女王
初投稿です。
試しに書いてみたのですが、読んでいただけると光栄です。
第一話 「女王」
ある夏の暑い午後。少年は、終わりの見えない忍耐に堪え兼ねて、グラウンドを飛び出した。
そこは私立K高校の校舎3階。二人の少年が出会った。
「抜け出してきたのか。無理して走らせる方も馬鹿だが、わざわ
ざそんな部活に所属している君はもっと馬鹿だ。」
「文学少年にだけは言われたくないな。名前は?」
文学少年は愛読書を机において答えた。
「遠山春斗だ。君は?」
「朝倉健。こんな暑いのによく爽やかに本なんか読めるね。」
「帰るのにも暑いからな。日が傾くまでは学校にいる。」
朝倉は練習に戻らなきゃと、スポーツドリンクを手に駆け出した。
彼はK高校サッカー部に所属する一年生。
入学後と比べれば少しは部内での地位は上がってきた方だ。
一方の遠山は青春を専ら読書に捧げるインドア派。
かといって友人関係に難がある訳でもなく、彼なりに高校生活を楽しんでいるようだった。
遠山が延々と読書を楽しんでいる頃、グラウンドではサッカー部の女監督、高坂薫の厳しい指導が続いていた。
「朝倉ぁ!たるんでいる!グラウンド十周!」
朝倉は大きな声で返事をし、棒のようになった足を引きづりながらも必死に走った。
「朝倉、また走ってんぞ。」
「ありゃ薫さんに嫌われたな。退部も近いかも?」
「可愛い顔してえげつないことするよなあ。」
サッカー部一年連中での高坂監督の人気は凄まじいものだった。
彼女のキャラ設定は、ツンデレ。
しかしあくまでそれは部員が設定したキャラクターであり、実際に彼女のデレを見た者はいない。
練習後、教室へ荷物を取りに帰った朝倉を待っていたかのように、遠山が声をかけた。
「無様だなあ。ドS美人監督にこき使われて。まるで女王と奴隷のよう...。」
遠山の挨拶代わりの皮肉を遮るように、朝倉が口を開いた。
「うるさい!それ以上言うな。」
遠山は冗談で言ったつもりの言葉に反抗されて少し戸惑っていた。
夕方6時。夏真っ盛りという事もあり、校舎にはまだ西日が差し込んでいた。少年が二人。最寄りのH駅へと歩く。
「なんでさっき、あんなに怒ったんだ?」
教室での出来事について、遠山が訪ねた。
「あまりにもお前の言う通りでさ。本当、俺なんかサッカー部にとっちゃ奴隷みたいなもんさ。」
「我が校のサッカー部は伝統が長く、実力もある。スポーツ推薦で入学した生徒もいるそうじゃないか。そんなチームの一年生なんだから、仕方ないんじゃないのか?」
遠山は友人を慰めるように言った。
「そんなの言い訳にはならないよ。K中学から内部進学した選手だって、二年チームに混ざってやっているのもちらほら。このままじゃ、負け組か。」
そんな弱気な朝倉を驚かせたのは、彼の幼馴染み、佐藤恵子だった。隣の駅にある私立N高校に通っているらしく、H駅にある家へと歩いているところを、偶然、朝倉一行と遭遇したのだ。
「なあに落ち込んで歩いてるの?朝倉健くーん。」
中学卒業以来に見た幼馴染みの顔だったが、すぐに朝倉と判断したらしかった。
「恵子!久しぶりだな。元気か?」
「私は元気に決まってるでしょ。健はどうなの。」
「俺は...。まあぼちぼちさ。あ、こいつ。今日知り合った。クラスメートの、遠山...。」
顔を見つめられた遠山が答えた。
「春斗だ。よろしく。朝倉君とはどうやらクラスメートだったらしい。君は?」
「私は佐藤恵子。健の幼馴染みです。よろしく。」
恵子の美しさに、遠山は顔を赤らめながら言った。
「じゃあまた今度。縁があれば。」
二人は恵子と別れてからのもの、一言も話さなかった。
変に意識しているところを見られた朝倉も、初対面で彼女に見とれてしまった遠山も、お互い恥ずかしかったのだろう。
「女王様とのSMプレイ、せいぜい楽しめよ。」
そう言って遠山は朝倉と反対方向の電車に乗った。