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四つの扇  作者: オリンポス
5章:背徳と欺瞞の西家!!!!!
79/101

79.あの日④

「ふんッ! 空々しい」

 トレンチコートの男は。

「吐くならもっとマシな嘘もあっただろうに」

 そう、トリガーに指をかけた。

「よりにもよって、射出音の違いを主張してくれるとはな」

 ぐっと、背中を丸めて。

 狙いを研ぎ澄ませる。


「ウソじゃあ、ないです」

 看破されてもなお、孔雀は演技を続けた。

 騙ることでしか平静を維持できなかった。

「そんなに疑うなら撃ってみてくださいよ」

 そう、挑発するように両手を広げて見せる。

「ただし頭ではなく――」

 トントン、と。

 自らの胸を叩き。

「心臓を狙ってくださいね」


「ほう、面白い!」

 不動産会社の若社長は、短く唸った。


「ええ、1発でお願いしますよ。そうしないと――」

 孔雀はくるっと振り返り、柿の木に正対した。

「この木と同じ目に遭わせますからね」


 大鏡よ、孔雀は念じた。

 “俺の拳は鉄のように固いんだ”

 “柿の木は朽ちていて、中身は豆腐のようにスカスカだ”

 “だから一撃で、この木に風穴を開けることが出来るんだ”

 そうイメージする。

 成功のイメージを固める。


「らぁ――ッ!!」

 満を持して。

 柿の木を、殴った。

「必殺、豆腐にかすがい

 ダサい技名も、しっかりと呼称した。


「なにしてやがる」

 男は散弾銃を肩から外し。

 呆れたように孔雀を眺めている。

狙撃手おれに背を向けやがって! なんのつもりだ」


 めこぉ、と。

 孔雀の拳骨が木の幹を貫く。

 そして宣言通り、木の中心部にトンネルを開通させた。

「ど、どうだ」

 そう誇らしげに、果樹を指さす。


 今の衝撃で、孔雀の手首は炎症を起こしていたし。

 拳骨においても、表面の皮膚が裂けて、うすく骨がのぞいていたが。

 そんなことはおくびにも出さない。ただ、ホラを吹き続けるだけだ。


「あなたの土手っ腹にも風穴を開けてやりましょうか!」


 しかしこの、孔雀の自傷行為は無駄ではなかった。

 痛みと引き換えに、ひとつ、大鏡の能力を学んだのだ。


 大鏡には自己暗示系の能力がない。よって、自身の身体強化は不可能である。


「ふんッ!」

 男は鼻を鳴らし、トレンチコートの肩口に銃を依託した。

「なにをするかと思えば、とんだ茶番劇だったな」

 そう、鮮血したたる孔雀の指先を一瞥して、照準する。

「安心しろ! すぐ楽にしてやる」


「ちゃんと狙えよ。心臓を」

 念を押すように、繰り返す孔雀。

「そうしねぇと……」

 飛び出す。標的目掛けて。

「ぶっ殺すぞ!」


 日は暮れた。闇が満ちる。

 終わりはもうすぐそこだ。

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