精一杯だった。

「五年前か・・・。あれから五年しか経ってないのか・・・。何だか随分昔の事みたいだな」

それは一体どういう意味なのか 探る様に、また大地の顔を見た。

「この間で27歳になったんだろ?・・・いい誕生日迎えられた?」

沙希は力なく笑ってみせた。

「京子って・・・覚えてるかな?サンフランシスコに国際結婚して住んでる幼なじみ。あの子から、おめでとうコール貰った。ここ毎年、掛けてきてくれるのよね。・・・その位かな?あとは普通に仕事してた」

「・・・彼氏は・・・?」

沙希は口元を緩めたまま、首を横に振った。

「別れたの・・・。まぁもともと、もうダメかなって思ってたから・・・。それにね、居た時から 今と何ら変わらない生活だったから、別に・・・何ともないっていうか・・・」

言えば言う程不自然になるのを感じ、沙希は口を閉じた。

 今となっては、二人は“会話のないのが気にならない関係”でも“それがかえって心地良い関係”でもなくなっていて、手持無沙汰を紛らわす様に 大地が煙草を一本取り出し、火を点けた。ふと見ると、大地の手にしていたライターは 以前沙希が初めてのバイトのお給料でプレゼントしたジッポーではなかった。もっと洗練されたスリムなデザインのシルバーのターボライターだった。手元に視線を感じ、慌ててそれを握りしめ ポケットにしまい込んだ。

「それって強風でも火が消えないってヤツ?」

少々挙動不審な大地に絶望感を抱きながら、沙希は明るく続けた。

「友達がね『欲しいんだ』って言ってた。やっぱり便利?」

何やらはっきりしない大地に、手を差し出す。

「ちょっと・・・見せて」

出した手を半分後悔しながら待っていると、大地も躊躇しながら、そっとライターを沙希の手に乗せた。

「へぇ、こんなに細くて軽いんだぁ。これなら男の人、ポケットに入れてても気にならないね」

沙希にとってはどうでもいい事だったが、一応手にした手前、持った感触を味わったりしてみせる。その時、ライターをひっくり返した途端 目に飛び込んできた“Taichi”の文字。ローマ字の筆記体で彫られたネームに、沙希は決定的な衝撃を覚えた。

「プレゼント?」

さすがに大地の顔を見る事は出来なかったが、大地がかすかに頷いたのを空気で感じ取った。とっさに『良かったね』とか『ラブラブだね』と言いそうになって 思い留まる。今更無理をする事はないんだと・・・。

「時計・・・も?」

再び 視界の外で大地がこくりと頭を揺らした後、慌てて付け足す様に言った。

「沙希から貰った時計、ずっとずっと大事に使ってたんだ。だけど去年・・・ちょっとぶつけた拍子に、ガラスが割れて壊れちゃったんだ」

「・・・ありがと・・・」

少し惨めな気持ちになる沙希だった。

「千梨子さんとは・・・どうして結婚しようと思ったの?」

何故そんな事を聞いてくるのか、大地は眉毛を上げて そして最後に目を伏せた。

「・・・いい子だなって・・・」

「それだけ?」

一瞬だけ大地の顔を見ると、大地は苦しそうな表情を浮かべていた。

「家庭的だし・・・尽くしても・・・くれる」

そこで沙希が言葉を遮った。

「わかった、わかった。もういいよ。・・・ごめん」

自分から聞いておきながら、自分自身の許容範囲を超えてしまうなんて、なんて馬鹿なんだろうと 沙希は後悔していた。

「私ね・・・」

何とか話が出来る様に落ち着いてから、静まり返る暗闇をゆっくりと裂いた。

「メキシコと日本で離れてる間、ずっとずっと淋しくて不安で・・・。私だって今の千梨子さんみたいに、素直になりたかった・・・」

苦い顔の大地。

「本当はあの頃、仕事だってすっごく辛かったし、何度『傍に居てくれたら』って思った。でも 大地も知らない土地で一人頑張ってるんだから私も負けちゃいけないって 必死で言い聞かせてきたけど・・・やっぱり無理だったよ。ただ一年間私を支えてきたのは『大きくなって帰って来た大地に見合う自分になってたい』って、ただそれだけだった」

