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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
83/101

83.羽柴灯火vs藤原孔雀③

 ウイスキーが効いてきた。

 孔雀は目の前でひざまずく羽柴灯火を眺めて、つくづくそう思う。


 痛みが薄れてきたのだ。

 骨折した右手の中指が腫れている。

 それにはちょっとした拍子に、何度も気付かされた。

 しかし、肝心の痛みがやって来ない。

 永久に続くはずの痛みが、ぷっつりと、途中でなくなっていた。


 これは、良い感じに酔いが回って来た証拠であろう。


「おいおい、もう降参か!」

 孔雀は好機を逃さず、畳みかける。

「これからが俺の本気だぜ」

 大鏡の発動をうながすために。

「ガチでやるんだろ。骨折くらい我慢しろよ」

 最後は自分への激励だった。


「ああ、そうかい」

 灯火は肩で息をしながら、立ち上がった。

 ここまで走ってきたのだろう。

 その動作からは疲労がにじみ出ている。

「だったら俺も容赦しねーぞ」

 東炎扇に、後ろ手で触れた。

「喰らえ……」

 ひどく緩慢な挙動で。

「焼暴弾」

 彼は、東炎扇を横一線に薙いだ。


 孔雀の眼前に、巨大な火球がせまる。

「ふん」

 しかし、動じない。

 腕を組んだ姿勢で、仁王立ち。

 あのときの修羅場に比べれば、生ぬるかった。

「俺に炎熱は効かない。よって衣服も燃えない」

 そう孔雀は、念じるように話す。


 膨大な熱の集合体が、孔雀の皮膚に、ぶつかった。

 炎熱が、顔面もろとも被覆ひふくしていく。

 酸素を燃やす音が、鼓膜に伝わり。

 まばゆい光が視界をふさいだ。


 だが、熱くはない。


 焼暴弾のアフォーダンスを操作することで。

 人体および衣服の燃焼を、無効化したのだ。

 無機物に意思はない。なればこそ、そのベクトル操作はたやすかった。


 火の玉が、孔雀の身体を透過した。

「ふ、ははっ」

 気高く哄笑するつもりが、息が続かない。


 一瞬とはいえ、燃焼する物体の中にいたのだ。

 空気が、圧倒的に足りなかった。

 ただでさえ、酸素を渇望する戦闘間である。

 こうなるのも必然と言えた。


 それでも孔雀は。

 ままならない思考回路で、大口を開けた。

「きかねえよ」

 空気が漏れる。うまく発声ができない。


 ばきぃ。


 ようやく脳に酸素が供給された。

 カーテンに覆われたような視界が、クリアになる。

 秋の四辺形が、夜空に浮かんでいた。


「わわっ」

 急いで上体を起こす。

 立ちくらみをおさえて、無理に立ち上がると。

 鼻から、液体が垂れた。

 鉄さびの臭いが地面に染み込む。


 塩っ辛い成分を舌でなめとって、顔を上げる。

 羽柴灯火は無言で、それを睥睨(へいげい)していた。


「投降しろよ。お前じゃ俺には勝てない」

 彼はそう鼻を鳴らした。


「俺は、帰らねーぞ」

 孔雀はそうきびすを返した。

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