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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
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84.羽柴灯火vs藤原孔雀④

 息を切らして肉体を駆動させる孔雀。

 乾いた空気が肺に厳しく襲いかかる。

 すこしでも気を抜けば、むせ込んだことだろう。


「このクソ親父!」

 関節の外れた中指が、急速に体温を失っていく。

 だが、大鏡には自己暗示系の能力はない。

 思い込みによって自分の骨折を治すことは出来ないのだ。


「今更なんなんだよ」

 健全なほうの左手で。

 孔雀は自分のふとももをぶん殴った。

「帰りてぇよ……」

 そう幼い青年は、固めた拳を何度も振り下ろす。

「帰っていいなら、そうするよ」

 大腿四頭筋がリズミカルに痙攣してきた。

 ほとんど条件反射だ。


「檻の中の獣は、俺なのかもしれねーな」

 そう千本鳥居ならぬ、千本凸面鏡に向かって、今の自分を投影する。

 幸い自分を映す鏡なら、嫌というほどしつらえてあるのだから。


「まるで江戸川乱歩の鏡地獄だなー。まあ読んだことねーけど」

 少年の声が聞こえてきた。

 カーブミラーを使うまでもない。その声の主は、先程の暴漢だ。

 歩いてきたのだろうか。疲労はだいぶ回復したように見える。


「ずいぶん執拗だな。なぜ俺にこだわる?」

「放っておけねーからだ」

「俺の親父の言うことなんか、無視すればいいだろ!」

「それだけじゃ、ねーんだよ」

 灯火は歯切れ悪く、言った。

「お前、じいちゃんを殺しただろ」


「えっ?」

 殺しただろ。

 そう言われるとなんだか殺したような気がしてくる。

 実際に孔雀が殺したのは、トレンチコートを着た不動産屋の若社長だけではないのだ。

 ほかにも何人か殺している。生きるため。現金を奪うため。

 だから。

「ああ、そうだよ」

 そう、頷かざるを得ない。


 羽柴槐が孫の病気を肩代わりして死んだことなど、目の前にいる少年同様、知る由もないことだから。


「だったらテメーのことふんじばってでも、連れ戻さなきゃなんねえよなあ」

 相手の声色が、変わった。

 先程よりも敵愾心がこもっている。

「親のところにでも刑務所にでも、好きなところに行きやがれッ!」


 閃光花火、と。

 暴漢は指を鳴らした。

 孔雀は思わず、音の発信源を見てしまう。


 それが罠だとも気付かずに。


「しまった……」

 突然、視界が真っ白に染まる。

 不随意反射による瞳孔の収縮はまぬがれない。


 やられた。まぶたの裏まで熱い。


 羽柴灯火は指パッチンで視線誘導をし、手元を強く発光させたのだ。

 たとえるなら閃光弾。

 それによって孔雀は視覚を奪われた。


「ちぃ」

 片手で顔面を抑えて。

 もう片方の手を横なぎに振るう。

 威力はないが、牽制のつもりで。


 しかし。


燃焼型猛打掌バーニングストライク

 耳小骨に振動が伝わると同時に。

 アルコールを分解しているはずの肝臓が、かっと熱くなった。

 少年の灼熱の拳が、がら空きの胴体をぶち抜いた。


「がっ。は……」

 そう膝から崩れ落ちる孔雀。

 脳内では舌先三寸による虚言を、必死に構成していた。

 この劣勢をひっくり返す、虚言を。

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