0.5 始まりの最後の闘い
静まり返った瓦礫の街跡。
日は傾き出している。
振り返るな。
仲間たちの屍が転がる。
もう深追いはこれまでだ。
瓦礫の建物に背を預け、隣に座る真壁レイジの息遣いさえ聞こえてきそうな程、静寂に包まれた中で、雨霧志貴は己の武器のハンドガンを充填した。
「…志貴。」
真壁は前を向いたまま、志貴の名前を呼んだ。その傍らには彼の武器のショットガンが抱えられている。
「何だ?」
志貴が答えると、真壁はショットガンを地面に置いた。マスクのため、声はくぐもっている。
そして、ゆっくりこちら側を向くと、真壁は志貴の背中に手を回し、抱きしめた。
「真壁…。」
真壁の肩越しには、何処までも荒廃したかつての街がある。
「志貴、無事に帰れたらさ、」
無事に、帰れたら
その可能性が極めて低い、ということはお互い理解している。
「無事に帰れたら……俺と、結婚してくれ。」
「……!」
驚く志貴を真壁はゆっくり離し、しっかりと真剣な目があった。そして、お互いのマスクの上からであるが、真壁は優しいキスをくれた。
「何で、そんな顔してるんだよ。もしかして、嫌、だったか?」
嫌なんかじゃない。ただ、
驚きと照れにより、言葉が出なかっただけだ。
「……馬鹿が。」
わざと毒づき、志貴は真壁から視線をそらす。
「そういう事は、帰れてから言うんだな。だから、」
だから
「無事に帰れたら、もう一度、」
志貴は視線を真壁に戻す。
もう一度
「同じ言葉を待ってるよ。」
皮肉っぽく、笑顔を見せた。
「志貴…。」
真壁も志貴に微笑みかけ、その大きな両手で志貴の頬を包んだ。
「さて、行くか。」
日が暮れかけている。
もう、後には戻れない。