大地はじっと目をつぶったまま、下を俯いて聞いていた。

「遠距離になって、今まで見えてなかった自分の嫌な部分も沢山見えてきて、どんどんどんどん自分嫌いになって 自信もなくなって。だからあの日・・・7月7日の日、大地に会うのが本当はすっごく怖かった・・・」

微動だにしない大地に、ただ沙希は語り続けた。

「でもね、あの日大地が別れ際に『五年後十年後に笑顔で会えたらいいね』って言ってくれた言葉、馬鹿みたいに本気にして、ずっとここに大事にしまってた」

そう言いながら、沙希は軽く拳で胸を叩いた。

「だけど気がついたら、大地と別れてからの この4年は、ただ時間の波に流されて 何となく仕事をこなしてる毎日で、自分自身がすっかり干上がって枯れちゃってて・・・。大地に胸張って会える様な状態じゃなかった。もちろん今だって そのスランプから脱した訳じゃないけど、今自分がしなくちゃいけない事だけは分かったから」

そう話すと、沙希はすっと右手を差し出した。

「私、あの時からずっと前に進めないでいるの」

“あの時”とは四年前に夜の成田空港を眺めながら別れ話をした“あの時”だと、大地も暗黙の内に感じ取った。大地が 下で右手の拳を強く握った事が、大地の中の深い葛藤を物語っていた。差し出された沙希の右手が 僅かにピクピクと震え始めた頃、ゆっくりと大地の手と重なり合った。軽く握手が交わされた瞬間、沙希の頬をひと雫の涙が つたい落ちた。

「ありがとう・・・」

沙希の口元は笑っていたが、ぷるぷると筋肉が震えて 唇と頬を揺らしていた。大地の手からはとても温かい 血の通った温もりが、まるで沙希の手の平の皮膚が深呼吸でもしてる様に、じわりじわりと染み込んでいった。

 ようやく大地が頭を上げ 沙希の顔を見ようとした時、沙希は繋いだその手に力を込め、体を引き寄せると 大地の胸に飛び込んでいった。

「私、本当はあの時、こうしたかった・・・」

胸にうずめた顔からは 大地の鼓動を感じ、背中に回した手からは Tシャツに含んだ汗を感じ取っていた。そして心では、どうかぎゅっと抱きしめて欲しいと願った。しかし、戸惑っているのか拒絶しているのか、大地からは何の反応もないまま 時だけが風と共に通り過ぎて行くのだった。それでも沙希は、ただ黙ってこの時間を大事に噛みしめていると、ゆっくりと大地の両手が動き、沙希の肩へと掛かる。このまま引き離されてしまうのか、その手の意味するところを 内心怯えながら時を待つ沙希。しかし、拒むでも受け入れるでもない大地の手に、ああして欲しい、こうして欲しいといった欲望を沙希が全て捨てた時、ゆっくりと変化が起こった。両肩に乗せていた手が 次第に動き、すっぽりと優しく沙希を包み込んだ。そして沙希の髪を撫でる様に 大地の右手が頭を包んだ。それは昔の二人には良くあった光景で、大地が沙希を慰める時、『良くやった』と褒める時、『ありがとう』と言う時、そして『ごめんな』と言う時、全てこうやってスキンシップを取ってきた。北海道の夏の夜風はさらりとしていて、爽やかに二人を包んでいった。そしてようやく二人が“会話が無くても心地良い関係”に戻った時、大地のGパンのポケットで携帯が震えた。音や時間など 二人を邪魔する物が一切ないと思えた一瞬の空間に割り込んできた一本の電話。振動に驚いて、思わずお互いの体が離れる。

