99.羽柴家vs北家(結)
フラッシュオーバーとは。
消防庁研究センターが定めるところによると、"室内の局所的な火災が、ごく短時間に部屋全域に拡大する現象の総称"であると言われている。
羽柴灯火の"瞋恚の炎"も似たような理屈であった。
彼は血液の供給機関である心臓を灰燼と化すことで。
より高温高熱の液体を送り出すことに成功した。
さらに血液の通り道までをも延焼させることにより、ごく短時間で末端神経まで行きわたらせることが出来たのである。
まさしく。
彼の体内では大規模火災が起きている。
富士宮正二の熱暴走。あれの強化版だ。
びゅごおッ! そう一陣の風が吹いた。
それは螺旋を描くように回転し、暴力的に吹き荒れた。
局所的に凍結を免れた風呂に、氷の破片が飛び込む。
それを契機にして、浴槽はスケートリンクになった。
背中を上にして浮かんでいた正二もろともである。
それだけではなかった。
カランの吐出口は凍って、氷柱をつくっていたし。
濡れたタイルも、氷の膜を張っていた。
洗面用の鏡にはひびが入っている。
「暗条」
灯火の両手に、棒状の細い筋が握られた。
それは暗い色をした火炎であった。
「決戦槍」
舳艫の両手には、深紅の氷槍が握られている。
それは紛れもない彼の血肉であった。
じり、と。
両者は視線を交錯させた。
渦を巻くようにして発生する暴風域。
「五月雨式氷筍」
そう舳艫が床に手をつく。
タイルからは巨大な猛牛のような氷筍が出現し。
荒々しく灯火に襲いかかった。
しかも機関銃を連射したような量である。
「火災旋風」
灯火はそう扇を薙いだ。
(暗条は彼の肉体から噴き出るガスによって燃焼しているため、手を放しても落ちることはない)
まるで強大な竜が紅蓮の火炎を吐いたような光景だった。
その熱波はタケノコを焼き払い、そのまま舳艫の元へと駆けた。
「永久凍土壁」
北家の刺客はそう一瞬で防御壁を築く。
灼熱と氷壁がぶつかり、煙幕状に霧が発生した。
「熱探知」
「冷探知」
永久凍土と瞋恚の炎が、ついに、交わった。
決戦槍と暗条が、刃を交えた。
雷光一閃。
灯火の暗条は、舳艫の上半身を焼き尽くしていた。
北家の末裔は、跡形もなく、灰燼に帰したのだ。
舳艫の決戦槍は、灯火の上半身に傷一つつけられなかった。
しかし東家の末裔は、おのれの炎熱によって、今度こそ焼き尽くされてしまった。
炎熱病で落命した羽柴槐と同じように。
2つの肉体は、消し炭と化したのだった。
勝者:なし。
敗者:羽柴灯火、羽柴舳艫、富士宮正一、富士宮正二。(全員死亡)
(注)全員死亡に虚空は含まれていません!




