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四つの扇  作者: オリンポス
6章:竜驤虎視の南家と北家!!!!!!
93/101

93.藤原家vs南家(転)

 藤原道草は、背中に冷たいものが這うのを、黙って感じていた。

 羽柴土竜。

 彼は戦闘能力ひとつ取っても、化け物だ。

 いくら場慣れしていても、あそこまで堂々と、あそこまで不遜に振る舞えるだろうか。


 加えて、あの洞察力。

 孔雀の負傷をたやすく看破して見せた、あの慧眼けいがん

 まるっきり、一部の隙もないではないか。


 つぅ、と。脇の下をいやな液体がなでた。

 これは、戦闘などといった生易しい状況下ではないのだと悟る。

 これは、ただの虐殺であった。


「孔雀。美沙と典嗣を連れて、逃げろ!」

 道草は敵をにらみつけたまま、怒鳴った。

 苦痛にさいなまれながら、横を通り過ぎる孔雀。

 保険屋は今鏡の能力で、すぐに回復させてやった。


「さて」

 そう土竜は天を仰いだ。

 まるで道草など眼中にないと言わんばかりに。

「そろそろ前戯は終わりにしようか」

 彼は、南土扇を横なぎに振った。


土達磨クレイフィギュア


 突然、道草の足元が、陥没した。

 ぐらりと体勢を崩し、かがみ込むと。

 周囲の土は盛り上がり、覆いかぶさるようにして降ってきた。


「色即是空」

 道草は今鏡を発動させる。

 それに構わず土の塊は、道草の全身を包み込んだ。

 息ができない。そして、重い土だった。


大地圧搾グラウンドプレス

 ばき、ごき、ぐしゃ、めきぃ、と。

 鎖骨、胸骨、肩甲骨、上腕骨、胸椎、尾てい骨……と。

 大小さまざまな骨組みが、一度に砕ける。

 痛覚を消し去った道草の脳内は、それをたしかに記憶していた。


 青白い月光が、その様子を、官能的に浮かび上がらせる。


 やがて、固い意志を持って襲い掛かった土が。

 糸を切られた操り人形のように、地面に落ちた。


 道草は軟体動物になっていた。

 精一杯見開かれた眼球は飛び出し、のっぺらぼうに鼻はつぶれ。

 口腔からは赤黒い臓物を吐き出し、ぺしゃんこになった腹部には、まだ臓器が残っていた。

 ちり紙の下肢からは、赤く染まった白い棒が、無残にも突き出ている。


「ふむ、ウォーミングアップにもならないか。やはり扇を使うべきではないな」

「空即是色」

「む?」

 不意に、死体のほうから声がした。

 あわてて振り返る土竜。しかし、だれもいない。

 軟体動物が1匹、朽ち果てているだけだった。


 気のせいか。土竜はそう首をかしげる。


「我々の姿を形作っているもの、これすなわち空であり。

 我々の容姿を定めているもの、これすなわち色である。

 色すなわち空。空すなわち色なれば、我の肉体は何度でも蘇る」


 気のせいではなかった。姿なき敵が、どこかにいるようだ。


最良体調全回復ベストコンディション


 今鏡だった。

 "鏡の中の"無傷な藤原道草が、しゃべっていたのだ。

 その道草が、軟体動物と入れ替わりに現れた。


「色即是空は鏡の中の自分と入れ替わる大技であり」

 新生・藤原道草は、そう静かに、土人形に突き刺さった例のナイフを引き抜く。

「空即是色は鏡の外の自分と入れ替わる大技だ」

 そして迷いのない目で、刃物を構えた。


「面白い」

 土竜はそう感嘆の声をもらした。

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