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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
80/101

80.あの日⑤

 凶弾が、孔雀の衣服を貫いた。

 ぎゃっという短い悲鳴。

 どさっと重たい物の倒れる音を、男はたしかに聞いた。


「ふんッ!」

 銃口から流れる火薬の臭いを嗅いで。

 男は静かに銃を下ろす。

 その鋭い眼光は、黒々としたシルエットを映し出していた。

「口ほどにもない」

 そう大きく嘆息し、散弾銃を肩に担ぎ直す。

 負い革がきつく、二の腕に巻きついた。

 その強烈な締め付けに、手の甲が白く冷たくなるのを感じた。


「ちっ!」

 男は思わず舌打ちをし、表情を曇らせる。

 台尻から伝わる発砲の衝撃が、まだ肩口に残っていた。

 獣を狩るときには味わえなかった衝撃だ。


 男は気持ち悪いものを振り払うようにして、大仰に身体を揺らした。

 血なまぐさいリアルな質感が、まだ人差し指に残っているが。

 色彩のない宵闇は、それすらも覆い隠そうとしていた。

 物体の輪郭はすべて影となり。

 このままなにもかもが溶けて消えてしまいそうだった。


「待てよ」

 餓狼の如き獰猛な獣の気配が背中をぶっ刺した。

 男はあわててスリングをつかむが。

 亡者のように絡みついたそれは、容易には肩から外れない。


「ひっ!」

 小さく漏れた悲鳴が、のど元を引っ掻いて出てきた。

 怖くて、振り返ることもままならない。

 男は自分の矮小さに辟易した。


 頭の中で、獲物のイメージが巨大化していく。

 やつは拳骨ひとつで、果樹に太い穴を開けたのだ。とんでもなく強いはずだ。


 そいつがまだ、生きていた!


 尻込みをすればするほどに、散弾銃がすぐに使えないもどかしさが、恐怖となって襲いかかってきた。


 同時に、野獣の臭いも近付いてくる。

「おい、こっち向けよ」

 人間の姿を模した影が、底知れぬ低音を発した。


「ひいっ!」

 足元に奇妙な浮遊感が生じ。

 男は膝からくずおれた。

「許して」

 地面に頭をこすりつけて、懇願する。

 枯れた土壌のにおいだけが。

 陰影だらけの土地に色を与えてくれた。


「お前さあ……」

 焦げた衣服を背中に羽織い、

「俺を射殺しようとしただろ」

 色のない怪物は言葉をつむいだ。


「丸めて投げた俺の服に、風穴開けてくれたよな」

「ひい、い」

 ズボンがこんもりと膨らみ、ペニスが窮屈になった。

 勃起ではない。失禁だった。

「どうするつもりだよ」

「ごめんな、さい」

 アンモニア臭が立ち込める。

 男は思い切り鼻をすすった。

 尿も色彩の一部として認識できた。


「寸劇は楽しめたか」

「ゆるして、くださ」

「許すかよ」

 茫洋とした魔物は、男から言葉を奪った。

「おねが」

「もういい」

 夜の帝王は、散弾銃を物凄い力でひったくり、

「死ね」と呟いた。


 宵闇にひとつ橙色が浮かび上がり。

 レイトショーは終演を迎えた。

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