9.素手喧嘩対決
「テメー、覚悟はできているんだろーな!」
きつく握りしめた灯火のこぶしが、小刻みに震えている。
「東家の者よ、場所を変えよう。こんなところでは戦いにくいだろう?」
ポンチョ姿の青年は相変わらず無視をし続けた。
――が。
灯火はそんなことは気にせずに、青年の後頭部をつかんだ。
それを手前側に引いて――斜め下方に押し倒す。
青年は前方につんのめった。灯火は足払いをして青年を転倒させた。
ポンチョ姿の青年は顔面部から地面に叩きつけられた。――受け身すら取れなかった。
「ふふっ、血の気が多いな。東家の者よ。楽しいではないか」
先制攻撃を仕掛けられたが、まるで動じることなく青年は立ち上がる。
「まずはお互い、名乗ろうではないか。オレは南家の跡取り、羽柴土竜だ」
「知るか、ボケッ!」
ニヤニヤと笑っている土竜のアゴに。
灯火はジャブを仕掛ける。
が――避けられた。
「腕が伸びきっているぞ、東家の者よ。それでは拳の戻しが遅くなる」
「なっ……」
腕を戻そうとするが、もう遅かった。
灯火の左肘は。
土竜の右手によって。
がっしりとつかまれていたのだ。
「ぐっ!」
灯火の顔に苦痛の表情が浮かんだ。
左肘の骨が――今にも砕けそうだった。
土竜はそれほどの握力で、灯火の左肘を圧迫していたのだ。
だんだんと左手が麻痺していく。
灯火は身体を上下左右に振ってみたが、土竜の握力からは逃げられなかった。
灯火の腕――柔らかい血管部分に、土竜の親指が食い込んだ。
骨の圧迫とはまた違う。肉をつぶされるような鈍い激痛が、灯火の脳内を支配した。
「うぐぁ……」
声にならない声が、意図せずしてこぼれ落ちる。
灯火は左肘を曲げて、直角にした。
土竜の右手がすこしずれて、エルボーを抑えつけるかたちになる。
しかし、土竜の親指はさらに深く突き刺さり。
肉をつぶされる痛みは、尋常ではないレベルにまで達した。
「うおぉぉぉぉぉッッッ!!!!」
涙目になりながらも、歯を食いしばって。
灯火は激痛に耐える。
「うがぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
左膝も直角に曲げて。
灯火は――。
「ぬうぉぉぉぉぉッッッ!!!!」
肘と膝で。
土竜の右手をサンドイッチにした。
その衝撃で土竜は手を離した。
――サンドイッチによる痛みは皆無だった。
一方の灯火は、勢いよく肘をぶつけたため、腕がじんわりとしびれていた。
「んんんーッッッ!!!!」
灯火は――肉の痛み。骨の軋み。腕のしびれをこらえながら。
「俺の名前は羽柴灯火だーーーーッッッ!!!!」
と。
荒々しく名乗りを上げた。
土竜にとって、不足はなかった。