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四つの扇  作者: オリンポス
6章:竜驤虎視の南家と北家!!!!!!
89/101

89.三十面鏡峠にて

「今回はどうされますか?」

 黒いスーツに、白の手袋をつけた彼は、アクリル板越しに行き先を尋ねてきた。

 車内のバックミラーからのぞく顔は、人好きのする赤ら顔である。

「N総合病院までお願いします」

 虚空はそう乗車する前に行き先を告げた。

 そのあとを灯火、正二が続いた。

 最年長の正一は運転手の隣に腰を下ろした。


 タクシードライバーは無線でなにやら報告を済ませてから、自動車を駆動させた。

 暗い夜道だけあって、人通りはほとんどなかった。

 

「しかし、お客さんも物好きですねえ」

 すこし走らせたところで、運転手はぽっちゃりとした肥満顔をよろこばせた。

「ここの峠道は猟奇的な殺人鬼が出没するらしくって、警察以外はほとんど立ち寄らないんだよ。もしかすると君たちも餌食にされるところだったかもね。言うならボクは救世主だ」

 彼はけらけらと笑ってステアリングを操作する。

 当事者である藤原孔雀はべつのタクシーに分乗していたが。

 それでも客たちは笑えないジョークに肝を冷やした。


「なあ、ひとつ訊いてもいいか」

 灯火はデリカシーのない運転手に気付かれないように、小さく言った。

「俺のじいちゃんを殺したのは、藤原孔雀なのか?」

 静かなエンジン音に、無線の雑音がまじる。

「じいちゃんとは一度だけ手合わせをしただけなんだけどさ」

 料金メーターがこそこそ数字を増やしていく。

「あの程度のやつに殺されたとは、どうしても考えにくいんだ」 

 虚空があてどもなく視線を泳がせた。遠回しな表現を探っているのだろう。

 だからそれに答えるのは。

 いつか灯火に『理不尽野郎』とののしられた、彼の役目であった。


「槐さんが死んだのはお前のせいだよ、灯火」

 ぽつり、と。

 抑揚のない声で富士宮正二は言った。

「槐さんはお前の病気を肩代わりしたせいで、亡くなったんだ」

 まるで朝ごはんのメニューを告げるような。

 なんでもない調子で話すのだから、灯火は思わず聞き逃すところだった。


「え」

「わかるか。お前が内的エネルギーの習得を怠ったせいで、槐さんはご逝去されたんだ」

 内的エネルギーうんぬんはともかく、正二が語気を強めたのを察して、虚空はフォローを入れた。

「まあまあ。灯火だって死中に活を求める状況だったわけだし……」


「俺の、せい……」

 だが灯火の耳には届かなかった。

 彼はうわごとのようにつぶやく。

「俺の、せいで……」

 運転手は敏感に異変を感じ取ったのか、バックミラーでこちらに目を向けた。


「そうだ」

 正二はダメ押しのように肯定する。

「だが忘れるなよ」

 そう打ち沈んだ不遇者に語りかける。

「お前はひとりぼっちじゃない。俺はお前の実兄だ」

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