表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
86/101

86.羽柴灯火vs藤原孔雀⑥

 空が白み始めてきた。

 それとほぼ同時に。

 どくどくと脈打つ右手の中指にも痛みが戻ってきた。

 アルコールが切れたせいだろう。

 頭脳も冷静さを取り戻しつつあるようだ。


 藤原孔雀はひとつ、深呼吸をした。

 山の空気はおいしい。

 東京の水はまずいと聞いたことがあるが、それを言うならば酸素も同じだ。都会の人間は排気ガスを吸って生活しているのかというくらい、ここの空気は淀んでいる。


 孔雀はまたひとつ大きく息を吸い込んで、下山を開始した。




「よう、待ってたぜ!」

 ちょうど山の中腹であろうか。

 1軒のあばら家が目前にせまったところで、羽柴灯火は腕を組んで直立していた。

 その表情にはどこか余裕すらうかがえる。


「お待たせしてしまい、申し訳ないな」

 孔雀はそう軽く応じるも、不穏な気配を感じずにはいられなかった。


 灯火にとって、戦況はなにも好転してはいないはずだ。

 微に入り細を穿つならば、舞台装置が変わっただけである。


 たったそれだけで、ここまで大胆になれるだろうか。


 だれかの入れ知恵によるものか?

 それともハッタリか……。

 どちらにせよ、カマをかけてみるしかあるまい。


「俺はてっきり、逃げたものだとばかり思っていたんだがな」

「ああ、もちろん。最初はそのつもりだったさ」

「最初は、ということは、つまり……」

「ああ、勝算を見出したから、ここで待っていたのさ」

「なるほどな……」


 その刹那――孔雀は跳んだ。

 彼我の間合いを、一瞬で殺したのだ。

 そして頭から突っ込むようにして、相手を押し倒す。


 思考回路が読み取れない不気味な相手には。

 速攻を仕掛けるのが定石だ。そう考慮してのことである。


 両者はきりもみ回転をしながら、あばら家の中へと吸い込まれていった。


 ひどくホコリが溜まっていたせいで、それらが一気に宙を舞った。

 おかげで濃霧の中にいるように視界が悪くなる。


「いや、これはホコリだけじゃない」

 孔雀はすぐに気が付いた。

「この白煙は……」

 脳内を、閃光が駆けた。

「小麦粉だ」

 室内。小麦粉。炎熱系。

 これらの単語を組み合わせると。

「まさか、粉塵爆発か!」

 孔雀は相手の作戦、その全貌を理解した。


「逃げなきゃ!」


 しかし、きりもみ回転をした際に。

 三半規管を激しく揺さぶられたせいで。

 反応が、ほんのすこし遅れた。


 突如、狭い箱の中に爆発音が鳴り響いた。

 その爆風は未燃焼の粉塵を舞い上げ、次々と誘爆を引き起こす。


 爆発が止む頃には、四方を固められていた。

 羽柴灯火だけではない。

 実妹である藤原美沙。おじに相当する藤原道草。白内障と思しき老年男性。孔雀と同い年くらいの青年。そして女子大生。

 このような面子が集結していたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