「ああ・・・今出先。うん・・・人と一緒なんだ。話?・・・今日はもう遅いから・・・」

すぐに電話の相手が千梨子だと分かった。仕方のない事で、分かっている筈なのに、千梨子と話している大地を見たくない思いで 沙希は少しその場を離れた。通りに出ると小樽運河が通っていて、ガス灯の揺らめきの元でカップル達が思い思いの時を過ごしていた。土曜の夜とあってか、沙希が待ち合わせに訪れた時よりも 人影が増していた。こうやってここを千梨子と腕でも組みながら歩いたのかなと思うと、沙希の中の嫉妬の悪魔が顔を出す。その時、電話を終えた大地が後ろから声を掛けた。

「ホテルまで送ってくよ。車、そこに停めてあるから」


 初めて乗る大地の車にドキドキしながら、助手席へと深く沈んだ。車内のどこかに千梨子の影があるんではないかと 暫くキョロキョロ眺めてみたが、それらしき物も見付からず 殺風景な車内に安堵するのだった。

「大地の運転、これで二度目だね」

「あぁ・・・。あん時の桜・・・綺麗だったな・・・」

言葉は少なくても通じ合えるお互いの関係に、沙希は大変居心地の良い“自分の居場所”を感じていた。大地の空いた左腕に、沙希が腕を絡め 寄りかかる。こんな事が自然に出来たのも、きっと言わずとも知れた何か引き付け合うものを感じ取っていたからに違いない。

 信号待ちをしていた時、視線の先に 沙希の予約したホテルが目に飛び込んできた。

「もう少し・・・一緒にいたい」

すると大地は 何も言わずウィンカーを出し、信号が青になると 車は右折し ホテルは視界から消えていった。それから二人は、小樽の街を夜のドライブへと出掛けて行った。大した会話もないまま、ただ車は走り続け、そして沙希は ただ今この瞬間に酔いしれていた。出来る事なら この手で時を止めてしまいたいと本気で願い、ふと時計を見ると2:38を示していた。無機質なデジタル表示と血の通わない蛍光色がチカチカと無情にも時を刻んでいた。容赦ないスピードで今が過去に、そして未来が今に次々と近付いて襲ってくるのを、沙希はただ無抵抗に待っているしか術はなかった。

「私、まだ明日の飛行機のチケット取ってないんだ。夕方にでも空港に行こうかと思ってて・・・。それまで時間あるんだけど・・・大地、明日・・・仕事?」

「明日、姉貴んとこが子供達連れて遊びに来るんだ。俺あいつらにプール連れてってやるって約束してて・・・さ」

沙希の相槌代わりの笑顔もひきつっていた。今日四年振りに二人きりで過ごした この何時間かで、沙希は大地の気持ちを充分感じ取っていた。しかし やはり大地の立場からは、何の先の約束も 決定的な言葉も聞く事ができない辛さに、沙希は打ちひしがれていた。

「大地 前にさ『北海道連れてってやりたいなぁ』って言ってくれたでしょ?これで約束果たしてもらっちゃったね」

助手席で明るくそう話す沙希につられ 大地も顔を緩めるが、目の奥がとても淋しそうに映っていた。

何か一つ、次に大地に会える時まで 自分を支えてくれる決定的な証拠が欲しいと、沙希は大きな賭けに出た。車がホテルの前に辿り着き サイドブレーキを下ろした時、沙希が大地の手を上から握った。そしてじっと大地の顔を見つめた。空気を感じた大地が 沙希の方へ顔を向けた時には、もう二人の影は重なっていた。唇が離れた後も名残惜しむ様におでこをつけて 相手を傍に感じていると、沙希が口を開いた。

「大地・・・。部屋・・・」

そう言いかけて、大地が言葉を遮った。

「沙希・・・」

それは、せめてもの大地の優しさだった。

そして元通りのシートに落ち着くと、今度は軽いトーンで大地が言った。

「明日、気を付けて帰れよ」

「ありがとう。私・・・信じていいんだよね?」

ここでもっともらしく笑顔で頷いてみせたりしないところが大地らしく、沙希もそれ以上問い詰めたりしなかった。

「また・・・来てもいいかな?」

ようやく大地は小さく頷いた。それだけで、いっぺんに心が晴れ渡る沙希だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